第十九話 新人の配属先①

「これで大体、説明し終わったと思います」

「ありがとうございます」


その後、別室で仕事について様々な説明をカミール課長直々に受けた。他の人はあの調子だから、わざわざ配慮してくれたみたいだ。


「なにか困ったことがあれば言ってください。力になれることは少ないかもしれませんが・・・」

「いえ、そのお言葉だけでもありがたいです。それにしても、なぜこんなに気にかけてくださるんですか」

「妻が王都出身なんですよ。王都だから、貴族だからといって決めつけるのはよくないと妻は家で散々言っていますので」

「奥さんは中々に強い人なんですね」

「はは、尻に敷かれてますよ。おや、そろそろ日が傾いてきましたね。そろそろ帰宅すると良いでしょう。寮の説明はさっきしましたね」

「はい、では失礼します」





ネロがお辞儀をして、寮へと去っていく。本当に強い人だ。不思議なまでに。


「あの学園からやってくるだとう!?」

「しかも、貴族!えっ、元貴族?あまり変わりないだろう!」


彼女の配属書は届いたとき、上層部は大混乱に陥った。あの事件といくつかの不祥事により、その後王都出身でとりわけ貴族に近しいものは、長らく派遣されてこなかった。この地と中央の仲が悪いことは周知の事実のはずだ。わざわざ配属希望先にだすもの好きなどいない。おおかた、権力者の嫌がらせでこの地へ配属となったのだろう。ある意味、彼女は被害者だ。


「王都は我々を軽んじているのか!?まさか、あの事件を忘れたわけではあるまい」

「しかも、あの学園出身の元貴族だと、そんなものをこの地に迎え入れるなど言語道断!」


他の課長たちが一斉に非難の声を上げる。


「大体、王都の連中は・・・」

「静まれ」


鶴の一声により、一気にその場が静まり返った。ヘムル最高責任者  ユレイナ・アマリス。正真正銘、この地を統べるアマリス伯爵家の直系だ。彼女に逆らえるものなどこの領、いやこの東部にそうそういないだろう。


「どこの出身であろうとも文官は文官だ。うろたえることなどない」

「しかし・・・」

「確かに彼等がしてきたことを考えれば、警戒はするべきだ。しかし、出身によって差別するのは違う」


彼女のいうとおりだ。私は王都に確かに良い感情を持っているとはいえないが、そこまで悪いわけではない。だから、彼女が言っていることはよく分かる。でも、彼等は・・・


「警戒に警戒を重ねるべきです!そのためには、しっかりとその娘を見張れる余裕のある課が適任ですな、うちの財務課には無理そうですね」


また、はじまった。新人の文官は中央から配属される。地方や役所などは指定されるものも、課は決まっていない。この課長以上が集められる会議で配属先の課が決まる。もっとも、この新人は引き受けたがる課など皆無だろう。


「キル、お前のところの課はどうだ?」

「申し訳ありません、うちの課も手一杯でして」


あの公明正大な農業・林業課長のキルまで断るほどだ。


「立候補者はいないか?」


皆が俯く。履歴書を見る限り、なかなか困難な人生を歩いてきたようだ。魔族と人間のあいだに混血として生まれ、小さいころに両親とは死別。その後、平民落ちし、孤児院に入る。そして、そこから学園に入学か・・・成績なども見る限り、優秀ではあるようだ。けれど、悲しいものだ。学園の中でも混血ということで差別があったはず。そして、ここにとばされると言うことは少なからず、そうした差別や侮辱を受けてきたことになる。それを一部のものは王都の学園出身だからと、ここでも騒ぎ立てる。それこそ、私達に王都がしてきたことと同じだというのに。それを放っとくことはできそうにない。妻に蹴り飛ばされる。


「私の課が受けます」


一気に周りが騒ぎ出した。


「正気か?お前」


よこで同僚のラットが囁く。こいつも一応水産課の課長だけれど。


「ああ、至って正気だよ」

「本当か!?ブレーメ課長?」


ユリエナ様が叫ぶ。


「ええ、彼女はわが総合課にお任せください」

「そうか、よろしく頼むよ。ブレーメ課長。賛成のものは拍手を頼む」


「おお、総合課なら安心ですな。きちんと監視もできそうですし」

「そうですな、ありがたいことです」


多くの人が拍手をしだす。総合課は完全に舐められてるな。この状況もどうにかできたらいいが。それにしても、ここまで議題で揉めたことは、恐らく外部に漏れてしまうだろう。噂が広まるのは防げないが、なるべく、いい環境をととのえてやりたいものだ。きっと、王都にいる間、すでに心無い言葉により傷つけられた少女なのだから。







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