第3話 妖精と魔法使い

 転職から二週間。

 よく晴れた朝、オルテンシアは慌ただしく身支度をしていた。

 既に博物館での勤務を始め、ようやく慣れてきたかと言う頃に朝寝坊をしてしまったのだ。


(慣れたように思っていても、まだ疲れているのかも)


 化粧道具を片手にため息をつく。

 今日は帰宅したら早く休もう。幸いにも明日は休日だった。

 

 エドアルドに案内されたオルテンシアの新居は、博物館の近隣にあるほどよい広さのアパートメントだ。

 家具や不足していた日用品もあっという間にエドアルドが揃えてくれて、不自由はしていない。

 

 元々荷物はほとんど持ち合わせていなかったため、まだ部屋はがらんとしているが、窓辺にはイヴェッタがくれた鉢植えの観葉植物がちょこんと佇んでいて微笑ましい。


 出ていく時に困るため、新しく荷物は増やすつもりは無いが、せっかく素敵な部屋を借りたのだから飾り物を一つ増やしてみるのも悪くないかもしれない。


「寝癖、気付かれるかな……」


 鏡の前で何度も髪をいじる。

 毛先が変にうねってしまって、何度櫛を通しても寝癖が目立っていた。

 仕方が無いので長い髪をまとめて、三つ編みにする。

 紺色の髪は相変わらず毛量が多く、いずれさっぱり切ってしまいたいと思うぐらい。


「っと、もう行かないと」


 ようやく髪型が決まったところで、姿見で衣服を確認する。

 エドアルドがくれた出勤服……支給された制服と言うべきなのか。


 白のブラウスに黒のベストと揃いのスカート。

 制服らしいフォーマルさの中に、青色のタイとカメオブローチの飾りが可愛らしさを演出している。


 シグルズも似たような仕立ての衣装なのだが、イヴェッタは学芸員ではなく庭師の為、自由な服装で良いとのことで、日ごとに素敵なドレスで現れる。

 庭で魔法を操りながら優雅にのびのびとしている姿は様になっていて、絵画のような姿だと思わずにはいられない。


 ようやく身支度を終えると、鞄を持ち靴を履いて、ドアを開ける。

 真っ先に視界に入る人物は、ここ数日から変わらない。


「おはよう、お嬢さん」

「おはようございます、シグルズさん」


 今日はオルテンシアがいつもより遅かったからか、シグルズは廊下の壁に寄りかかり待っていてくれた。

 待ち合わせをしているわけではない。ただ、同じ職場へ同じ時間に同じ場所から向かうのだから必然的にこうなっただけだ。


 シグルズが住んでいるのは、隣の部屋なのだ。

 二階建ての小ぢんまりとした建物なので、元々部屋数は少なく、選ぶ余地はなかった。

 

 数日続くうちに待ち合わせのようになり、断る理由もないので一緒に出勤している。

 わざわざ待って貰わなくてもと言えば、シグルズ曰く、暇だからとのことだった。

 

「三つ編みかあ。いいじゃないか、君の優しい雰囲気に良く似合うよ」

「……あ、ありがとうございます」


 朝からバタバタと騒がしくなかっただろうか。寝坊したとは言えず、どうか気付かれないようにと祈るばかりだ。


(隣は気まずいから、なんて言ったら避けてるみたいで感じが悪いだろうと思ったけど……やっぱり変えてもらえば良かったかな!?)


 シグルズの距離感がいちいち近いのもあるが、やっぱり心臓が持たない。どうしてしまったのだろう。

 惚れっぽい性格ではなかったはずなのに。


「お嬢さん? どうかしたかな」

「い、いえ。なんでもないんです」


 誤魔化すように視線を逸らし、シグルズの横を歩く。

 雇われた以上はよこしまな考えを消して、仕事に集中しなければ。

 

 役職名は館長としても、人手不足ゆえ、オルテンシアの業務は多岐にわたる。

 古い収蔵品は修復士であるシグルズに任せるとして、展示室の準備、求人広告の作成、企画展の計画、収蔵庫の管理や日々の掃除だってある。


 展示品もただケースに並べれば良いという訳では無い。


 照度と温湿度の管理はまず第一に、埃やカビ、虫害の対策も必須だ。魔法博物館は基本的には問題ないが、収蔵庫の中の古いものまではまだ手が回っていない。


 求人だって、人を集める前に業務のマニュアルを整えたい。オルテンシア自身、ここに来たばかりで博物館の全てを把握している訳では無いからだ。


 エドアルドに至っては、全てオルテンシアに一任するとのことで、もう一週間は姿を見せていない。


 本業が忙しいとの事らしいが、彼の本業とは一体どんな職なのだろうか。

 物件をいくつも持っており、数多くのコネクションを有する男……そこから何となく想像してしまう職業は、小説の読みすぎが原因だろうと思っておく。

 

 とにもかくにも、現状は二人で手分けして進めるしかない。

 オープンの予定日は再来週を目安に、できるだけ余裕を持って決めている。


 正式なオープンの日時はエドアルドたちは特に決めていなかったようなので、オルテンシアが設定した。

 焦る必要はないが、目標はあるに越したことはない。


 

 ぎこちない通勤時間があっという間にすぎれば、本日の業務開始だ。


「それでは、今日一日もよろしくお願いします」


 改めて始業の挨拶をするが、結局シグルズと二人きりなのであまり意味は無いかもしれない。

 それぞれの持ち場へ移動し、作業を開始する。


 シグルズは、修復中の魔法弦楽器がもうすぐ完成しそうだから後で一緒に確認して欲しいと言っていた。

 それまでに、まずは作った求人広告と掲載場所の候補を検討し、すぐに手が付けられる事務作業をさっと片付けておく。


 黙々と働くことは嫌いじゃない。


 以前の職場では、そのせいで余分な仕事まで体良く押し付けられがちだったが、少なくともここにそんな人はいない。

 そうしていると、ふと、コンコンという戸を叩く音が聞こえてきた。


「……お客様?」

 

 書類から顔を上げてペンを置く。

 エドアルドやイヴェッタがわざわざノックすることはない。

 エントランスに向かえば、ちょうど、リンと呼び鈴を鳴らしながらドアが開いた。

 

「ごめんください。ここに、博物館があると聞いたのですが」


 ひょっこりと顔をのぞかせたのは赤髪の女の子だった。

 オルテンシアより年下の、十代半ばぐらいの外見年齢だ。


「こんにちは。ごめんなさい、この博物館はまだオープンしていないんです」


 中へ招き入れながら説明すれば、少女の背中にうっすらと蝶のような羽が透けていることに気付く。


(よ、妖精……! 久しぶりに見た!)


 クラヴィスにいるのは魔法使いだけではない。妖精や魔族、様々な種族が集まっている。

 中でも妖精は魔法使いとは古くから縁のある種族で、オルテンシアもよく知っている。


 長命種であり、見た目は様々。自然との調和を好み、時には人間に力を貸してくれる存在だ。

 ノクトレアでは一度もお目にかかることはなかった。もしかすると人から隠れて今も住んでいるのかもしれないが、そう表には出ててきてくれないだろう。

 

「いえ、お客さんではありません。面接を、受けに来たのです」

「面接って……面接!?」


 少女は真面目な顔をして頷く。


「知り合いの方から、ちょうど募集しているとお聞きしまして。あなたが館長さんですよね。お話は伝えてくださっているとのことなのですが」

「ええっと、ちょっとお待ちくださいね」


 ポケットから手帳を取り出して必死にめくるが、そんな予定は一言も書かれていない。

 もちろん、誰かから聞いたこともない。そもそもまだ求人広告は手元にある。


 そうなると、オルテンシア以外の人が話を持ちかけたということが考えられる。


「えっと、こちらにおかけ下さい。少々お待ちくださいね」

 

 少女は椅子にちょこんと座るが、彼女が妖精であるということは見た目通りの年齢ではない。子ども扱いなんてもってのほか、お客様として対応しなければ。


 とにかくシグルズを呼んでこなければと思ったら、ちょうどタイミング良くシグルズが現れる。


「おっと、一足遅かったようだ」

「シグルズさん、あの、ちょっとお話が」

「分かっている。彼女はイヴェッタが連れてきた子だ」


 そう言うなり、シグルズは少女に向かっていく。


「久しぶりだな、リーナ」

「お久しぶりです、シグルズさん」

「変わりないようで何よりだ。イヴェッタからの紹介だと聞いたが、以前の職場はどうしたんだ?」

「それが……色々とありまして」

「すまない、俺が悪かったな。話せるときでいいさ」

 

 少女は椅子から降りると、ぺこりと礼儀正しく挨拶をした。

 なんと二人は面識があるらしい。

 すっかりオルテンシアは置いてけぼりだ。


「あのぉ」

「ひっ!?」


 背後から聞こえた声にぱっと振り向けば、申し訳なさそうな顔のイヴェッタがいた。

 足音も気配もなかったため、驚いて飛び退いてしまう。いつの間に現れたのだろう。


「ごめんなさいね、うっかり伝え忘れちゃってたの。のんびりしているとあっという間に日が経つものね」

「ミス・イヴェッタ。あなたは少々時間にルーズすぎるかと」

「うふふ、リーナは相変わらず堅いわね」


 ふわふわした雰囲気のイヴェッタと、見た目らしからぬ堅い事務的な口調の少女。

 なんとも対称的な光景だった。


「ええと、こちらの方はイヴェッタさんの紹介ということで良いのでしょうか……?」

「ええ。私と同じ種族の子よ」

「種族?」


 思いもよらない言葉に首を傾げる。

 見たところ、リーナという少女は妖精で間違いない。つまり、同じ種族ということは。

 

「あら、そう言えばまだ言ってなかったわね。実は私も妖精なのよ」

「えっ」


 オルテンシアの反応に、イヴェッタはふふふと微笑んでいる。

 

「イヴェッタはこの館に古くから住んでいる妖精なんだ。要は本来の家主と言える。いつもの姿は人間に擬態しているだけだ」

「庭師って、そういう……」


 イヴェッタの魔法はあまり見たことの無いものばかりだと思っていたが、まさか魔法使いではなく妖精の力だなんて思いもよらなかった。

 

「な、なんで教えてくれなかったんですか」

「いや、それは……」


 自分だけ知らされていなかったなんて、とシグルズに問えば視線がイヴェッタに向けられる。


「私がシグルズとエドアルドに口止めしてたのよ。私の本当の姿を見たら、きっとあなたはびっくりしちゃうと思って」

「いえ。むしろ、納得しました。イヴェッタさんがただの庭師だとは思えなかったので」

「あら!? 私の擬態って下手なのかしら」

「そういうことではなくて、イヴェッタさんがあまりに綺麗なので……」

「まあ、嬉しいわ! あなたはやっぱり優しい子ね」


 イヴェッタの浮世離れしたのんびりした姿は、妖精と言われるとしっくりくる。

 時間の流れが違うかのような穏やかな雰囲気は、そこから来ていたのだろう。


「そんな優しいあなたにお願いなのだけれど、私の同胞をどうか雇って欲しいの」

「どのような仕事でも精一杯勤めさせて頂きます」


 リーナがオルテンシアに向かって頭を下げる。

 シグルズと顔を見合わせると、彼は大きく頷いた。

 

「えーと、では、面接……しましょうか」



 場所を事務室に移し、改めて自己紹介から始める。


「名前はリーナ。年齢は137歳、前職はホテルの受付をしておりました。父は人間、母は妖精です。今の姿は本体に近いものですが、ご希望であれば形を変えることも可能です」


 はきはきとした喋りで実に堂々としている。

 やはり年上だとは思っていたが桁も違うとは。

 それに、人と妖精の子とは珍しい。異種族間の夫婦は寿命の差があるため、最近ではあまり聞かなくなっていた。


「オルテンシア・リオーネと申します。2週間ほど前から魔法博物館に勤めておりまして、主に事務や展示室の整備などを担当しております」


 二人揃ってよろしくお願いします、と同時に頭を下げた。


「二人とも堅いな」

「すみません、こういうの初めてなので勝手が分からず……」


 横で見ていたシグルズが苦笑している。

 仕切り直しとばかりに、オルテンシアはこほんと咳払いをした。


「差し支えなければ、志望動機をお聞きしても?」


 自分は成り行きでここに来たくせに、と心の片隅で思うものの、一般的な面接のやり方に沿って進めていくしかない。


「事情があって急に解雇されてしまい、困っていたところをミス・イヴェッタにお声がけいただいたのです。魔法使いではありませんが、それなりに魔法への知識はありますので、必ずお役に立つと約束します」

「そうですか、それは大変でしたね」


 真面目に真っ当にやってきても、いきなり職を失うことはある。オルテンシアもそうだった。

 先程もシグルズと似たような話をしていたが、事情という部分は聞かない方が良いのだろう、と思いきや。


「事情って、何があったんだ。リーナみたいな働き者をいきなり解雇なんて。もしかして、不当な扱いを受けていたんじゃないか」

「そうよ、リーナを解雇するなんて、もしかしてよっぽど経営状態が悪かったのかしら?」


 シグルズもイヴェッタも、ためらうことなくリーナに尋ねている。

 

「いえ、オーナーとは良好な関係でしたし、業績に問題はありませんでしたよ。ただ、ホテル内で窃盗事件が発生し、その影響で解雇となりました」


 リーナは淡々と答えているが、詳細は濁しているように聞こえる。


「窃盗事件? まさか、リーナが犯人だと思ったなんて言うんじゃ……」

「そのまさかです。お客様のお財布が私のコーの中から出てきたので、無実を証明できず解雇となりました」


 ぽつぽつと語り始めたが、リーナの視線はだんだんと下がっていき、その顔は俯いていく。

 

「それが、例の世間を騒がせている窃盗事件に、妖精が関わったとされる証拠が出ているんです。その記事を読んだオーナーや他の従業員の皆様から、あらぬ疑いをかけられることになってしまって……」


 例の窃盗事件とは一体何の話か。シグルズに聞こうとして、レステの駅で警官に言われたことを思い出した。

 あの時は新聞を買いに行く間もなく、シグルズに魔法博物館へ連れられたため、すっかり頭から抜けてしまっていた。

 

「お嬢さんがこの街に来る少し前に起きた事件だ。ある有名な資産家の財産が盗み出されたらしい。ただ、あまりに犯人の痕跡がなく捜査に難航しているようで、犯人は妖精だという説がタブロイド紙に書かれていた。妖精なら、姿を変えることも、気配を消すことも簡単に行えるからな。もちろん、魔法ではないから魔力の痕跡も残らない」

「なるほど、そんなことが……」


 シグルズが軽く説明してくれたおかげで、なんとなく理解できた。

 しかし、だからといってホテル内で起こった事件と結ぶ付けるのは強引ではないだろうか。そんなことを言い出したら、この国の全ての妖精が容疑者になってしまう。

 イヴェッタも同意見のようで、表情をむっと曇らせている。

 

「でも、財布なんてリーナが盗むわけがないじゃない。紙幣なんて私たち妖精には価値のないものよ。真面目なリーナが今の生活を捨ててまで得ようと思うほどのものじゃないわ」

「ええ、その通りです。どうして私の服から出てきたのか、今も理解できないです。あの日、私はずっと受付のカウンターから離れてはいませんでしたし、お客様の部屋へ足を踏み入れてすらいませんでした。でも、一人の方が私を疑い始めた途端、次々と皆様の視線が厳しくなり始めて……最終的に、『今のご時世、妖精なんて雇えない』なんて言われて。はぁ、運が悪かったとしか言いようがないです」


 リーナは俯いたまま、膝の上でスカートの布をぎゅっと握りしめている。

 リーナ自身もこの結果に納得していないのは明白だった。


 その震えるか細い声を聞いて、オルテンシアはたまらず声を上げた。

 

「そんな……そんなこと、絶対にないです。勝手な思い込みで疑いをかけたあげく、解雇だなんて酷すぎます! そんなホテルなんて、辞めて正解ですよ!」


 突然大きな声を出したオルテンシアに、リーナさ咄嗟に顔を上げた。

 目をぱちくりとさせて呆気にとられている。

 

「実は私も、周囲からあらぬ疑いをかけられて職場にいられなくなり、この博物館にたどり着いたんです。だから、リーナさんのお話は他人事だとは思えません」

「――――そうだったのですね。気遣っていただき、感謝します」


 口調は堅いが、ようやくリーナの表情が明るいものに変わってくれた。

 

「この博物館には、あなたを不当に扱う者はいません。約束しましょう」

「では、雇用契約は成立ということで……」

「もちろんです。これからよろしくお願いしますね」


 オルテンシアは微笑みながら手を差し出す。

 リーナはおずおずと遠慮がちに、けれどもしっかりとその手を握ってくれた。



 イヴェッタが休憩がてらお茶を入れてくれるとのことなので、雇用契約に関する細かい話はその後だ。

 エドアルドの許可を取らず勝手に採用してしまったが、館長に一任すると言われているのだから構わないはずだろう。

 

「お嬢さん、少しいいかな」

「ええ、私も話したいことが」


 イヴェッタとリーナを残し、シグルズと二人で部屋の外へ出る。

 できる限り声を潜めて、お互い目配せしあった。


「リーナは嵌められたんじゃないか」

「私もそう思います。明らかに不自然ですよね」


 リーナの話にはおかしな点はいくつもあった。


「動機はなく、簡単に他者が介入できそうな物的証拠のみなんて。誰かがリーナさんに罪を着せようとしてやったと、容易に想像できます」


 受付であれば客室の場所も把握できるとはいえ、コートに盗んだものを隠したというのがいかにも不自然だ。

 それに、リーナの話からして状況証拠のみで、世間を騒がせるセンセーショナルな事件に影響を受けた形で追い込まれたということが分かる。

 

「仮に妖精の力を使って盗んだとしたら、コートなんて簡単に見つかりそうなところに隠すような詰めの甘いことするだろうか。それこそ、魔力の痕跡が残らないのならやり方は他にいくらだってあるはずだ」


 そもそもこの話は、リーナが金を欲したか人に対して悪意を持っていたという前提がなければ成り立たないはず。

 

 長命種である妖精は、基本的に金銭のような簡単に価値の変わるものには執着しない。長い時間を生き、自然との調和に重きを置く彼らにとって、紙幣やコインを得たところで土の養分にもならないからだ。


 もちろん、リーナのように俗世に紛れて生活する妖精もいるが、妖精が金に目が眩み事件を起こした、なんて事例はほとんどない。


 妖精と魔法使いの関係は基本的に対等か、妖精の方が上なのであってこの均衡が崩れてしまえば、妖精が魔法使いに力を貸してくれることはなくなり、魔法使いが妖精を庇護し崇めることもなくなるだろう。


「リーナさんは、このことに気付いているんでしょうか」

「どうだろうな。彼女は聡明だから一度は考えただろう。だが、あの性格からして……」


 シグルズは迷ったように考え込んでから、再び口を開いた。


「覚えておいてくれ。リーナはただの妖精じゃない。魔法使いと妖精、二つの種族にルーツを持つ存在だ」


 父親が人間で母親は妖精。自己紹介の時にそう言っていた。ただの人間ではなく魔法使いだったということか。


「彼女は人間を良き存在だと信じている。それを証明するために人に紛れて働くようになったんだ」


 そう言うシグルズの顔は、普段よりも陰があるようで、それ以上深く追求することは出来なかった。

 

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