第31話
「…そんな…。フェレンを助けるには術を掛けた相手を探し出し、倒さないといけないって事か?」
「…そうなりますね。ロメニクス公爵様はその存在に心当たりなどは無いのですか?」
「そんな者は居ないはずだ。…産まれてからずっと、フェレンは人から恨まれるような事をするような子では無いと私が一番よく知っている。」
「まぁお父様であられる公爵様がそう仰るならそうなのでしょうね!私も今日初めてお嬢様にお会いいたしましたが、とても素敵な方だと思いましたし!…ただ人間というものは特別な理由や関わりが無くても、ただ片方が一方的に相手を知って、勝手に恨むという様な事はそこら中に溢れているくらいよくある事ですからね…。そちらの線が濃厚かもしれませんね。」
「確かにその通りだ…。我々は公爵家だから帝国民のほとんどがフェレンを知っているはず。その裏で誰かが勝手に恨んでいたとしても、それは…」
「あまりにも不特定多数すぎますね…。」
「…あぁ。でも直接関わりのない帝国民を疑うよりも、まずは関わった事のある人間から調べていった方がいいだろう。」
「私もそう思います!」
ここで暫く黙っていたシェザーテが再び口を開いた。
「…公爵様。この黒魔術というのは、曲がりなりにも我々南部の血が入っている者。禁忌にはなっていますが、魔力を持つ人間でなければ使う事の出来ない力です。なので、この者を追うにも魔力を持った我々の方が見つけ出しやすい可能性が高いですし、禁忌である黒魔術を使ったからには必ず見つけ出し、同族として始末しなくてはなりません。ですので、一先ずこの者の捜索は私達南部に任せて頂けませんか?」
そう言われると、お父様は頭を抱え考え込んだ。
「…確かに君の言う事は正しい。同じ力を持つ者の方が見つけ出しやすいだろう。だが…」
「…過去の事がありますから私を信用出来ない気持ちは分かります。ですが私ももう子供ではありませんし、南部公爵家の跡継ぎとして様々な事を学んできました。それに、捜索は私個人ではなく南部公爵家を挙げて責任を持ってやり遂げます。邸宅に帰り次第父にも話を通しておきますので、どうか私達にお任せ下さい。よろしくお願いします。」
「…はぁ。そうだな、私としてもまず第一にとにかく早くフェレンを助けたい。分かった。シェザーテ君、よろしく頼んだぞ。」
「分かりました、ご理解頂きありがとうございます。」
「良かったですね!シェザーテ様!…そうと決まれば私も黒魔術についてもっと勉強しないと!」
「それでは私達は南部に帰ります。捜索に関しては父にも話した上でまたご連絡します。…フェレナビアの体調に関しても、また何かあればご連絡下さい。」
「そうですよ!フェレナビア様!何かあればいつでも呼んで下さいね!私ベリアがすぐに飛んで参りますから!」
「ありがとうベリア!…それに…シェザーテも。」
「あぁ。…無理すんなよ。」
何よ珍しい!こいつ気遣いなんて出来たのね!
シェザーテとベリアはそう挨拶をすると足早に部屋を出て行った。
「…お父様、それでは私も部屋に戻りますね。」
「あぁ、フェレンも疲れただろう。ゆっくり休みなさい。」
「はい、お父様。」
私も応接室を出て、自分の部屋へと戻った。
そして部屋の近くに到着すると、扉の横で帰ったはずのシェザーテが待っていた。
「…帰ったんじゃなかったの?何でここに居るのよ。」
「あぁ、お前に伝え忘れた事があってよ。」
「何?伝え忘れた事って。」
「…お前、あまり人を信用するなよ。それが例え身近に居る人物でもだ。」
「何急に…どういう事?」
「言葉の通りだよ。家族でも友人でも、今までと違う雰囲気とか何か違和感を感じたら、そいつとは距離をとって絶対に二人きりにはなるなよ。」
「私の周りの人が犯人って事?そんな事は絶対にないわ!」
「そうじゃねえよ。お前の家族とか今まで信用して来た人達を疑ってるとかじゃなくて、黒魔術が禁忌になった理由は呪いを掛けられるからだけじゃない。…高度な黒魔術を使える奴は、人の身体に入り込む事が出来るんだよ。」
「えっ…それって身体を乗っ取ってしまうって事?」
「まぁ簡単に言えばそうだ。対象者の身体に入り込み、その当人の魂を押さえつけて黒魔術が自由にその身体を使って動き回る。つまり、外見はその知人だとしても中身は全然違う人間だって事だ。」
「そんな事が出来るだなんて…」
「まだ出来ると確信した訳じゃねぇけど、可能性は高い。だから…」
そう言うとシェザーテは私に近寄り手を伸ばしてきた。
私は咄嗟に目を瞑り顔を背けた。
「…別に危害なんて加えねえよ。」
パチッ
ん?私は耳に違和感を感じ目を開けシェザーテを見た。
「このピアスは身の危険を感じた時に一度だけ防御魔法が発動するようになっている魔道具だ。解決するまではいつどんな事があるか分からねえから、それは常に着けておけ。」
「えっ…あぁ…そんな物があるのね…ありがとう。」
「あぁ、これは俺達南部の問題でもあるからな。…じゃあそう言う事だ、気を付けろよ。」
ポンッ
そう言うとシェザーテは私の肩を叩き帰って行った。
「周りを信じるな…ね。」
シェザーテが残した言葉が耳に残って、私は部屋に入るとその事を考えずにはいられなかった。
(それにしたって、もし本当にそんな事が起きても見破る事なんて出来るのかな…自信ないけど…。どんな風にその術を使うのかは分からないけど、そういうのってきっと接触しないと掛けられないのよね?ならいつも一緒に居るマリアンは信用しても大丈夫かしら。私の家族も力があるからそう易易と魔術を掛けられる事は無いと思うんだけど…。誰も信じられないなんて、かなりしんどいじゃん。まぁとりあえずこのシェザーテから貰ったピアスがあるから、何かあっても一回は命拾いが出来るってのは有り難いわね。…本当に使えるのよね?まぁ信じてみるか。)
そしてシェザーテとベリアが来てから暫くが経ち、彼等の言葉とは裏腹に私は至って平穏な日常を過ごしていた。
外出は制限されているものの、家の中では黒魔術の事なんて忘れてしまうくらいに実に平和な日々だった。
「お嬢様ー!ファルゼリオン公爵家からお手紙が来ましたよー!」
「あら、本当?レオンかしら。」
「…ふふっ、お嬢様ったらその愛称呼びが板についてきましたね!」
「マリアンっ…!」
「いいんですよ、お嬢様!恋愛というものは日々を潤し、心を弾ませ、日常を色鮮やかにしてくれる物ではないですか!そしてそれは当人のみならず、周りに居る者までもキュンキュンさせてしまう作用があると私達が一番良く知っているじゃないですかー!」
「まぁそれはそうだけど…っていうかそんなんじゃないし!レオンとは言わば…同士みたいなもんよ…。」
「えー?そう思ってるのはお嬢様だけですよ!全く…レオナルド様も前途多難ですね!」
「…もうマリアンったら。」
「さぁお嬢様!こんな事言っててもしょうがないですから手紙を開けて下さい!」
「分かったわよ…全く。…どれどれ?」
レオンが怪我をしてからはずっと侍従のポールとやり取りをしていたが(何だかめっちゃ仲良くなった)今日の宛先に書かれている字はポールの物では無いようだった。
「あっ…」
その手紙はレオン本人からの物だった。
『ビア 体調はいかがですか?ずっと治療を出来ていないので心配しています。私はすっかり良くなりましたので、また治療を再開しましょう。ビアが都合のいい日に伺いますので、いつでも呼んで下さい。あなたに会える日を心より楽しみにしています。 レオナルド』
「ですってー!!」
「マリアン!あなたまた見てたの?」
「…ついつい〜!」
「もう…本当にあなたって子は…。」
「すみません!テヘッ!あっ!それはそうと早く返事しなきゃですね!」
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