前世で不遇だった俺が無限のチート能力でハッピーエンドにたどり着きます!

ケロリビドー

前編

 俺の名前は譲二。天才児の兄ばかり可愛がる両親を見返そうと努力をしていたけれど、毎回無視されることを繰り返していたら精神を病んでしまい、気がつけば自ら命を絶っていた。

 次に俺が目を覚ました時、俺は知らない世界の下級貴族の息子、ジョージとして転生していた。奇しくも前世の譲二と同じ読み方のジョージ。ただ前世と違うことは、この世界は魔術がその人間の価値を決めるということ、そして俺が生まれつき「無限の魔力」というチート能力を持っていることだった。だから転生後の世界の両親は俺を天才だと言って溺愛してくれた。

 15歳になり、俺は貴族なら全員が行くことになる魔術学園に入学することになった。入学の時に魔力をはかる装置で生徒の魔力を計測する機会があり、そこで俺は前代未聞の魔力無限大を叩き出す。天才児だと大騒ぎする教師たちの人垣から抜けて一息つくと、金髪で耳の尖ったイケメンが話しかけてきた。


「君、すばらしい魔力を持っているね。生徒会に入らないかい?」


 エルフのイケメン先輩はセインという名前で、どうやら学園の生徒会長らしい。生前の兄貴もイケメンだったので俺はイケメンが嫌いだが、話してみたらセインは俺に好意的ないい奴だった。学園の生徒はみんな生徒会に憧れて入りたがっているが、セインのスカウトでしかメンバーになれないらしいので入学してすぐスカウトされた俺をモブ生徒たちはとても羨んだ。


「あの新入生、会長のお気に入りらしいぜ」

「くうぅ~、入学してすぐ生徒会入りだなんて、憧れちまうぜ……!」


 俺は無限の魔力を使ってセインと一緒に学園で起きる問題を次々と解決した。その度にセインがみんなの前で素晴らしい! と俺を褒め、俺はどんどん人気者になっていった。

 そんなある日、授業に遅れそうになって学園の庭園を近道していた俺は人気のない場所で男子生徒たちに囲まれている女子生徒を見かけた。あの娘は見たことがある。リスティという名前の彼女は平民の身だが魔術の才能があるために特例で入学してきた美少女で、嫉妬や見下しの対象になっていて友達が全然いない。そしてリスティを暗がりに追い詰めている男たちは学園で悪名高い侯爵令息ガストンとその取り巻きだ。


「あの……困りますッ、わたし授業が……」

「いいだろ? 授業なんかサボって遊ぼうぜ」

「そうそう、オレの女になれば誰も君をいじめなくなるからさ……」

「おい、その子困ってるだろ、やめてやれよ」

「なんだ? ああ、例の天才児とかいう奴か……下級貴族の癖にかっこつけやがって……」


 俺は魔術でつむじ風を巻き上げ、ガストンたちを転がしてリスティの手を掴んでその場を離れた。


「あ、あのっ。ありがとうございました、助かりました。わたし……」

「リスティだろ。知ってるよ。俺はジョージ。何か困ったことがあれば生徒会のジョージを頼って来いよな!」

「ジョージ……さん……♡」


 そのあとすぐ、怒り狂ったガストンは俺に決闘を申し込んできた。奴は決闘中隠れていた取り巻きに俺をこっそり攻撃させるという卑怯な手で勝とうとしてきたが、俺は無限の魔力で常に身体の周りにバリアを張ることができるので無効、逆に衆人環視の中でガストンをぼこぼこにしてやった。


「ジョージさん、素敵! 優しい上にこんなに強いだなんて……。あの……わたしとつきあってください」

「えっ……、そんな急に……。じゃあ、お友達からお願いします……」


 美少女のリスティが俺に抱き着いてきたのを見て、セインは後ろで腕組みをしてうんうんと頷いている。


「ジョージ。君はやっぱり特別な存在だ。君はこれからも大成功して世界で一番幸せになるべき人間だよ」

「ほめ過ぎだ、セイン」


 俺の二度目の人生は順風満帆で、何をやってもうまくいった。だけど、俺はこのとき急に強烈な違和感を覚えた。なんだかこの展開、どこかで見たことある気がするのだ……。


『ジッ……ザザッ……転生をリセットします……ブツッ』


 俺の名前はジョージ。勇者パーティに荷物持ちとして参加していたけど、ついさっき追放されたばかりだ。


「君には悪いが、君は荷物持ちしかできない。魔王を倒す勇者パーティの一員としては君の存在がお荷物なんだ」


 俺は実は無限に物が入る「無限ポケット」というチート能力を持っているんだが、それは誰にも内緒にしていた。これがあればなんでもしまうことができるので、例えば魔王だってなんとかこのポケットに入れることができれば簡単に無力化できるのだけど。まあ俺をお荷物扱いする奴らにそんなこと教えてやる義理はないよな。

 さあこれからどうしようかなあと思って市場をぶらついていると、奴隷商人の露店に人だかりができているのを見つけた。


「今回の目玉商品! エルフの兄妹だよ!」

「うひょ~、エルフだぜ。見ろよあの真っ白ですべすべの肌! オレ、兄貴の方でもイケるかもな」

「でもさすがに高けぇなあ。ちょっとすぐには手が出ないぜ……」


 人だかりを覗き込むと大きな檻に入れられた金髪美形のエルフ兄妹が震えながら俺に助けを求めるような目で見ている。俺は追放される直前に無限ポケットに入れてくすねておいた勇者の隠し財産を使ってエルフの兄妹奴隷を買った。


 「助けてくれてありがとうございます。僕はセイン、こっちは妹のリリアです。僕たちはエルフの里から攫われて奴隷商人に売られてしまったのです」

「あの、わたし……あなたはそんなに悪い人ではないような気がするのです。わたしたちがエルフの里に帰るのを助けてくれませんか?」

「ええ、でも俺結構高いお金払ってあんたたちを買ったから、ただでは……」

「助けてくれたら妹をお嫁に差し上げます」

「えっ、そんな。駄目だろ」

「わたし、平気です。エルフの女は命を助けてくれた男の人に嫁ぐべきというしきたりがあるので……」

「まじかよ……」


 美少女のエルフを兄貴公認で嫁にできるってこと!?


「お兄ちゃんの方は本当にそれでいいのか?」

「ええ、あなたのような素晴らしい人と家族になれるなら僕も本望です」

「俺たち、今日会ったばかりだってのに……まあ、いいか」


 追放されちまったのは不運だったけど、急に俺にも運が回ってきた。よし。美少女の嫁とラブラブしながらエルフの里まで気ままな旅を続けるか~。

 そこで俺は急に強烈な違和感を覚えた。なんだかこの展開、どこかで見た覚えがあるような……。


 『ジッ……ザザッ……転生をリセットします……ブツッ』


 俺の名前はジョージ。伝説のダンジョン踏破第一号を目指してダンジョンアタックを繰り返している冒険者だぜ! 俺は倒したモンスターを材料にポーションを確定で作り出せる「無限ポーション生成」のチート能力を持っている。だからポーションドカ飲みでモンスターを倒して、倒したモンスターでより強力なポーションを作り出す永久機関戦法を使ってダンジョンの中を驀進していた。


「そ、そこの人、助けてください!」


 モンスターがたくさん集まっているモンスターハウスの気配を感じて行ってみるとエルフの冒険者が一人追い詰められてピンチになっていたので助太刀し、ポーションをわけて怪我を治してやった。


「こんな深層でどうして一人で? 危なすぎるだろ……。俺はジョージ」

「僕はセインと言います。一緒に潜っていた仲間に騙されてワープの罠を踏まされてしまってこの階層まで跳ばされてしまったのです」

「なんでまたそんな……」

「僕は罠の場所を探知できる魔道具を持っていたのですが、どうやら彼らはその魔道具目当てでそんなことをしたようですね……」

「そうか……でもそんな魔道具があったら確かに効率よくダンジョンアタックが出来そうだな」

「そうなんです。だからなんとか取り戻したいと思っていて……。あの、重ね重ね申し訳ないのですが同行してもよろしいですか? もしかつての仲間に会って魔道具を取り戻せたらそれはあなたに差し上げますので……」

「そうだな……」

「とりあえず、ここはまたモンスターが湧くかもしれないので次の安全地帯までは一緒に行きましょう。そこで腰を落ち着けて話を……」

「なあ、おい」

「なんですか?」

「セイン」

「はい」

「お前……誰だ?」

「はい?」

「お前、ずっといるよな。ずっといるんだよ。お前だけが俺の人生に。お前は……」


 セインは静かにしろというように人差し指を立てて唇に当てて、おかしな声で答えた。


『転生をリセットします』


 やめろ!

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