第5話 作ってみたいな

 

「翠さん……あのね、私……できるか分からないけど、魔法石を作ってみたいの」


「魔法石をか?」


「うん。それでね、魔法石の……アクセサリーを作りたいなって……」


 私の申し出に、翠さんは私の想像以上に、嬉しそうに顔を輝かせた。


「そうか! こはくはアクセサリー作りが好きだったもんな。俺がいない間もあっちで作ってたのか?」


「作ってたよ。ピアスとかブレスレットをメインに、他にも色んなのに挑戦してて……まぁ、全部置いてきちゃったけど……」


 たはは……、と家に残してきた自作のアクセサリーを思い出して、苦笑いをした。ハンドメイドアクセサリー専用のサイトで販売しようと、せっせと夜な夜なストックを作っていたけど、また1から作り直しだ。


「驚いた。コハクも魔法石を作りたいっていうなんてね。これも血筋なのかな?」


 レオン様がそう言いながら笑っている。


「え、それって……翠さんも?」


 私が驚いた顔で視線を向けると、翠さんは頭をポリポリと搔きながら「まぁな」と笑った。


「俺はアクセサリーに特化してるわけじゃねぇけど、こっちで魔法石作りに結構ハマってな。俺も家でシルバーアクセサリーを作ってただろ? そのおかげか、魔法石作りにもすぐ身体が馴染んでさ。だからこはくも魔法に慣れれば作れるようになると思うぞ」


「ほんとにっ!? だったら嬉しいな……!」


 普通のアクセサリー作りでも十分楽しいのに、更に石へ色んな魔法の効果を込めて作れたりするのなら、組み合わせも無限大じゃない……?


「魔法石が作れる人というのは、貴重な人材なんだ。魔法石は誰でも使用できるけれど、誰でも作れるわけではないから」


「らしいなぁ。ま、俺は自分が貴重な人材とか、そんな風に感じたことはないけど」


「スイは自分の功績を気にしなさすぎだと思うけどね。じゃあこはくは基本的な魔法の勉強を兼ねて、魔法石作りにも挑戦するといいよ」


「そうですな。魔法の扱いはご自分が得意だったり向いている方法で練習した方が上達が早いですし……おぉ、ちょうど書類も無事に仕上がったようですぞ」


 神官長様は流れるように書類を確認すると、下の方にサラサラとサインをし、印を押す。その瞬間、紙が淡く金色に光ったかと思うと、すぐに消えた。


「うむ、これでコハク様の戸籍は無事登録が完了しました」


 神官長様から紙を受け取ると、そこには私の戸籍登録がしっかりとされていた。なんでか文字も問題なく読めたんだけど、これって異世界転移あるあるなのかな……? ありがたい特典なので、全然受け入れます。ありがとうございます。


 お礼を言って神殿を後にする際、見送りについてきてくれた神官長様に声をかけられた。


「コハク様、いつでも神殿に遊びに来てくださいな。そして魔法石が出来るようになったら、いつかこの老いぼれにも作っていただけますと嬉しゅうございます」


「はい、是非! 受け取っていただけると嬉しいです……!」


 私の返事を聞いて、優し気に微笑む神官長様は、まるで私を本当の孫のように見守ってくれているような気がした。


 天国のおじいちゃんを思い出して、ほんわかと胸が温かくなる。


 魔法石が作れるようになったら、神官長様にはどんなものを贈ろうか。そんな風に今から楽しみで想像が膨らむ私なのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 王宮の馬車で、翠さんのお家まで送ってもらった私達は、レオン様とはここで一旦別れた。私の魔法練習にも付き添いたがっていたけれど、騎士団長だし王子様だもん、忙しいよね。


「レオン様って、王子様だけど随分とフレンドリーだよね……?」


 レオン様が乗った馬車を見送りながら、私は昨日から思っていたことを、ぽつりと呟いていた。


「あー……、アイツは王子だけど、魔法騎士団長でもあるからなぁ。王宮よりも魔法騎士団で過ごす時間の方が多いから、結構砕けた感じなのかもな」


「そうなんだ。なんか近所のお兄ちゃんみたいで、たまに王子様ってことを忘れそうになっちゃうんだよね……」


 ほんとに、ちょっと気を緩めたらうっかりタメ口が出てきそうで……気を付けないと。


「いいんじゃねぇか? 俺もあっちの方が10以上歳下だけど、友達みたいに接してるし。んなことより、家に入ろうぜ」


「あ、はぁい……」


 私はさっきから見ないようにしていた目線をそろ~りと上げた。


 この、大豪邸にねぇ……?


 あと、さっき戸籍の書類で見たんだけどさ……ワタヤ侯爵家ってなってたんだよね……?


 翠さんってば、いつの間にか貴族籍をもらってたんだね……? 本当にこっちの世界で一体何をしたんだ……!?


「――こはくの部屋はとりあえずここな。必要最低限のものは揃ってるはずだけど、ほしい物とか家具があれば用意するから言ってくれ」


「いやいや、十分だよ……? むしろこんなに可愛いお部屋を、私が使っていいのかな」


 案内された部屋は優しいベージュや黄色、白を基調とした、温かみのあるかわいらしい部屋だった。


 私の年齢を考えるとちょっと可愛すぎかも……? って思ったけれど、正直ずっと和室で生活していた身としては、こういう部屋に憧れてたから素直に嬉しい。


「ガンガン使ってやってくれ。それだけこはくを歓迎してるって意思表示だと思うし。つーか昨日の今日でどうやってこれだけ整えたんだか……」


 翠さんは、部屋の案内の為についてきてくれていた、家令のベイマンさんに視線を投げた。


「スイ様の姪御様がいらっしゃって、これからこの家で暮らすなんて大イベントを、味気ないものにするわけないでしょう! 本日の晩餐は歓迎のパーティーを予定してますので、スイ様は黙ってフラフラ出歩かずに! 今日くらいは家にいてくださいね!」


「翠さん……」


 すっ……と、ばつが悪そうに視線を逸らす翆さんである。

 こっちの世界でも連絡なしでフラフラ出歩く癖は、直ってなかったんだね……


「分かってるって! この後はこはくに魔法について教える予定だから、家にいるよ」


 ぶつくさ言いながらベイマンさんにそう告げると、ベイマンさんはニコリと笑った。


「ならよろしゅうございました。コハク様、スイ様はこう見えても、魔法の扱いについてはこの国内でも指に数えられるほどの御方ですので、ご安心くださいね」


「アッ、ハイ」


「ったく、母さんかってくらい小言が多いんだよ……んじゃこはく、昼を食べて休憩したら、俺の作業場で練習な」


「うん! よろしくお願いします!」

  

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