White Vampire ~正義と人情~

テルン

第1話 500歳の少女

 朝暗かった空は明るい青空になる。青かった空は時間とともに橙色へと変わっていく。

 そんな中を俺はゆっくりと歩いている。


「やぁっと学校終わったぁ」


 腕を大きく空に伸ばす。


「なんだか一日が長く感じたゾ」


 いつもと同じように時間が流れているはずなのにこの感覚はなんなのだろうか。

 俺は薄暗い道路を歩く。街灯は少なく、夜になったら全く見えなくなる場所も存在していた。

 いわゆる田舎だった。

 学校の周りには田んぼ。通学路にも田んぼ。家の近くにも田んぼ。

 本当に全部使っているのか怪しく思えるほど田んぼだらけの地域だった。

 だがそんな中、一つ異様なものが見えた。

 すでに夕方。〈それ〉が何なのかよくわからなかったが多分人だったと思う。

 それだけなら別に異様でもなんでもない。

 ...羽、コウモリの羽を大きくしたようなもののシルエットが見えた。


「なんだ、あれ」


 俺は目を疑う。

 小柄な子供の背中らへんに何か得体のしれない物がついている。

 気づけば俺はゆっくりとそれに近づいていた。

 近づくにつれ姿かたちがはっきりとしてくる。

 やはり羽だった。人間ではないのだろうか。そう思うと恐怖に駆られたが、好奇心がそれを上回ってしまった。


「...誰よ、あなた」


 少女、白い髪のショートヘアだった。

 手には日傘と思しき物が握られてある。

 俺は無心でゆっくりと歩を進める。


「だ か ら!」


 少女は声を荒げる。


「あんた誰だって聞いてんの!それとも何?聞こえないの!?」


 俺はまさか少女がこんな声を出すとは思わず少し狼狽える。


「いやいやいや、聞こえてるよ。ごめん。ちょっと混乱してて...」


 俺は弁明をする。


「お、俺はしゅうだ。高校生だよ。えっと、君は?」

「私は......ラミア。」


 少し間があったのはなぜなのだろうか。

 外見からしてそうだったが、名前からして外国の人なのだろうか。それにしては日本語が上手い。


「失念だったわね。まさか人間がまだいたなんて。とっくにもう家ん中にでもいるものと思ってたのだけれど」

「...」

「気になるのね?私が」

「教えてくれるのか?」

「事情が変わったの。ちょっと最近行き詰ってたから」


 コホンとラミアは咳ばらいをする。

 ラミアは自身のスカートの裾をつまみお辞儀をする。まるで貴族のようだった。


「改めまして私はラミア。500年生きてる吸血鬼よ。」


 俺は再度目を見開く。

 耳を疑った。今この少女はなんと言った?吸血鬼?500年生きてる??訳がわからない、一体なんの話をされているのか。とうてい普通の高校生には理解しがたいものだった。


「ま、驚くのも無理ないわね」


 500歳の少女、ラミアが話し出す。


「つい200年前に、吸血鬼は劇的に数を減らしちゃったから。」


 ラミアは悲しげに語る。

 するといきなりその顔が笑顔に変わる。


「ふっ、聞きたいのね。でも少しここで話すには重い話なの。だから...」


 ラミアは唇に人差し指を当て、


「あなたの家に住まわせてくれないかしら?」


 そう告げてきた。

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