第十八話 拒絶の理由


<注意>

すこし暗めな回です。差別系が苦手な人はご注意を


というのは、やはり王都の人のことなんですよね」

「まあ、たしかにそうですが・・・」


なんだかブレーメさんの歯切れが悪い。やはり王都の人だからということのみではないみたいね。


「他にもあるのですか?」

「一応確かめますが、ネロは貴族ではないんですよね」

「ええ、元貴族なだけです」

「貴族のみが持つ家名に反応したのもありますが。部下たちのあの反応は、、、あなたがあの学園出身のことが大きいでしょう」

「学園?」


ブレーメが口をつむぐ。どうやらあまり言いたくないことみたいだけれど。でも、私は知らなければならない。


「なぜ学園という単語に反応するんですか?ブレーメ課長、教えてください」


そう言って、強い目で見つめると、ブレーメさんはあたりを気にしながら、教えてくれた。


「15年ほど前のことです。あなたの学園出身の大貴族、家名は伏せますがその3男が、この地に軍部の法務課の官吏として着任してきました。当時、王都の出身ということで多少は煙たがれましたが、今ほどではなかったので普通に迎え入れるはずだったんです。でも、この人は、、、あまりにも酷かったんです。彼は魔族を蔑視していて。最初の方は注意していましたが、彼の実家を盾に脅されるうちにとめるのが難しくなり、ある日この街に住んでいた一部の魔族を虐殺したのです」


あまりにもむごい。確かに王都には魔族を蔑視する貴族は一定数いる。けれど、虐殺まで手を伸ばすとは・・・。軍部の法務課といえば法を司る役職だ。官吏として、無辜の民の虐殺という、決してやってはいけないことをしたとも言える。


「もしかして、この町の自警団の権力が強いのは・・・」

「はい、この一件で軍部は信頼を得ることができなくなり、当時のヘルム最高責任者が自警団の結成を勧めました。軍部全体が悪いとはいえませんが、それでも彼に同調するものが一定数いたのも確かですので」


「そうでしたか。ですがこんなこと言ってはなんですが、それだけで学園を憎むとは・・・」

「その後です。彼はもちろん捕らえられ、裁きを受けることになりました。しかし中央からの要請により、王都のほうに引き渡されたのです。そこで彼は無罪となりました。ある人の力によって」


「ある人とは?」


「もちろん、彼の実家の力もありますが、、、。学園内の高名な教授の影響が大きかったようです。彼は国有数の大貴族であり、どうやら魔族について、その官吏に教えていたのもその教授のようでした。そして、学園内にもう一人いたんです。その教授を黙認したものが」

「誰なんですか?」

「当時の副学園長ですよ。彼はこの動きを掴んでいたはずです。なのに何もしなかった。恐らく自らの学園のイメージダウンを恐れたのでしょう。事件を起こした官吏は一応、学園の上位卒業者だったようで。これにより私達は学園を信じられなくなりました」


沈黙がその場に広がる。思ったよりもひどい。学園では確かに魔族を軽視するような発言をしてしまう教授もいる。でも、私はそういう教授の授業は取っていなかった。だから、現状をあまり知らない。想像以上に権力者側に魔族軽視の思考主が多い。だから、あの勇者リアムたちも魔族と人間の差別を抑えきることができなかったのか。

今気づいた。私が学園内で混血ということで差別があまりなかったのは、高位貴族や力のあるゼノスたちのおかげでもあったのか。


「よくわかりました。ですが、あの学園は素晴らしい教授も多くいらっしゃいます。全員同じにされては困ります」


「ええ、わかっています。ですが、その後も王都出身の文官・軍部の人間が来るたびに彼ほどではありませんが、不祥事が続きました。その多くが学園出身です。それに続けて中央が出した、この領に対する数々の法令により、この地は特に官吏、文官たちは、完全に王都や貴族、とりわけ学園を拒むようになってしまったのです。例え、あなたという人間は彼らと異なるとしても」


本当に根深いな。私という存在はその全てに当てはまってしまっている。学園出身で元ではあるが貴族、王都出身。正直、ここで働くのが一気に困難なものに見えてきたわね。


「なら、私がここで文官としてまともに働けるようになるには、相当な努力が必要ですね」


けれど、この地を離れるつもりはない。今の話を聞いた限り、魔族蔑視は前世の私の責任でもある。上手いができたとおもったんだけれど。すこし甘かったみたいね。時間をかければ差別は治るものだと思っていた私が馬鹿だった。それによって崩れた王都とこの地の絆や信頼を回復しなければならない。その最初の人物に私がなればいい。




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