第7話 第2戦闘ライン

 ……『ハンナ・アーレント』……




「……艦長、岩塊に取り付きました……」




「…艦長! 敵艦がまたデコイを起爆! 」




「…接近して来るのか…第2波ミサイルか?! どちらにせよ今はここから動けない……ライアン! 左舷艦尾のアンカーも発射して、艦体を固定しろ! 」




「……了解…発射! ……到達! …ワイヤーを牽いて…艦体固定……」




「……ユリアーネ! 右舷から接近中の敵対艦ミサイル3基を、ここから右舷対空ミサイルで迎撃する! 発射管開け! 発射用意! 照準セット! 」




「…了解! 対艦ミサイル3基…捕捉! ロックセット! 発射用意好し! 」




「…ってぇ! 」




「…発射! 」




 対空ミサイル3基が発射されて向かって行く。




「……右舷側半球のみでシールドアップ・フルパワー! 左舷側は艦体構造維持フィールドをフルパワーで展開! 総員は衝撃に備えよ! 」




 『ハンナ・アーレント』からの対空ミサイル3基が『ディファイアント』からの対艦ミサイル3基に接近して…その至近距離で起爆……3基とも誘爆させた。




 対艦ミサイル300基相当の爆発が起こり……まだ距離はあったが、その爆発圧は『ハンナ・アーレント』の艦体を大きく揺るがせた。




 ……『ディファイアント』……




「……第1波ミサイル…起爆ポイントまで10秒……第2波ミサイル…命中まで30秒……第3戦闘ラインに掛かるまで40秒……敵艦がこちらの対艦ミサイル3基を迎撃……3…2…起爆します! 」




 『ディファイアント』の対艦ミサイル5基が『ハンナ・アーレント』を裏側に隠した岩塊を取り囲むように起爆し、その爆発圧は5方向からかなり強力に岩塊を叩いた。




 『ハンナ・アーレント』の艦体もかなり揺るがされ…固定されていなかった物は床に落ちたりもしたが…クルーはシートに着いてベルトを締めていたので、問題は無かった……だがその10秒後に…第2波ミサイル4基が来た。




「…艦長! ミサイル第2波…4基が岩塊に命中します! 」




「…総員、自分を固定しろ! ワンツー・アタックだ! それにもう、本命が近くまで来ている! 」




 同時に、対艦ミサイル4基が岩塊に命中して木っ端微塵に爆散させた。




 凄まじく強い爆発圧で『ハンナ・アーレント』は急激に、強く、大きく流されながらクルクルと回る……クルーがシートから投げ出されるような事は無かったが、固く目を閉じ口を引き結んで耐えるだけで何も出来ない……モニターやビューワは点滅を経てオフラインになり……ブリッジや機関室でも、スパークから火花も散って……煙が噴き出たりもした。




「……被害報告リポート!! 」




「……全システムの8割がオフライン! 損傷率も不明! 」




「…損傷率は気にするな! まだそんなには高くない! …サブ・エンジンとサイド・スラスター……中・近距離パッシブ・センサーレンジだけ、何とかしてくれ! 何とかなったら…方位179マーク286に向けて転舵の上…全速発進! おそらく……今言った方位の反対方向から…敵艦は来る! 」




 その時……『水星の魔女』ザ・ウィッチ・フロム・マーキュリーが…フル・オーケストラで聴こえて来た。




「……何だ?! この曲は? ……」




「……発信源は…周囲4ヶ所です……」




「……フィールドに音楽を流す? …って…まさか! 『ディファイアント』! ダウンロードは?! 」




「……まだできません! 」




「……サイド・スラスター……サブ・エンジン…オンライン! 臨界パワー70%から上昇開始……」




「……よくやってくれた! リアム・オリアリー機関部長……発進だ! ライアン! さっき言った方位へ全速! 」




「…了解! 」




 ……『ディファイアント』……




「……『ハンナ・アーレント』……ハリエット・エイクランド艦長か……おう! シエナ副長……見付けたよ……あの艦が、5隻目だ……」




「……ファースト・ゲームの 6th・ステージまでクリアした6隻の内の1隻ですね……」




「……ああ、これで5隻まで判った…後は残り1隻だな……」




「……アドル艦長…第2戦闘ラインまで、20秒です……『ハンナ・アーレント』の損傷率は12%……爆発圧は、ほぼ遣り過ごしたようです……ほぼシステム・オフラインの状態でしたが、復活しつつあります……」




「……分かった、カリーナ……アリシア……フロント・ミサイル…5番から8番までのプログラム・セットは? 」




「……既に完了です……」




「……OKだ…4基斉射、30秒前……5秒前でセブンス・デコイ起爆……」




「…了解! 」




 ……『ハンナ・アーレント』……




「…メイン・エンジン、オンライン! 加速続行! 」




「…センサーの65%が復活! 」




「…よし! あそこに観えるふたつの岩塊の間に入って、面舵7° ! 」




「…了解! 第2戦闘ラインの内側に入りました! 」




「……やはり『ディファイアント』だったか……流石に噂通りの……いや…噂以上の艦長と艦だ……岩塊デプリの陰に入っていなかったら…今頃はもう沈んでる……まだこっちからは、1回も攻撃してないからな……何とか離脱して仕切り直さないと……」




「…ハリエット艦長! 『ディファイアント』がデコイを起爆させました! 」




「…ミサイル第3波が来るぞ! シールドは?! 」




「……ディフレクター・グリッドはオンラインですが、シールド・ジェネレーター6基の同期が採れません……もう暫く掛かります……」




「…分かった! へレーネ! センサーは出来る限り早く『ディファイアント』のミサイルを捉えろ! 」




「…了解! 」




「…ライアン! 面舵7° に切ったら12秒で取舵6° ! それで15秒走ってダウンピッチ8° に切って18秒だ! 」




「…了解! 艦長! 」




 ……『ディファイアント』……




「……艦長…5番ミサイルが間も無くです……」




「……うん……ほぼ…予測通りの動き…かな……」




 ……『ハンナ・アーレント』……




「……ミサイル来ます! 1基! 左舷後方18! ダウンピッチ7! 距離1360! 着弾まで26秒! ブースター・ミサイルです! 」




「…面舵30! ダウンピッチ8! 左舷艦首スラスター全速! 左舷対空ミサイル熱源ホーミングセットで発射! アンチミサイル粒子弾用意! 」




「…熱源ホーミングセット! 発射! 」




 急激な面舵と下げ舵を切りながら『ハンナ・アーレント』は左舷の対空ミサイル・ランチャーから対空ミサイル2基を発射した。




 『ハンナ・アーレント』の対空ミサイル2基は『ディファイアント』からのブースター・ミサイルを左右から挟み込むように接近し…20mの間合いで起爆して誘爆させた。




 爆発圧は『ハンナ・アーレント』の艦体を打って揺動させたが、コースを変えさせる迄には至らなかった。




「……ハリエット艦長…システムの98%が復調しました! 損傷率12%です! 」




「…シールドアップ・フルパワー! 『ディファイアント』と、次のミサイルを捉えてくれ! ライアン! 右舷前方に8個の岩塊が密集しているのが観えるな?! あの中に突入してジグザグで抜けてくれ! それで最後のターンは面舵30° ! ダウンピッチ8° だ! 」




「…了解! 」




「……セカンド・ブースターミサイル・キャッチ! 右舷…ほぼ真横! 距離1300! 着弾まで22秒! 」




「…右舷対空ミサイル熱源ホーミングセットで発射! エンジン停止! 艦首両舷全力逆噴射! 右舷艦首サイドスラスターと、左舷艦尾サイドスラスター全速! 一点回頭で取舵90° ! 回頭できたらエンジン始動! ダウンピッチ6° で全速発進! 無制限加速! 」




「…了解! 」




「……こっちの動きが読まれてる……これがアドル艦長か……怖いな……遮蔽は出来るようになったか?! 」




「…いえ、光学迷彩、アンチ・センサージェル、ミラージュ・コロイド…ともにまだ修理中です……」




「…回頭完了! エンジン始動! 全速発進! ダウンピッチ6° ! 」




 また『ハンナ・アーレント』の艦体が揺動した……迎撃に成功したのだ。




「……ライアン! ダウンピッチ18° ! 密度の高い岩塊群がある! 突入して間隙を縫うように抜けて離脱してくれ! 」




「…了解! 」




「……何としても離脱しないと……」




 ……『ディファイアント』……




「……間も無く最終フェイズです……」




「……うん…エマ…爆発が起きたら、一息に至近距離まで詰めてくれ……フロント・ミサイルは、第3波装填……」




「…了解…」




 『ハンナ・アーレント』は密集する岩塊群に突入して右に左に岩塊を躱しながらの全速航行を続け、時折左右上下にも15° 転舵しながら追跡する『ディファイアント』を撒こうとしていたが…『ディファイアント』が発射した推進剤増量キャスク付きの7番・8番ミサイルが左右から…岩塊に紛れて発見されないよう、急速に接近していた。




「…右舷後方22° ミサイル来ます! 距離240! 」




「…右舷、アンチミサイル粒子弾撃て! 取舵12° ! ダウンピッチ7° ! 」




 アンチミサイル粒子弾を撃ちながら舵を切る『アンナ・アーレント』……左艦底方位から迫る岩塊の右脇を掠めて抜けた時…ハリエット・エイクランドは、左から迫るものを見留めて息を止めた。




「…エンジン停止!! 艦首艦底部スラスター全速!! 」




 エンジン停止してパワーサインを消す『ハンナ・アーレント』……艦首艦底部スラスター全力噴射でアップピッチを掛けたが…そのミサイルもアップピッチを掛けて更に迫る。




「…このミサイルは……ホーミングじゃない! 精密にコースをプログラムされている! 」




 8番ミサイルの信管セットは接触爆破ではなく、40m手前での爆破セットだった……それでもミサイル100基分の一点爆破は『ハンナ・アーレント』のフルパワー・シールドを噴き飛ばして消失させ、その艦体に甚大な損傷を与えるには充分だった。




 激しい衝撃が艦体を揺るがし…煙と焔の噴き出す箇所もあったが、それは自動消火システムが直ぐに対応した。




「…被害報告リポート?! 」




 キャプテン・シートから弾き出されそうになるのを何とか堪えて言う。




「……シールド消失! ディフレクター・グリッド…シールド・ジェネレーター…オフライン! 左舷艦尾から…艦首左前部まで大幅に損傷! 艦体外殻が歪みました! センサーの8割にダメージ! エンジンもオフラインです! 」




「……ミサイルは8基とも…ホーミングじゃなかった……それぞれ精密にコースをプログラムされて迫って……最後には正確に…このヒットポイントに来た……完敗だな……」




「……艦長! 左舷真横……距離400に……総ての遮蔽を解いて『ディファイアント』が出現………通常回線で呼び掛けています……応答は音声でのみ可能です……」




「……接続してくれ……」




「……了解…繋ぎました……」





「……こちらは『ディファイアント』……艦長のアドル・エルクです……貴方の『ハンナ・アーレント』は無力化しました……ハリエット・エイクランド艦長……降伏を勧告します……『降伏』の信号弾を発射して下さい……無理でしたら、こちらに向けての発光信号で降伏の表明を……その後、ミサイル発射管の外扉がいぴを閉鎖して下さい……運営本部への報告は本艦から行います……賢明な判断を期待します……」




「……降伏の信号弾を発射……」




「……無理です……総ての発射システムがオフライン……」




「…では『ディファイアント』に向け、発光信号にて降伏の表明を……」




「……実行します……」




「……ミサイル発射管の外扉がいぴを閉鎖……」




「……了解………3管がオフラインですが…他は閉鎖しました……」




「……終わったな……」




 そう……戦いは終わった……

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