第3話 エーリィと異世界の最初の夜

「ふむ、なるほど。女、このガキを殺せ」


「ええっ!!」

 ぼくは思わず声を上げた。


 ――アウトですか!? 君主アウトなんですか!?


 女性は剣を受け取り、ゆっくり立ち上がった。

 ぼくの方へ歩いてくる。

 これは………死ぬやつだ。


「人を支配するスキルは、力の大小に関わらず危険だ。隷属の魔法を上書きするほどの強制力はないが、放置はできぬ」


 もう詰んでたじゃん!

 うわあ………死ぬ前に姫ちゃんとチューくらいしたかった!

 姫ちゃんを見ると、真っ白な顔でこっちを見ている。

 心配してくれてる………うれしいけど、今はそれどころじゃない!


 剣が振り上げられた。ぼくは目をぎゅっと閉じる――が、いつまで経っても痛みはこない。


 恐る恐る目を開けると、兵士たちと偉いおっさんがの首がなくなって立っていた。

 怖い!!!

 

「え?」

「逃げましょう!」


 ぼくの手をつかみ、走り出す女性。

 一瞬のことにどうしていいのかわからない。

 

 女性が偉いおっさんの体を蹴り倒すと、首から血を吹き出しながら吹っ飛んだ。

 後ろの付き人たちの悲鳴をかき分けて扉から外へ。


 建物はそれほど大きくなく、すぐに外へ出られた。

 途中の兵士も女性が問答無用で斬り捨てていく。

 怖すぎるけど、置いていかれないよう必死に走った。


 外は夜。

 月明かりが町を照らす。小高い丘の上の建物にいたらしい。

 周囲を小さな建物が囲み、そのさらに1kmほど先に城壁が見える。

 小さな城塞都市のようだった。

 

 ――ここは日本じゃない、とようやく実感した。


 町は静まり返っている。明かりがないので、皆寝ているのだろう。

 月明かりを頼りに、ぼくたちは町はずれの城壁近くまでたどり着いた。

 壁と建物の隙間に身を隠す。


「今夜はここで休みましょう」


 体を休めると、頭の中でいろんなことがぐるぐる回り出す。

 異世界召喚のこと、自分の能力のこと、姫ちゃんやクラスメイトを置いて逃げたこと………。

 みんな、大丈夫だろうか。


 人がたくさん殺されるのを見た。

 今さら怖くなってきた。

 これからどうなるのかもわからない。


 不安と恐怖で泣いた。

 でも、一人じゃないのがありがたかった。

 彼女の温もりがありがたかった。


「ぼくの名前はアキラ。あなたの名前は?」

「私はエーリィといいます」


 エーリィに抱かれながら、ぼくは異世界最初の夜を過ごした。


 朝。

 太陽の光で目が覚めると、エーリィは先に起きていて、ぼくを抱きしめてくれていた。


 昨夜は泣いたり悩んだりしたけれど………うん、ヤることヤったら細かいことはどうでもよくなったな!

 男って、なんて単純なんだろう。


 さて、これからのことを考えよう。

 ぼくはエーリィのスキルを見てみた。

 ぼくの能力は「奴隷にすることでスキルレベルを上昇」だ。

 昨日の契約で、エーリィは強化されているはずだ。


 ――スキル:

 【死神 レベルMAX(隷属の代償)】

 【剣術 レベルMAX(隷属の代償)】

 (隷属)


 ………え? 死神? レベルMAX?


「エーリィ、自分のスキル見える?」

「はい。アキラさまのおかげで素晴らしい力が手に入りました」

「この“死神”ってどんなスキル?」

「どうすれば相手を殺せるかがわかります。害獣駆除ではネズミくらいしか倒せませんでしたが、これなら人間でもサクサクです。効率も段違いですし、すごいですよ!」


 物騒なことを笑顔で言うなあ………。

「レベルMAXって、どれくらい?」

「さぁ? 初めて聞きました」


 昨日の偉いおっさんが召喚魔法レベル15だったから、たぶん20くらいかな………?


「お腹すいた」

 空腹が思考を遮る。昨日から何も食べていない。


「町に知り合いがいます。そこへ行きましょう」


◆◆◆


【セラ教の聖女の順列で、No.1はセラではなくエーリィである。

 理由は諸説あるが、最初に神の使徒から恩寵を授かったため、というのが有力だ。


 剣のエーリィは、戦いと守護を司る聖女とて信仰される。


 聖書には、聖女セラを守護し、いつも横にいたと書かれている。】


-セラ歴1975年著- 

 セラ教の聖女たち より抜粋



◇◇◇



第3.5話 エーリィと初めての夜

https://kakuyomu.jp/users/seiyakazetsuba/news/822139838393939319

刺激が強い描写です

注意してください

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