第4話 小さな成功・大きな目標

セイリュウ魔導学園・初等部3年――

今月の《基礎魔力制御テスト》が、静かに始まろうとしていた。


教室には緊張が漂い、生徒たちは黙々と準備を進めている。

悠真もまた、机に向かい静かに目を閉じた。


(集中しろ。やるべきことはわかっている)


試験は、魔力を一定量・安定して魔法陣に通すというシンプルなもの。

しかし、その安定を保てなければ進級は許されない。悠真は過去に何度もここでつまずいた。


だが、今は違う。


合図が鳴り、生徒たちは一斉に魔力を流し始める。

悠真の指先の魔法陣がゆっくりと美しい光を放ち始めた。

渦も歪みもなく、理想的な安定を見せている。


(できた……!)


小さな成功だが、悠真にとっては確かな成長だった。

数週間前、クラスで最も遅れていた彼が、今は平均以上の成績を残しているのだ。


翌日、結果が返された。


【魔力制御テスト】

名前:神谷悠真

判定:B(安定)

備考:注目すべき成長あり


答案を見たクラスはざわめいた。


「え、あの神谷が?」

「急にどうしたんだ?」

「誰かに教わったのか?」


中には冷たい視線も混じっていたが、多くは変化を感じ取っていた。

悠真はただ静かに答案をノートにしまい込んだ。


(焦るな。まだ誰も俺を信じてはいない)

(でも、俺は必ず変わるんだ)


放課後、図書室へ向かう途中、悠真は廊下の掲示板の前で立ち止まった。

そこには新たな張り紙が貼られている。


【通知】

《特進クラス》候補者は東棟第三講義室へ集合せよ。

※関係者以外立入禁止。


「特進クラス……?」


今まで見たことのない名前だった。

しかし、悠真はふと思い出す。


(いや、確か前の世界にも“特進クラス”はあった。

でも、俺はあまりに弱すぎて、その存在をあまり認識していなかったな……)


下には「学内成績と演習スコア上位者が対象」と記されている。


(今世は、あそこにたどり着いてやる)


思いを新たにしながら、悠真は目立つことを避けて図書室へ向かった。


図書室の奥で、彼は今日も黙々と教本とノートを広げ、魔法理論を整理している。

その背後から、綾乃の視線が静かに注がれていた。


(……やっぱり、あの子、前とは変わってる)


綾乃は何も言わずにその場を離れたが、彼への興味が芽生えているのは確かだった。


帰宅後、悠真は答案とノートを広げ、未来の知識を思い出しながら次の魔法演習の準備をした。


(次は攻撃魔法の実技だ)

(火種魔法の応用を完璧にできれば、確実に一歩進める)


その時、掲示板の《特進クラス》の文字がふと頭に浮かんだ。


(自分にはまだ遠い存在だと思っていたけど……)

(でも、いつか、絶対にあそこに行ってやる)


胸の奥が熱くなるのを感じながら、悠真は静かに拳を握り締めた。



悠真の静かな逆転は、確かな歩みの始まりだった。

かつて気づけなかった“特進クラス”の影は、彼の未来に新たな挑戦をもたらす──。

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