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愛染の席の向かいに置かれたソファーに座った二人の刑事――杉浦刑事は五十歳前後で大柄、ビーフジャーキーみたいに日に焼けている。
乗田刑事は二十代半ば、背は杉浦刑事の肩までしかなく、黒髪を小顔によく似合うショートカットにしている――は、にこやかな顔で愛染と向かい合っていたが、その目は笑っていなかった。
杉浦刑事は言った。
「ええと、愛染先生はドラッグストアでたまたま見かけた男のひと言から、彼が誘拐犯ではないか思われたのですよね?」
愛染は醒めた目で杉浦刑事を見返して言った。
「持って回った言い方はやめてほしいな。君らは清水君から僕の体験と推理を聞いたはずだ。ここで僕が話せば二度手間になる」
こんな返答は愛染にしてみればいつものことなのだが、まさか警視庁の刑事を相手にしても、その調子を通すとは思いもよらなかった。
怒鳴り返されるのじゃないかと、こっちのほうがはらはらしたが、変人の扱いは馴れているのか、刑事たちは顔色ひとつ変えなかった。
「まあ、そうおっしゃらずに、話してくださいよ。人を介して聞くのと、本人から聞くのでは大きな違いがあるんですから」
愛染は杉浦刑事を正面から見据えて言った。
「たしかに見聞したことを人に伝える時、その伝達者のバイアスがかかってしまうものだ。しかし、この清水君にかぎっては、その心配はない。彼はフィールドワークの達人だ。寺社の行事や旧家の民俗儀礼などを正確に記録保存するため、そうしたバイアスを最低限にとどめる訓練を積んでいる。その点において僕は、彼に全幅の信頼をおいている。警察への通報を彼に頼んだのも、僕自身が説明するよりわかりやすく正確に話してくれると思ったからだ」
「なるほど、先生のおっしゃることはよくわかります」
刑事はにこにこ笑って言った。
「しかし、われわれ刑事は愚直に聞き込みをするのが本分でして、その話はあの人から聞いたからもういいや、とはいかんのですよ。無駄と思っても繰り返し同じ話を聞き、そこから真相を解きほぐす糸口を見つけるのですよ。そんなわけですから、どうぞご協力を」
また愛染が反論するとやっかいなことになりそうだなと、私はいたたまれない気持ちになったが、意外にもすなおに「わかった」と言って、男らの会話から誘拐事件の発生を推理したいきさつを話しだした。
愛染も自分の主義より子どもの安全を優先したのだろう。
――だが、本当に誘拐事件など起こっているのだろうか? 私は愛染の話を聞きながら思った。
刑事たちはそのことについて、未だにイエスともノーとも言っていなかった。
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