第2話 リセットの朝

悠真は、見慣れた自室の天井を見つめていた。壁にかけられたカレンダーは、確かに一年前の日付を示している。


「本当に、戻ったんだ……」


信じられない気持ちが胸を締め付ける。けれど同時に、心の中にかすかな火が灯った。


あの日の絶望を、もう一度味わうわけにはいかない。今度は違う。必ず、違う結果を掴んでみせる。



朝の食卓で、母親が優しく声をかける。


「悠真、今日からまた学校ね。無理しすぎないでね。」


悠真はただ頷いた。これまでは言われた通りにやってもダメだった。でも今は違う。心の中には、未来の知識がある。



学校へ向かう道すがら、悠真は目に映る景色をじっくり見つめていた。毎日通う道、見慣れた校舎、顔なじみの店。


「全部知ってる場所だ。でも、俺の気持ちは変わった。」


目に映る何もかもが、新しい挑戦の舞台に見えた。



教室に入ると、同級生たちの視線が集まる。


「なんだ、あいつか……」と呟く声が聞こえる。


しかし悠真は、そんな声を気にしない。


「今日はまず、基礎から徹底的にやり直そう。」


そう心に決め、ノートを開く。過去の自分が見落としていた細かい魔法理論、力の使い方、魔力の流れ――すべて頭に入っている。



放課後、悠真は図書室でひとり、厚い魔法書を読み漁った。


「この魔法の理論はこうだったのか……。」


以前は理解できなかった複雑な仕組みも、不思議と今回はすんなりと頭に入る。


「ここを変えれば魔力の消費を抑えられる。次の試験ではこれを使うことにしよう。」


未来の試験問題も覚えている悠真には、効率よく対策を立てることが出来ていた。



家に帰ると、机の上には前回の自分が使っていた雑なメモが置かれていた。


悠真はそのメモを破り捨て、新しいノートに丁寧に計算や魔法陣を書き込んでいく。


「小さな積み重ねが、強さになる。」


彼の表情は真剣そのものだった。



夜、布団に入りながら、悠真は思った。


「これが本当の意味でのリセットだ。無駄な敗北を繰り返さず、確実に前へ進む。次の未来は、俺が変えてみせる。」


そう心に誓いながら、彼は静かに目を閉じた。

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