第12話 幼馴染はおもいだす(遥香Side)




 最近、学校で空を見ることが多くなった。


 ううん、違う。空を見るフリが増えた。


 だってその方向には、いつもあたし以外の女の子と楽しそうにお喋りをする、幼馴染の奏向がいたから。


 奏向は最近、やけに夜空との距離が縮まったように感じる。最初は世間知らずで危なっかしい夜空を心配してるだけだろうって思ってた。


 奏向は、バカみたいに優しいから。


 でも日に日に不安が募っていって、焦って、胸がズキズキ疼いて、頭がおかしくなりそう。


 ――だって夜空、超ビジュいいんだもん。

 

 あんまり考えたくないけど、仲良くなって、あの子の良いところはそれだけじゃないってことも、もう知ってる。


 奏向好きな人と友達が仲良くしている光景を何日も見せつけられ続けても、なんとか自分を保っていられたのは、前に奏向の好きな人の話を聞いていたからだった。


 あれはたぶん、絶対――あたしのことだ。


 それがなかったら、今頃は奏向の顔、引っ掻いてめちゃくちゃにしてるんだろうなぁ。今はあの言葉だけが、あれだけが心のよりどころ。


 あたしのこと好きなら早く言ってよ。じゃないと、こんなモヤモヤした気持ちをずっと抱えたままじゃ辛いよ。


 それと、あんまデレデレすんなバカ。


 この前もせっかく2人っきりのデートのはずだったのに、なんで夜空を誘っちゃうのバカ。


 楽しかったけど、やっぱどっか不安。


 奏向が遠くに行っちゃいそうで、あたしの知らない奏向になってしまうようで……



 あたしと奏向は、幼稚園で出会ってから、これまでずーっと一緒だった。


 誰よりも奏向を知ってるのは、あたし。


 そして誰より奏向を好きなのも、あたし。


 異論なんて絶対に認めない。だってそうだもん、本当のことだもん。


 あたしがホントは奏向が好きだってこと、仲いい友達には話してあるから、みんな知ってる。ないとは思うけど、もしもとられちゃったら、嫌だし。


 だからよく、なんでいつも好きな人にイジワルするの? って聞かれる。


 あたしが奏向を見下す態度をとるようになったきっかけは、奏向と出会ってすぐのことだった。


 幼稚園で初めて会った時、奏向は今とは全然違ったんだよね。先生とすら一言も話さない、すっごく無口な子供だった。そう考えたら、あの時の奏向と夜空は、似てるかも。


 なんでこの人は全然喋んないんだろうって、子供ながらに不思議に思ったあたしは、しつこく奏向に付き纏った。


 でも、全然ダメ。


 何やっても無視されてムカついたあたしは、奏向が描いてた絵にイタズラ書きをした。そしたら奏向、わんわん泣いちゃって、あたしは先生にめっちゃ怒られた。


 それで先生からママにも報告がいっちゃって、奏向ママとうちのママが仲良くなったきっかけは、それなんだって。


 仲直りさせる為に、あたしは奏向の家に連れて行かれた。2人で遊べって言われてるのに、ずっと1人でゲームしてるし、またムカついて、コンセントを抜こうとしたら「やめて!」って。それが、初めて声を聞いた瞬間だった。

 

 そしたら奏向、コントローラーを渡してきた。


 あたしはゲームなんてしたことなかったし、やり方も分からなかったけど、見よう見まねで続けてたら、初心者なのに、なんか勝っちゃって。


 ヤバ、また泣いちゃうかもって思って見たら、悔しそうな顔で「もう1回……」って言ってきた。


 だからあたしは、ゲームで勝つ度に奏向を煽った。


 そしたら奏向、ムキになってあたしに立ち向かってくるんだもん。


 その時はちゃんと、あたしの目を見て話してくれる。


 嬉しくって、可笑しくって、帰りにママにおねだりして、おんなじゲーム機を買って貰った。


 高校生になった今でも、これは奏向には内緒にしてる。


 奏向が持ってるゲーム、実はあたしも全部持ってる。奏向をボコる為に、1人でコソ練してるんだ。


 これが――あたしが奏向をいじめるようになったきっかけ。いつの間にかそれが癖になっちゃって、たまにやり過ぎちゃうこともあるんだけど。


 あたしにとって大切な思い出で、これまでの人生の全てかもしんない。


 奏向と話したかった。

 ただ、仲良くなりたかった。


 その為に逆のことするなんて不思議だけど、なんかそれすらもあたしらって感じがする。



 ――好きになったのは、いつからなんだろ。


 いつの間にか好きになってた。


 小学校では認めたくなくて、中学校では恥ずかしくって、高校では……もう、隠したくなくなってた。


 でも、あたしから告白なんて出来ない。


 だって、それがあたしと奏向の関係だもん。


 だから、絶対好きって言わせてやる。


 奏向にはあたししかいないんだって、認めさせる。それが今のあたしの目標で、夢で、願い。


 夜空のことは好きだよ。なるべく力になってあげたいし、あたしにとっても、もう友達だから。だけど、いくら友達にだって、奏向だけは、分けてあげない。


 もしそれで嫌な女だって思われたって、別にいい。そんなことよりも大切な人を失うことの方がずっと、怖いもん。


 学校の教室の中では、奏向の隣は夜空だけど、心の中で隣にいるのは、あたしじゃないとイヤ。


 傲慢だって言われても、ソクバッキーって呼ばれても、あたしの隣に奏向がいるなら、それでいい。


 だからあたしは、あたしなりに前へ進む。


 これからも、これまでと同じように、奏向と2人で、進んでいきたいから――。


 

 


 

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