二度目の拉致
僕は薄暗い部屋の中で椅子に縛り付けられていた。
本当に薄暗い部屋。
その中で僕は向かい合って椅子に座っているおじさんに話しかけ続けられていた。
その人は縛られていないし、他に人もいないのでおそらくこの人が僕を拉致した犯人だろう。
さて、なんで僕がこんな状況になってしまったのかを説明するには数時間前に話を戻す必要がある。
僕は数時間前、覚えたての魔術で真白井さんと模擬戦をした後、黒谷が持ってきた任務に黒谷と向かった。
任務自体は簡単に終わり帰ろうとした時、黒谷がコンビニに寄りたいと言ったので僕はコンビニの外で待機していた。
すると背後から何者かに抑えつけられ、そのまま担がれ運ばれてしまった。
そして小屋に運ばれ今に至るということだ。
「返事しろよ」
目の前の謎のおじさんが話しかけてくる。
どうするべきか。
僕を椅子に縛り付けているのは縄だ。
魔力探知でも特に何も感じないので普通の縄なはずだ。
覚えたての魔術でも燃やすことができるだろう。
しかし問題がある。
大問題がある。
目の前にいるこの男。
こいつ、強い。
気迫というか、そういうものが常に放たれている。
全身から放たれる魔力の量も多い。
先ほどから僕は何も動くことができていない。
反抗する気が起きない。
魔術を使う気も起きない。
魔術を使う前動作で殺される、そんな気がしてやまない。
どうするか、というよりどうすることもできない。
……やるしかない。
僕は別に話すのが嫌いってわけでもない。
とりあえず話してみるしかない。
「えっと、すみません、質問いいですか?」
「お、話す気になったか、いいぜ、質問な、答えてやるよ」
「まず、僕をなぜ拉致したんですか?」
「いい質問だな。なんでだと思う?『夜明け前』の新人さん」
「……僕は貴方の言う通り新人なので『夜明け前』に対する人質になるとは思えません。僕から何かしらの情報を得るつもりか、催眠にでもかけて潜入でもさせるつもりなんじゃないですか?」
「おぉ、すぐ認めたな、自分が『夜明け前』の新人だってことを」
「名前も知られてるんです。嘘をつく必要ないでしょ」
「まぁ、そうかもな、んで、なんでお前を拉致したかだったか?あぁーそれは最後に答えてやるよ、他の質問から答えてくことにしようぜ」
なんだそれ。
いや、まぁ答えてくれるならなんでもいい。
時間が稼げるならなんでもいい。
「じゃあ、貴方は誰なんですか?」
「俺か?俺はただの社会に適合できなかった魔術師だよ。お前と一緒かもな」
「……そうですか、じゃあ、ここはどこですか?」
「俺のガレージ。前は車入れてたんだが、家の前に駐車場作っちまったからそこに車移したんでここは空いてんの」
クソ、答えるまでが早すぎる。
時間稼ぎになってんのか?
「……お前の魂胆はわかってる、時間稼ぎだろ?安心しろよ、別に殺したり痛めつけたりしたいわけじゃねぇんだ」
「じゃあ、なんのために攫ったんですか?」
「……そろそろ答えてもいいかもな」
目の前の男はポケットから煙草を取り出しライターで火をつける。
煙草を吸って煙を吐く、この動作を一度やった後に僕の方をみる。
「すまんな、ニコチン中毒でよ、未成年の前でタバコはあんま吸いたくないんだが目を離すわけにもいかなくてな」
男は悪く思ってなさそうな顔でそんなことを告げる。
「俺は安田康二、お前を拉致した理由は、黒谷とかいう魔術師を殺すためだ」
それを僕に告げた後、男はもう一度煙草を口元にやる。
それと同時に僕の後ろからドアが開く大きな音が聞こえる。
「またせたな、礼賛」
その声は自信に満ち溢れていた。
「助けに来たぜ」
殺されるターゲットが自分だとは全く知らないようなその声で、黒谷は僕を助けにきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます