第2話

 退職は最高だ。たとえ、それがリストラの早期退職でも。津田はここ数日の朝、布団の中でいつもそう思う。

 2週間前、6月半ばに25年勤めたベータ製薬の早期退職に応募し、いや正確には応募するよう諭され、津田は50歳で退職した。

 それ以来、未だに独り者の津田は誰に遠慮することなく、毎朝二度寝、三度寝をむさぼっている。出勤のため、毎朝6時過ぎにベットからはい出し、惰性のように会社に通い続けて25年、いや、初めの10年近くは前向きだったから惰性出勤は15年くらいか、この制度のおかげでようやく幸せな朝を得られた。

 三度寝に入りかけたその時、枕もとのスマホが震える。勤め時代の目覚まし代わりの癖で今でも寝るときは枕元にスマホを置いている。仕方なく取り上げると、いきなり声が耳に入る。

「もしもし津田さん。おはようございます。ベータ製薬人事部の山岡です」

 人事部の山岡、誰だ。

「もしもし、山岡です。人事部の山岡です。津田さん、聞こえてますか」

「聞こえますよ。朝早くからなんですか」

「早くありません。もう9時を過ぎています」

「私はリストラで退職した人間です。9時は早いんです」

「あら、津田さん、あなたまだ退職していませんよ。今は、年休消化中。退職は今月末って教えてあげたじゃないですか、年休消化してから退職されたほうが1か月分のお給料だけでなく、勤務期間の算定で退職金も割増分も有利になるって。忘れたのですか。今月末もう一度会社に来ていただいて手続き完了、めでたく早期退職ですよ」

 そういえば、2週間前、人事部の女性社員からそう言って書類を渡されたな。あのひと山岡さんって言っていた。そうかまだ退職していなっかたのか。

「そうでしたか。なんとなく思い出しました。それで、何か御用ですか」

「あの時いただいた届けに間違いがありました。訂正をお願いします。本当はこれじゃ受け取れないのですが、とりあえず私が処理しておきましたので、今月末の早期退職のため早々に訂正をお願いします」

「訂正ってどうすれば良いのでしょう。今月末一回ならともかく、今日明日に会社に行くのは嫌ですよ。行きたくないから辞めた、いや今のお話では辞める予定なのですから」

「そうおっしゃるだろうと思っていました。私が書類をお持ちしますので、訂正印をご用意してください。津田さんは御存じないでしょうが、私の家はあなたのお宅の近くです。帰りに寄りますから。ご自宅がよろしいですか、それとも、どこかのお店にしますか」

 近くに同じ会社の人間が住んでいるとは全く知らなかった。二千人くらいの社員がいるらしいが、人事部に顔を出すことはめったにない。知らない社員も大勢いるのだからそういうこともあるかもしれない。

「どこかで待ち合わせといっても、私はあなたの顔を覚えていないし、あなたさえよろしければ私の家まで来てもらえますか。日本橋人形町5丁目1の2の田中マンション303号室です」

「人事ですから住所は存じています。それでは18時半頃にお伺いします。ボールペンと訂正印のご用意をお願いします」


 山岡さんは18時半過ぎに現れた。タイトなスカートのスーツ、リュックを背負い、片手にはネギや何やら食料品が入ったエコバッグを持って。

「すみません。遅れました。途中で買い物をしていたものですから。遅くなると値引き商品が売り切れてしまいますので。ええと、すみません荷物を置かせて頂きます」

 エコバックとリュックを入口で下ろし、リュックからクリアファイルに挟まれた書類を取り出す。

「退職日が先月末の届けを出された日になっています。年休届けを出されているので退職日は今月末にして頂かないと、日が合わなくなってしまいます」

 山岡さんは、入口に立ったまま、書類を見せる。

「ここじゃなんですから、上がったらどうですか」

「それじゃ、すみませんが。上がらせて頂きます」

 クリアファイルと書類を持ったまま部屋に入り、書類をテーブルの上に広げる。

「はい、ここです。ここの『5月31日』の『5』と『31』に二重の横線を引いて取り消し、訂正印を押して、その下に『6』と『30』と書いて下さい」

「訂正印なんか持ってませんよ」

「それじゃ、普通のハンコで結構です」

 彼女の言う通りに記入し、シャチハタを押す。

「はい、ありがとうございます。それでは、失礼します」

「わざわざ、ありがとうございました」

 書類をクリアファイルに挟み、リュックに入れ、買い物袋も持ち玄関で振り返り、

「ところで、立ち入ったことをお伺いするようですが、津田さんはこれから何をされるのですか。研究所で御活躍されていたと聞いていますので、どこか別の会社にもうお決まりでしょうか」

「とんでもない。ようやく毎日出勤しなくてもよくなったのに、もう会社務めはしませんよ。まったく活躍もしていませんでしたし。まあ、なにもしないでゆっくりするということです」

「えーと、津田さんは、大学院の修士課程を修了されて、研究所で、遺伝子の研究をされていらっしゃたと聞いております。数学も英語も御出来になりますわね」

「遺伝子の研究をしていたのは、昔のことです。ここ10年以上していませんよ。それがなにか」

「こんなこと、急にお願いしてなんですが、もしこれから何のご予定もないのでしたら、うちの娘に勉強を教えていただけないかしら。中学1年生の娘がいるのですけど、ちょっと変わっているというか、成績はそんなに悪くないのですが、勉強嫌いというか、学校嫌いというか、塾もいやだといって。私が働いているものですから、なかなか見てやれなくて。どうかお願いできないでしょうか」

 山岡さんは深々と頭を下げ、顔をあげてじっと見つめる。

 はじめてじっくりと顔を見ることになったが、細面で、色白、黒目勝ちな目は大きく、眉もきれい、というか美人だ。あごの線がきれいで、セミロングの髪がよく似合う。それに、中学生の子供がいるにしては、若く見える。痩せているというより、ほっそりとしているという感じがいい。

 スーツの下でよくわからないが、それでいて結構胸もある。夜なので化粧が少し剥げかけて目じりの小じわが気になるが、家族がいてフルタイム働いていれば苦労もあるのだろう。この人とこれで二度と会えないのはなんとなく惜しいような気がする。

「急に言われましてもねえ、ご主人がどうおっしゃるかもあるでしょうし」

「お恥ずかしい話ですが、夫とは10年前に別れまして、娘と二人で暮らしておりますの。それで、私が帰るまで娘の勉強をどなたかが見ていただけないかと。塾も嫌がっていきませんし、ご存じでしょうが、リモートワークも終了しましたし、残業もありますので」

 確かに、会社の人手はずっと足りていないらしいし、人事部も残業があるのだろうが、この前から、全員出社になっている。

「まあ、暇というか、それが欲しくて辞めた、いや辞めるのですが、娘さんの気持ちもあるでしょうし、中学生を教えられるかもありますし、どうしましょうかね」

「それではともかく一度連れてまいります。それでお考えいただけないでしょうか。 

 今度の日曜のお昼はいかがですか」

「そうですね、わかりました。それでは一度会ってみましょう」

 ということで、次の日曜に会うことになった。


 日曜までインターネットや本屋で中学1年の参考書を見たりしたが、中学生なら何とかなるだろう、高校になると結構難しいものもあるが中学生ということだから問題ない。

 日曜の昼前に山岡さんはやってきた。娘というのは、山岡さん似のかわいい女の子だが、まだまだ子供だ。

 山岡さんは、Tシャツにカーディガン、デニムパンツでスーツの時より若くスリム見える。思わず見とれてしまう。

「お昼ご飯はもう済まれました。もしよろしければと思って、少し持ってきましたの」

「ママったら、朝から張り切っちゃって、もう大変」

「何言ってるのあなたは。あなたのためでしょ。すみません、津田さん、この子が娘の百合です」

「山岡百合です。津田さん、よろしく」

 山岡さんと同じようなTシャツ、デニムパンツで、ちょこんと頭を下げ挨拶する。髪を背中まで伸ばしているところが山岡さんと違うところか。母親似で、大人になれば美人になるのだろう。

「きちんとご挨拶しなさい。まだ、津田さんは引き受けてくださっていないのよ。すみません、躾ができてなくて」

「まあ、お座りください。食事はまだでしたのでありがたいです」

「それじゃ、これ巻き寿司ですの。お吸い物と紙コップも持ってきましたので、用意しますね」

 山岡さんが、巻き寿司を広げ、マグボトルから紙コップに吸い物を入れ3人に分ける。巻き寿司は卵やかんぴょう、三つ葉が入ったシンプルだが本格的でおいしい。

「おいしい。山岡さんが作られたのですか」

「お粗末なもので申し訳ありません。たまに作りたくなりますの」

 僕は百合に話しかける。

「勉強の調子はどう」

「勉強の調子?もう簡単すぎてやる気にならない。よくあんな簡単なことを学校の先生や塾の先生は一生懸命教えられるんだって感心してる」

「今、1年生だろ。そんなに簡単なら2年や3年の問題をやってみれば」

「やってみたよ。中学2年も、3年も簡単じゃん。でもさ、こんなこと言うと、いじめられるんだよね。だから、学校でも、塾でもわからないふりしてるんだけど、時々出ちゃうの。やばいってすぐ引っ込めるんだけど、危なくて。だから、学校も塾も行きたくないの」

 山岡さんが、口を挟む。

「もう、こんなことばかり言って、困ってるんです。津田さん、どうか見てやっていただけないでしょうか」

「ママ、大丈夫だよ。学校へはちゃんと行って、終わったら津田さんのところで勉強して時間が来たら帰る。遅くなった時は、ママの仕事終わりに合わせて、ここに迎えに来てもらって、一緒に帰ろ。その時は晩御飯もここで食べてもいいしさ。津田さんも独身ってことだから、ママの料理で津田さんを捕まえるってのもありだよ。ジジイでもいいじゃん。ね、津田さん、ママどう。脱ぐとまだまだいい女だよ」

「これっ。なんて失礼なことをいうの。津田さんに謝りなさい。本当に申し訳ありません。こんな子じゃだめですわね」

 子供にスケベ心を見透かされていそうで、話を本題に戻す。本当に中学2年や3年の問題も簡単なのかと、百合に興味がわく。

「まあ、百合さんさえよければ、少し始めてみましょうか。1時間か2時間くらい、その日の授業をおさらいする程度はどうかな。ジジイで申し訳ないけれど」

「百合はオッケー」

「本当によろしいですか。こんな子ですけど、どうかよろしくお願いします。失礼なことを言ったらどうか叱って下さい。百合、あなたからも、きちんとお願いしなさい」

 学校は4時に終わるということなので、当面4時半から6時で始めることになった。月謝はただというのも何なので月1万円でということにした。


 次の日、月曜の4時半過ぎに百合は来た。

「津田さん、こんにちは、家に帰って着替えてきたから少し遅くなっちゃった。制服嫌いなの。あっ、それから、野川くんも一緒に教えて欲しいって、ついて来っちゃた」

 坊主頭の男の子が顔を出す。「野川和夫です。百合を守るために僕も一緒にいます。」

「なに言ってるの。私と一緒にいたいだけなんでしょう。男の部屋に私みたいな可愛いい女の子が一人で行くのは危ないってついてきたの。ストーカーって、あなたのお父さんに訴えるわよ。あっ、津田さん、この子のパパ、人形町署の刑事さん」

「ストーカーじゃないよ。なにかあったら、大変だから、百合のために一緒にいるだけだよ」

 なんだ、こいつは。

「君たちの言うことは、よくわからないが、まず、一応、私が教えて、君が教えられるのだから、津田さんじゃなくて、先生と呼ぼう。それと、えーと、野川君だったね、君もここで勉強するの、それとも横にいるだけなのかい」

百合が答える。「分かりました。津田さんじゃなくて、先生」

「僕も、横で見ているだけではなくて、一緒に勉強したほうが良いように思う」坊主頭が小声で答える。

「それじゃ、まず君が誰なのか、はっきりさせよう。名前が野川和夫というのは分かった。そのほかは。年齢とか、山岡百合さんとの関係とか」

「野川君は、私の幼馴染。家は同じマンション、同い年。小学1年から一緒、今は同じクラス。私が今日から、津田さんじゃなくて、先生の部屋で勉強するって言ったら、たいてい、ジジイはスケベだから守るってついてきたの」百合が答える。

「あのなあ、変態じゃないんだから、中学生の子供にスケベもなにもないだろう」

「そういうやつに限って危ないんだ。学校でも相手が年寄りでも気をつけろって教えてる」

「分かった分かった、それじゃ君は横で邪魔せずに見張ってろ」

 馬鹿らしくなったので坊主頭にそう言った。

「それとね。私はパパがいないでしょ。和夫はママがいないの。和夫のパパは、刑事でママを狙ってるの。先生のライバルってことね」

「いつまでも、くだらないことを言ってないで、勉強しよう」

 まだまだ余計なことを言いそうなのでさえぎる。

 百合の能力には驚かされた。学校や塾の授業が簡単すぎると言ったのも本当のようだ。こういうのを天才というのかも知れない。

 ネットで調べた中学2年や3年の数学の問題を、簡単に解く。それも、公理や定理をその場で考え出しながら解いていく。いずれ高校の問題も出来るようになるだろう。

 英語も試してみたが、文法や、接頭語、接尾語を組み立てながら論理的に理解していく。もともと、論理的に組み立てられた言語だからこの方法は有効なのだろう。

 和夫は、いかにも普通で、百合と比べると安心する。百合のような子供ばかりだったら、教師になる人がいなくなる。

 山岡さんは時々6時前に迎えに来る。その時は、百合が勉強するのを横で見ながら、6時まで待って、百合と和夫と一緒に帰る。

 次の休日に月謝を持って山岡さんが来た時、百合の能力の高さを話した。

「父親に似たのかもしれません。津田さんも名前はご存知かもしれません。百合の父親はベータ製薬研究所にいました東郷洋一という者です」

 東郷洋一、あの東郷洋一が百合の父親なのか。


 東郷洋一は、私の10年後にベータ製薬の研究所に入社した。彼は海外留学と博士課程を修了していたので、年齢は私より5歳くらい若かったのだろう。ともかく、優秀と評判で、何れ新薬の発見も近いと思われる逸材だった。

 その頃、私は研究所で遺伝子の研究をしていた。とある遺伝子の変異が、特殊な能力に関連すると思える状態を発見した。

 マウスで遺伝子を変異させ実験を重ねていたが、エネルギー効率が異常に高くなる。それが原因なのか、学習能力が驚くほど高く、一時的な運動能力も非常に高くなる。それだけでなく、回りのマウスの行動を操作しているのではないかと思えることも起こった。

 ただ、これらの発生が普遍的でも持続的でない。このため遺伝子変異による行動変化を1年近く研究を続けても特定できなかった。

 さらに研究実験を続けるため、当時の上長である、桂研究課長に相談した。

 桂課長の第一声は、「誰の指示でこの研究を行ってきたのか」だった

「研究計画書は課長に提出していますし、研究経過も毎週提出していましたが」

「君が、このような研究していることを私は承知していない。君は計画書や経過書を提出したと言うが、それを私が了解したと言ったかね」

「了解したと、特に言われたわけではないですが、予算の稟議も課長印を頂いていますよ」

「君の研究内容ではなく、君を信頼して予算執行を承認してきたのだが、遺伝子改造の研究をしていたとは、君を信頼したのは間違いだった。君には裏切られた。すぐ、研究を中止し、これまでの資料をすべて提出しなさい、全てを今すぐにだ。あと、この研究を知っているのは君だけだろうな。他にいるなら、名前を教えなさい」

「私と課長だけです」せめてもの嫌味だった。

 実験用のマウスを含め、これまでの研究結果、資料はすべて取り上げられた。人事異動が発令され私は研究職から研究所の事務担当になった。

 当時、監督官庁から遺伝子研究に厳しい通達があり、ベータ製薬は遺伝子研究、特に遺伝子操作にかかわる研究は一切行っていないと回答していたと後から知った。

 上層部の評価の高い桂氏が課長、部長、所長と進み、研究所の人事権を持つ間、私は研究所事務担当の中でも特に仕事のないままだった。

 10年位は、研究職への復帰を何度か申請したが取り上げられるはことなく、他社研究職への転職も試みたが業界に顔の広い桂氏の手が回っているのか、私を採用するところはなく、いわゆる飼い殺し、窓際を続けてきた。

 会社や桂氏への恨み、つらみの愚痴ばかりだったせいもあったのだろう、結婚を約束していた女性も去っていた。

 桂氏が子会社の役員に転出し、遺伝子研究に関する監督、官庁の指針もいくつか出たことから、私の飼い殺しも終わり、リストラされたのだろう。

 ま、ここ5年位は気持ちを切り替え、暇にまかせて行った投資で小金も貯まり、中古ながらマンションも購入し、退職金の割り増しもあったから、いまさら会社に文句はない。

 ただ、研究中止を指示された直後、実は東郷にだけ「絶対に秘密にしてくれ、表に出ると君にも迷惑がかかるから」と一部資料を見せている。東郷ならいずれこの研究を引き継いでくれるかもしれないという思いがあった。残念ながら、その後東郷が遺伝子に関わることはなかったようだが。

 その東郷が、それから5年目くらいの時、海外出張中に行方不明になりそのままいなくなった。当時は会社中が大騒ぎだったのを覚えている。

「私も入社は研究所でしたの。私は修士で博士課程の東郷と同期入社でした。大学院時代からお付き合いしていまして、入社3年目に結婚し、2年後に百合が生まれ、それから3年目に東郷はいなくなりました。私も産休明けに研究所に戻ったのですが、東郷がいなくなってから研究所に居づらくなりまして、人事部に異動させて頂きました。3年が過ぎて自然離婚となりまして、正式に旧姓に戻しましたの」

「津田さんは覚えてらっしゃらないでしょうが、研究所のころから、津田さんのこと存じ上げてました。津田さんは研究所の女性のあこがれでしたもの」

「いやあ、そんなことはなかったでしょう」

 飼い殺し、窓際に若い女性が憧れることはない。


 和夫の父親も教え初めた翌週に顔を出した。

「野川です。息子がお世話になっているようで申し訳ありません」

 刑事のイメージと違い普通のサラリーマンだ。中学1年の子供がいるには、上の年齢に見える。

「警察官も公務員ですから、サラリーマンですよ」

 結婚が遅かったものですから、子供がまだ中学生です。定年まで後6年、もうひと頑張りふた頑張りしなければと言う。私より4、5歳上くらいか。

「女房には5年前に逃げられまして、和夫にはつらい思いをさせました。先生、よろしくお願いします」

 折角なので、和夫も教える。月謝も百合と同じにした。

 百合と和夫を教え始めて1か月が過ぎた。まだ梅雨は明けない。百合が歯が痛いという。

 その日は、山岡さんも6時少し前に現れ、話していると、たまたま、野川さんも月謝をもって来た。刑事は早く帰れる日もあるという。

「お菓子ばっかり食べるからでしょ。食べた後、歯をきちんと磨かないから、そうなるのよ」

「ちゃんと歯磨きしてるのに、痛い」

「あなたのは、歯磨きじゃないわ。さっとこすってるだけ。きちんと磨きなさいといつも言ってるのに」

「明日、歯医者さん行く。でも、いつもの歯医者さん、やめっちゃったからどうしよう」

「そうね、さなえさん大丈夫かしら」

 百合が通っていた歯医者は、中学校歯科検診医だが1か月くらい前に歯科医院を閉めてしまったらしい。噂では自殺したとか。山岡さんは歯科医の妻のさなえとコーヒー仲間という。

 山岡さんが、よく行くコーヒーのお店で何度も会ううち話すようになった。百合も会ったことがあるという。

 歯科医とさなえは幼馴染で、結婚してからまだ3年位らしい。山岡さんは歯科医が亡くなってからさなえにまだ会っていないという。

「結婚が決まった時とてもうれしそうだったの。御主人の亡くなり方もあって、お葬式も内輪だけで行ったと聞いています。さなえさんが可哀そうで」

 それを聞いていた、野川さんがここだけの話と言いながら、その歯医者だけでなく、ここ数か月に東京都で何人かの歯科医が自殺で亡くなっていると言う。

「全員中学校で歯科検診している歯医者なんですよ。借金や私生活の問題での自殺で事件性はなく警察はそれ以上調べないのですが、偶然にしてはなんとなくねえ。」

 そういえばと、野川さんが、和夫が歯科検診で麺棒みたいなので口をこすられったって言ってましたが、虫歯と何か関係あるのですかね、津田さんは薬の会社にお勤めだったのですからご存じですか。

「歯科検診にそんなことがあるのかな」

「百合もやられた、なんか、口の中をこすった麺棒みたいなのに番号付けてビニール袋に入れるの、変だったよね。それに、その時、さなえさんいなくって、すっごくきれいな人がいたの」

「なんか、変な日本語だった」と和夫。

 麺棒で口内を擦るのは、唾液の採取位しか思いつかない。遺伝子検査のはずはないし。

 山岡さんも、「歯科検診に遺伝子検査は入ってないでしょう。同意書を描いた覚えもないですわ。でも、その後すぐ亡くなられたのでさなえさんにも聞いていないの」

「遺伝子検査って、そんな簡単にできるんですか」と野川さん。

「簡単というか、唾液から出来るのですよ、でも本人の許諾が必要ですし、学校検診で行うようなものじゃないですね。遺伝子検査以外の何かでしょうね。でも、すでに当人が亡くなっているなら、もう分らないですね。学校に聞いてみるかですね」


「野川警部補、ちょっとよろしいでしょうか」地域課の交番勤務から刑事課に配属1ヵ月の山田巡査が小声で話す。

「何だい」

「昨日、逮捕した窃盗犯が、殺人を見た、と言い出しまして」

「昨日逮捕した窃盗犯、コソ泥のチョロ松か、あのジイサン大分ボケてるからなあ。で、何を見たって」

「日にちは覚えていないようですが、1か月くらい前、日本橋大伝馬町の歯医者の家に入ろうとして、前もって見に行った夕方に、窓越しなんだそうですが、人を首つりさせるところを見たと言うんです。外から見ただけなので、よくわからなかったが、2、3人に抱えられて首つりさせられてたって」

「チョロ松はどこで捕まったんだい」

「昨晩、空き家のはずの家に電気がついていると通報がありまして、地域課が踏み込んだところで現行犯逮捕しました。空き家と知らなかったようで。住人は一人暮らしの老人だったのですが養護施設に入って最近空き家になったところですから」

「事前の調査不足ってわけか。で、首つりを見ったのはどこの歯医者だい」

「それが、自殺で処理した歯科医だったたものですから、万一ということもありますので、警部補に報告を」

「えっ、首つりって、日本橋大伝馬町のあの校医さんかね」

「野川警部補のお知り合いなのでしょうか」

「知り合いじゃないが、ちょっと気になってな。ありがとう、この件、俺が預かるよ」

 当時の資料を見ても特に問題はない、鑑識に確認しても、まあ、自殺だろうと言う。

 念のため「ビニール袋に小分けに入れた大量の麺棒のようなものはあったかい」と聞くと、そんなものはなかったという。処理が終わっており、これ以上警察としては難しい。


 数日後、たまたま、山岡さん、野川さんがそろって迎えに来た。マンションの下で会ったと言う。皆で雑談の中、野川さんが、少し調べたという。

 自殺に怪しげな部分もあるのだが、処理が終わっているので、蒸し返すのは難しいという。

「処理した刑事や鑑識のメンツもありますのでね。麺棒は残っていませんでしたので目的はわかりませんでした。これ以上は警察じゃ無理ですね。学校へも何件か問い合わせはあったようですが、肝心の歯科医が死んじゃっているのでね」

 百合と和夫が

「このままじゃ気持ち悪い」

「きっと裏があるんだよ、俺の遺伝子を盗む大きな裏がさ」と騒ぐ。

 野川さんが、「津田さん、あなた調べてもらえませんか、こう言っちゃなんですが、特にこの子たちに教える以外やることないのでしょ。遺伝子とかも詳しそうだし」と言う。

「私は、やることのない生活を求めて会社を辞めたんです。もう、退職金も振り込まれましたし」

「だったら、暇つぶしにいいじゃないですか」と野川さん。

 和夫も「そうだよ、先生やりなよ」

 山岡さんも、「このままじゃ、何か気持ち悪いですわ。せめて、その麺棒のようなもので何をしようとしていたかだけでもわからないかしら。津田さんお願いできないでしょうか。何か分かったらさなえさんに聞いてみます」と私を見る。

 百合が、「先生、ママの頼みだよ。私も手伝うよ、なんか楽しそう」

「僕も手伝うよ。探偵みたいでかっこいい」と和夫。

「分かりました。出来るかどうかわかりませんが、少し調べてみましょう。ただ、君たちは手伝わなくてもいい。その時間があれば勉強しなさい。特に和夫は」

「よろしくお願いします」と山岡さん。

「頼んでおいてなんですが、無理はしないで下さい。私も何かわかればお伝えしますよ」と野川さん。

 ということで、綿棒の謎を調べることになった。


 野川さんから、もう公開情報と同じだからと、最近亡くなった歯科医の名前と住所を教えられた。

 梅雨明けが近づき、晴れた週中の水曜日、まず、ネットで百合や和夫の校医の歯科医院の近くの歯科医院をいくつか探し、その中で年齢の高い歯科医の医院へ行ってみる。

 あまり患者のいなそうな午後の早い時間に歯石の除去をお願いする。

「虫歯になりかけの歯が3本ありますよ。この際治療しましょう」

 年の頃は、60歳位か、手伝いらしい年配の女性と二人でやっているようだ。

 自殺した、多田という歯科医のことを聞いてみる。

「ああ、多田さんね。三代続けてここで歯医者ですよ。先代は私と同い年でね。東洋歯科大の理事もやってましたよ。それで息子も何年か浪人してそこにね。でも五十前に亡くなりましてね。かみさんはその少し前だったかな。息子が後を継いだのですがね。なにやら悪い連中に引っかかって、大きな借金をこしらえ、女房にも逃げられ、あげくに死んじゃったってね。この頃の歯医者は苦しいですよ。でも死ななくてもいいのにね。ええ、中学校の校医も先代を継いだのですよ」

「悪い連中、よく知らないですが、やくざじゃないですか。あなた、何か調べてるの。ああ、子供さんが、通ってるんですか。子供さんもうちに来てくださいよ」

 次の日も晴れ、そろそろ梅雨明けなのだろう。暑くなる前にと、朝から日本橋大伝馬町にあるという多田医院へ向かう。日本橋横山町の繊維問屋の並びの手前に多田歯科医院を見つける。

 休診すら出ていないが、引き戸は閉まっている。隣から出てきた年配の女性に声をかける。

「ここ、やめちゃったんですか」

「亡くなったの、雄一ちゃんが。まだ若いのに。やくざみたいなのが出入りしてたとか、借金があったとか、女にだまされたとか、みんないろいろ言ってるけどね。さなえちゃんが出て行った直ぐ後らしいけど。さなえちゃん、奥さんよ、雄一ちゃんの。え、私、お隣さんよ。この家もどうするのかね。高いビルでも建っちゃ困っちゃうわ」

 そこを離れ、数校の中学校へ電話して、学校の歯科検診で麺棒を使ったか聞いてみる。

「生徒の保護者の方ですか、生徒のお名前は、何年何組でしょうか、あなたの名前を教えてください」でどこも取り付く島もない。

 しかたなく、再び多田歯科医院へ引き返し、隣を訪ねる。

「先ほどはどうも」

「あら、他の歯医者に行かなかったの」

「いえ、実は私は多田君の大学の先輩でして、多田君の奥さんが今どこにいらっしゃるか御存じじゃないですか。大学からの届け物を渡したほうが良いのではと思いましてね」

 我ながら適当なことを並べた。

「あら、あんたも歯医者さんなの」

「いえ、今はやってないんですが」

「ふーん」と疑わしい目で見るが、

「もともとこの近所の娘さんだからね。雄一ちゃんとは幼馴染だったのよ。何かあったら連絡するって、電話番号は聞いてるの。ちょっと待って、スマホに登録したから」と、スマホのアドレスから「はい、これ」と見せながら、「あんたも怪しい人じゃないでしょうね。名刺か何かないの」

 まだ、返し忘れたベータ製薬の名刺が財布に残っていたので、それを渡す。

「津田と言います。歯医者をやめて、薬を作るほうに回りましてね」

 会社に確認されれば終わりだがそこまでは疑っていないようだ。

 その場を離れ、多田の妻に電話する。

「多田さんの奥様でしょうか。私、東洋歯科大学の津田と申します。多田さんに大学の件で御連絡しようとしたのですが、連絡がつきませんので」

「あの、私のことをどこからお聞きになったのでしょうか」

「大学に届けられた連絡先にご本人以外の連絡先としてこの奥様の連絡先が届けてあったものですから。多田さんはどうされていらっしゃるのでしょうか」

「多田は亡くなりました」

「えっ、亡くなられたのですか。すみません、まったく存じませんでして。御病気だったのでしょうか」

「いえ、ちょっと」

「えー、そうですか。どうしようかな。お渡しするものがありまして、寄付を頂いたお礼なのですが。もしよろしければ、奥様に代わりにお受け取りいただけないでしょうか」

「いえ、結構です。受け取りたくありません。」

「そういわれましても、私も困ってしまう。お忙しいでしょうが、見ていただいて、そのうえでいらないのなら持ち帰りますので。」

「分かりました。今どちらですか」

「多田歯科医院の前です」

「それでは、小伝馬町の日比谷線の駅の交差点に『こうひい屋』という小さな喫茶店がありますからそこでお待ちください、30分くらいで伺います」


 小伝馬町の交差点に向かい、『こうひい屋』を探していると後ろから「先生」と声がする。振り向くと、百合がいる。

「百合、学校はどうした」

「今日はさぼっちゃった。だってさ、今日は数学があるの。数学の先生といろいろあって、それからガン無視されるし、みんなもそれを面白がるし」

 聞くと、数学の授業で先生の間違を指摘したところ、それから睨まれるようになったらしい。

 百合の事だから、指摘の仕方にも問題があったのだろう。先生の気持ちも分からなくはないが、困ったものだ。

「先生は何してるの」と聞かれ、つい正直に多田の妻と会うことを話してしまう。

「百合も一緒にいる。先生だけじゃ心配だよ」

「学校をさぼってる中学生と一緒じゃ変だろ」

「それじゃ、先生の後ろに座ってる。話を聞くだけならいいでしょ」

 これ以上言っても間違いなくついてきそうなのでそれで納得させる。百合が『こうひい屋』を知っていると言うので二人で向かう。

 4人掛け4卓とカウンター席が並ぶ細長い店だ。カウンターの中に年配の男性が一人、マスターだろう。客は奥の卓に一組。入口に近い卓の入口に向いた椅子に座る。

 百合は一つ奥の卓に座らせ、注文と聞きに来たマスターに後から連れが来るので2つ卓を使いますが、と言って私はコーヒー、百合は「ママにはないしょね」とマスターに言いながらココアを頼む。

 15分くらい待つと、30歳くらいの女性が入ってきた。多田と幼馴染ならこの人だろう。背が高く痩せぎすで色白というより青白い、きれいな顔がやつれている。

 カウンターの中のマスターに、「こんにちわ」とあいさつし私を見つけ前に立つ。

私も立ち上がり、こちらから声をかける。

「多田さんですか。先ほど連絡しました津田です」

「お待たせしました。姓を戻しましたので今は滝本と申します」

 旧姓が滝本ということか。

「お忙しいところ申し訳ありません。どうぞ」

「失礼します」と言って前に腰をおろす。水を持ってきたマスターが、「さなえちゃん、大変だったね。大丈夫。弘美も心配しててさ」と話しかける。

「ええ、なんとか、また、いろいろ相談させてください。あっ、コーヒーお願いします」と応じている。

「お知合いですか」

「同級生の、私と中学校の同級生のお父さんです。初めての方に会う時は安心なので」と言って、一口水を飲み、こちらに向いて、「記念品って、どのようなものなのでしょうか」と聞く。

「すみません。大学の関係者と言うのはうそです。実は多田さんの亡くなられたことを調べています。それであなたの話を聞きたくて来ました」

「どういうことですの」と身構え、腰を浮かそうとする。

「怪しいものではありません。多田さんの患者だった方々から頼まれました。なぜ亡くなったのか、本当に自殺だったのか。警察とも相談していますが、警察は自殺で処理したのでこれ以上踏み込めません。もし御不審でしたら、人形町警察署の野川刑事にご確認ください」と野川さんの名前を出し落ち着かせる。

「調べているって、探偵の方ですか」

「探偵といえば、まあそうなのですが、医療関係専門です、これ。」と言ってベータ製薬の名刺を出し、「最近までここに勤めていました」

 探偵ということにして、逃げられる前に全部説明してしまう。

「実は、多田さんが無くなられる前、中学校の歯科検診で生徒たちの遺伝子を、いや、これは想像ですが遺伝子検査のもととなる唾液を集めていたらしいのです」

聞いているようなので続ける。

「多田さんだけではなく、他にも数名の歯科医が亡くなっています。歯科校医の方やそうでない方もいます。皆さん、事故か自殺です。警察は事件性がないとみていますが、歯科校医の方は、皆、検診時に唾液を集めていたようです」

 さらに、想像を入れて進める。

「何人かの親御さんから内々に調べてもらえないかと依頼がありまして、私はベータ製薬で遺伝子の研究を担当していたものですから」と、これもまあ全くの嘘ではない。

「それで多田さんから何かお聞きになっていたことがないか、と思ったのですが、このような調査していると言うとお会い頂けないかと思いまして、大学の関係者と言いました。本当に申し訳ありません」と、ここまで一気に話した。

「そうでしたの。でも、知っていることは警察にお話ししました。歯科検診の前から、雄一とは会っていませんので、私は何も知りません」

「このようなことをお聞きするのは何ですが、多田さんの自殺の原因は何だとお考えですか」

「警察は借金のためといってましたから、そうなのでしょう」と」そっけなく答える。

「それじゃもう一つ。歯科検診の時、普段は奥さん、いや滝本さんが御一緒なのに、今回は別の女性が一緒だったようですが、誰ですか」

「知りません。借金の原因もその女じゃないですか。もうよろしいでしょうか」

「その女性のことは、滝本さん以外に誰かご存知ですか。警察に話されたとか」

「いえ、私の両親にはそれとなく話しましたが、それ以外には。警察に身元確認で呼ばれた後いろいろと聞かれましたが、私はよく知らないことですので話していません。もし調べたければ、鈴木さん、歯科医の鈴木さんにお聞きになれば。多田とよく一緒だったようですから」

「鈴木さんですか、ちょっと待って下さい」

 急いで、野川さんからもらった歯科医の名前を探す。

「鈴木和人さんですか、浜町の鈴木歯科医院の」

「ええ、そうです」

「御存知でなかったのかもしれませんが、鈴木和人さんも亡くなっています」

「へえ、そうなんですか。知りませんでした」

 滝本さなえはそう言って目をそらす。多田の自殺の原因、綿棒のこと、鈴木の死亡、本当に知らないのか。だが、とりあえず、今日はここまでにしよう。

「ありがとうございました。またお聞きするかも知れません。何か、思い出されたことがありましたら、御連絡下さい」

 そう言って、もう1枚の名刺に、家の住所とスマホの電話番号を書き加え滝本さなえに渡す。

 滝本さなえは、しばらくそれを見つめていたが顔を上げ少し躊躇しながら、

「多田や鈴木さんのことで何か分かったら私に教えて下さい」と言って奥に向かって歩き出し、百合の席の所に行く。

「こら、百合ちゃん。また学校さぼってる。ママにいいつけるぞ」

「えへへ、だって授業面白くなんだもん。ママには黙ってて。お願い、さなえさん」

「しょうがないな。明日はちゃんと行きなさいよ」

 そう言って滝本さなえは「『こうひい屋』を出て行った。

 滝本さなえが出て行くのと同時に、百合がココアのカップを持って津田の前に座る。

「さなえさんは、綿棒のこと知ってるね。間違いないよ」

「そんな気もするな」

「間違いないよ。それに、多田先生や鈴木って人のことも絶対知ってるよ。百合分かったもん」

「そう決めつけることは出来ないけれどな」

「だめだよ、先生は。女にだまされるタイプだね。百合なんか直ぐ分かっちゃたよ」

 二人の会話を怪しそうに見ているマスターの視線を感じたので、急いで勘定を払い百合を連れて店を出る。

「ともかく今度の日曜にでも、野川さん、山岡さんに報告するよ」

「だめだよ、今度の日曜なんて。今日か明日。すぐ決めようよ」

仕方なく、山岡さんと、野川さんに連絡する。さすがに今日とはいかないが、土曜日午後4時頃に二人とも来ることになった。

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