第3話 レモネとライムの初仕事
「「ええっ、カフェのマスターになった!?」」
くっつけた机の向かいで、ジンジャーとミントがきれいにハモった。
そうなのよー。
しかもパパがそれ言ったの今朝なのよー。
まったく、娘をなんだと思ってるのかしら?
フォークでジャガイモを突っつきながら、私はほおを膨らませてみせる。
ちなみに今日の給食はポトフである。
「てかお前1人でカフェなんて、できんのかよ?」
「なによ失礼ね、これでもカフェの仕事はぜんぶ覚えてるんだから!」
生意気なことを言ってきたのはスカッシュ。
ライムに次いで、この班2人目の男子だ。
ライムとは違って、こいつはうるさいほどよくしゃべる。それもいちいち、むかつくようなことをね!
「でも1人じゃないの、ライムが助っ人で来てくれるから。これも今朝、ライムが来て知ったんだけど」
「……なるほど。だから一緒に登校してきたのね」
「そういうこと。……だからねジンジャー、それ違うから」
ミントはわかってくれたみたい。
ジンジャーはしょうこりもなく手でハートを作っていたから、私はくぎを刺しておいた。
「レモネ、カフェはいつから開けるの? 準備のためにお休みは取るのかしら」
「いやいや今日も営業するよ。突然だし不安だけど、常連さん困っちゃうから」
「あらら、大変ね……」
「本当だよ……」
はーあ、とため息。
まぁライムもいるから、2人でやるだけまだマシかなぁ。
そんなことを考えていたら、スカッシュがとんでもないことを言い出した。
「不安ってなら、今日はクラスみんなでお前のカフェに行くか!」
「……ちょっとなに言ってるの?! 意味わからないんだけど!」
「つまりだな、応援という名の冷やかしだ!」
「やめてよそんなこと!」
逆効果だよ、よけい緊張するじゃない!
それなのに、今度はジンジャーまで身を乗り出した。
「いいじゃんそれっ! あたし行くっ!」
「……ジンジャーのブレーキ役がいるわよね。しょうがない、わたしもお邪魔しようかしら」
「おーいみんな聞いてくれ! 放課後みんなでレモネのカフェ行こーぜ!」
「「「「さんせーっ!」」」」
「ぎゃーっやめてぇ!」
頭を抱える私。
みんな、さんせー! じゃないのよ!
というかミント、あなたジンジャーをダシに自分が来たいだけでしょっ!
私はなんとか止めようとしたけど、全然だめで。
結局、クラス全員がうちに来ることが決まったのだった……。
「ほらライム、急ぐわよっ!」
帰りの会が終わってすぐ、私はライムを引っ張って家に帰った。
もちろん開店準備のためだ。だらだらしてて、お客さんを待たせちゃいけないもの!
「とりあえず、お店の前の掃除をお願いっ!」
ほうきとちりとりを渡されたライムは、うんとうなずいてドアを開けた。
外は任せて、私は店内の準備をする。
まずは床の掃き掃除。
次にテーブルとイスの拭き掃除。カウンターの上も忘れずにね。
掃除が終わったら、ちょうどライムも戻ってきた。
初めてなのに私と同じタイミングで終わらせるなんて、意外とデキるじゃない。
少し不安が和らいだ。
「じゃあ、次はお湯を沸かしてくれる? ケトルはそれね、私は材料の確認してくるから! あ、沸いたら止めておいてっ」
「わかった」
今度は私が外に出て、裏の倉庫へ。
ケーキに使う小麦粉とか、コーヒー豆とかを置いておく場所だ。
ガラガラと引き戸を開けて、ひとつひとつ指差し確認っ!
「小麦粉……たっぷりある、お塩も大丈夫、お砂糖も平気、コーヒー豆は……次の配達日までならギリギリ持つかな」
うん、おっけーだ。
お店に戻って、ライムが沸かしてくれたお湯でポットとカップを温めておく。
こうすると、コーヒーが冷めにくくなるの。
あとはレコードに針ををブツッと置いて、花瓶の水を換えて、ドアに掛けた
「ふぃー……これが開店準備だよ。ライム、覚えた?」
「……なんとなく。流れはわかった」
「うん、それでいいよ。これから何度も一緒にやるからね!」
「何度も一緒に、か。――――ふっ」
「ん? なぁに?」
「ああいや、なんでもない」
なんかうれしそうなライム。すぐにいつもの仏頂面に戻っちゃったけど、なんでだろ?
それからしばらくして、カランとドアベルが鳴って。
「レモネ、来たよーっ!」
ジンジャーのあいさつとともに、クラスメイトがわらわらとなだれ込んできた。
いらっしゃいませ、と一礼する私。
クラスメイトでもお客さんはお客さん。礼儀正しく、大人の人と同じ対応で。
パパから教わった、プロ意識ってやつだ。
「アタシ初めて来た!」
「きゃっ、レモちゃん制服かわいい!」
「なーレモネ、どこ座ってもいいのかー?」
「お客さん俺たちだけかー?」
「わ、飛行機の模型いっぱいある!」
「…………もぅ、ちょっと静かにしてっ! みんな、とりあえずテーブルに座って!」
プロ意識、あえなく敗北。
私はなんとかみんなをなだめて、カウンター近くのテーブルにご案内。
1つじゃ足りなくて、2つに分かれて座ってもらった。
「ライム、ちょっと来てっ! 注文の取り方、見て覚えてっ」
「あら、本当にライムくんがいるわ。レモネのごまかしじゃなかったのねー」
「そう言ったでしょミントっ! まぁいいや、みんな注文は決まった?」
「俺カフェオレ!」
「じゃあおれも!」
「あたしも!」
「わたしも」
「ウチもー!」
「……待って待って、テーブルごとに聞くからっ!」
1人ずつ注文をメモしてみせてから、ライムにもう片方のテーブルをお願いする。
難しかったら言ってね、って言ったけど、自信ありげに首を振ってた。
私はキッチンへ戻りながらメモを見る。
結局、さっきのテーブルはみんなカフェオレだ。
ノリのいい子達だよね、まったく……。
「レモネ。注文取ってきた」
「ありがとライム! どれどれ――――って」
こっちも全員カフェオレかーっ!
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