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《さて、清水君は謎の男の発言になんの違和感も抱かなかったようだが、この会話には二つのおかしな点がある。一つは「8キロは重すぎる」と言ったこと。重さの感覚は人によって異なるから、8キロが重いかどうかは問題ではない。奇妙なのは、この男がベビーカーをもっていながら重すぎると言っていることだ。8キロ程度のものであったら、ベビーカーに載せれば、いくら非力の者でも楽に移動できるはずだ。違うかね? まして話し手は二十代半ばの健康に問題なさそうな男だ。僕や君よりよほど力がありそうに見えたよ。変じゃないか?》


《あ、ああ》

 私は一瞬、愛染がベビーカーを押す場面を想像してしまい、そのこと自体にうろたえてしまった。

《たしかに8キロくらいなら楽に押せると思うが、ベビーカーを押した経験がないからはっきりとは……》


《僕だってないよ》

 愛染は吐き捨てるように言った。

《でも、それくらい理屈でわかるだろう? ――まあ、いい。ここから、どういうことが想像されるか。男は8キロのもの――たぶん眠っている幼児だと思うが――が載ったベビーカーを、押していたのではなく、抱えて運んでいたという状況だ》


《いや、待てよ。必ずしもそうとは限らないのじゃないか?》

 口を挟むなといわれていたが、論証に問題があるとわかったからには黙っているわけにはいかない。

《たとえば、ベビーカーと8キロの何かを買って車まで運んだのかもしれないじゃないか?》


《君は人の話をちゃんと聞いていないのか? こんなことでは、何時間話しても終わらないぞ!》


 愛染は耳が痛くなるほどの大声でそう言った。しかし、私も黙っていなかった。

《だが、君の推論が間違っていたら、現実とはまったく違う結論に至ってしまうだろう?》

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