第13話  伊豆湯ヶ島

「伊豆湯ヶ島」


懐古趣味な旅館。

ロビーには、作家の書籍が無造作に置かれてある。

私の好きな作家の名もあった。


其の昔、ある歌人が立ち寄り、歌をよんだという。


軒の低い玄関、薄暗いフロント。

山の斜面に添うように建つ旅館には、名物の石風呂があるのだ。

そして大風呂は、宿泊の棟より出てジグザグとした廊下を渡り、山を降りるかのように少し下った先にある。大風呂からは、木々の間からの川の流れが見える。


旅館の案内係が教えてくれる。

旅館のまわりの道は斜面ゆえに、よく蛇が通るのだという。今日はまだ見ていないが、宿泊の間には〈幸運の蛇〉に出会えるかもしれないと。


蛇なんて緊張しちゃうよ出会えても

後退りする幸運おいて

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