勇者の末裔の落ちこぼれ家を追い出され探索者学校に無理やり入れられる
紫鳶
第1話 家追い出される
その日、俺は――アレン・グレンバーンは――運命の分岐点に立たされていた。
「アレン。お前は……家から出て行ってもらう」
親父の口から飛び出したのは、想像の斜め上をいく爆弾発言だった。親父が言っている意味が理解できなかった。
「……は?」
俺は固まった。というより、フリーズした。耳がおかしくなったのかと思って何度も頭の中でリピート再生したが、やっぱり追い出されようとしている。間違いない。
「いやいやいや、ちょっと待って親父! 冗談だよな!? 追い出されたら俺、今日からどうやって生活していけばいいのさ!」
「案ずるな」
と、親父――ヴァルト・グレンバーンは腕を組み、静かに言った。……その顔がまた腹立つくらい自信に満ちている。
「すでに行き先は決めてある。常々考えていたんだ、お前がどうすれば一皮むけるかを。そして辿り着いた答えが――探索学園オルビスだ」
「……は?」
今日二度目のフリーズ。
探索学園オルビス。あまりにも有名すぎて、俺でも知ってる。その卒業生のほとんどが一流のダンジョン探索者として世に羽ばたく名門中の名門。門戸は広いが、卒業できるのはほんの10%。死亡率が高いことで有名な、命知らずの集まりだ。俺みたいな落ちこぼれが入学すれば死は免れないだろう。
「いやいやいやいやいや! 無理無理無理無理!! 俺、死ぬって! 生きて卒業できる気がしないってば!」
「心配無用だ」
そう言って、親父は自慢の胸板を叩いた。
「お前には我々の血が流れている。勇者の末裔としての誇りを忘れるな。1000年前、魔王を打ち破った英雄の血筋――それが我らグレンバーン家なのだ。そんなお前が、探索学園ごとき卒業できぬ道理があるか!」
「いやいや、“ごとき”って言える場所じゃないだろあそこは! 親父、俺が世間でなんて言われてるか知ってる? “出がらし”とか“落ちこぼれ”とか……“期待はずれの片割れ”だよ!?」
思わず叫んだ瞬間、ドンッ! と机が揺れた。
「自分で自分を貶めるな!」
鬼のような形相をした親父に怒鳴られ、思わず背筋がピンと伸びる。心臓に悪い。
「お前は努力している。ただ、きっかけが足りない。それだけだ。お前には――そう、ライバルが必要なのだ」
「……ライバル?」
ぽかんと聞き返す俺に、親父はうなずいた。
「切磋琢磨できる存在。競い合い、ぶつかり合い、互いに高め合える相手。それがいれば、お前は変われる。探索学園にはそんな者が山ほどいる。まさにうってつけだ」
「だったらせめて、もうちょっと……安全な学校にしてよ……」
「何を言っている。お前は昔、“探索者になる!”と目を輝かせていたではないか。そんなお前のために、最高の環境を用意したのだぞ?」
たしかに。昔は憧れてた。勇者の血を引く家系に生まれたのなら、自分もいつか英雄になるのだと。でも、それも昔の話。今では魔法も剣技も平均よりちょっと上。
「今は……もっと安全で地道な仕事のほうが向いてるかなって思ってて……」
ぽつりと漏らした瞬間、親父は深いため息をついた。
「お前の兄は、“剣聖”と呼ばれ、王国騎士団の隊長にまで上り詰めた。姉は国立魔導院を史上最年少で主席卒業し大魔導士と呼ばれている。そして双子の妹は、まだ実績こそ少ないが“
……知ってる。家にいれば、いやでも聞かされる栄光の家族たち。兄も姉も妹も、なぜか才能の塊で、周囲の期待に応え続けてきた。そして、俺は――
「悔しくないのか、アレン?」
その一言が、胸に深く刺さった。
悔しくないわけがない。誰より努力してるつもりなのに、結果がついてこない。影に隠れた三番手どころか、五番手くらいの存在。目立たず、褒められず、諦めかけていた。
「……探索学園で、主席をとれだとか、すごい成績を出せとは言わん。ただ――」
親父は、まっすぐに俺を見つめて言った。
「3年間勉学に励み卒業してみせろ。それだけでいい」
――その瞳を、俺は初めて真っすぐに見返した。
もう決まっていることなのだろう。ここでぐだぐだ言っても、親父が折れるはずがない。
「……わかったよ。探索学園オルビスに、行ってくる」
「うむ。アレンが卒業して立派になって帰ってくる日を楽しみにしているぞ。それと……連休には帰ってこい。母さんも寂しがる」
どこまでも一方的で、どこまでも強引で、だけど……どこまでも俺の将来を思っている。
――こうして俺、アレン・グレイバーンは、死と隣り合わせの名門校”サバイバル・アカデミー”とも呼ばれる探索学園オルビスに入学することになった。
目指すは――死なずに“普通に”卒業すること!
伝説も名誉もいらない。ただ、無事に生きて卒業して、家に帰る。それが俺の第一歩だ。
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