第14話 好きにして

 車で移動する時も、飛行機に乗る時も、二人で肩を並べる姿をファンに見せた。テツヤがそうしたいのなら、するしかない。だが、それが特に問題になるわけでもない。意識せず、こうしていれば良かったのだ。

 空港では馴染みのカメラマンさんから、

「お二人で並ぶ姿は久しぶりですね。最近レイジさんはいつもカズキさんと一緒にいたから。」

と言われてしまった。何も言えねえ……。俺が困っていると、テツヤが俺の頭をちょっと触った。大丈夫だよ、と言ってくれたように感じた。

 飛行機に乗っている時、

「あ、鼻血出た。」

テツヤがそう言って、ティッシュを鼻に詰めていた。

「大丈夫?」

隣のブースにいた俺が声を掛けると、

「そうだ!レイジ、動画撮ろう。鼻にティッシュを詰めてる俺と、お前が黙ってビデオを見つめてて……」

テツヤには、何か絵が見えているらしい。

「はいはい、俺はどうすればいい?」

「ここに座って。カメラ回すぞ。」

俺がテツヤの椅子に座ると、テツヤは俺の上に乗っかってきた。えーと、これ公表するのか?

「ほら、前のビデオを見て。黙ってるんだぞ。」

シュールな絵を撮りたいのは分かった。とにかく言われた通りに前のビデオ画面を見つめる。生配信しているわけではないけれど、後でこれを全世界に発表するのだと思うと、ちょっと、いやかなり恥ずかしい。変にドキドキしてしまう。

 いつまで撮るのか、と思ってちょっとスマホの方を見たり腕を動かしたりしたら、テツヤは俺の方を振り返り、鼻のティッシュを引っこ抜いた。先端に血が付いている。

「流石にそれはないんじゃない?俺たちアイドルだよ?」

と、非難めいた事を言いつつ、笑ってしまった。テツヤも笑っていたから。

「絶対面白いって。それに、俺たちがくっついてるのを見て、ファンも喜んでくれるって。」

そうかなぁ。まあいいか。世界中の人を虜にするハンサムが、鼻にティッシュ突っ込んでるだけでももう、何と言うか……好きにしてくれ。

 俺の顔を手で挟んでパフパフするなど、テツヤはしばらくの間好き放題やった。これでもか、と俺との仲を見せびらかした。しかし、1週間も経つと満足したのか飽きたのか、しなくなった。なんだかなぁ。

 もちろん、人に見せびらかす事をしなくなっただけだ。人の見ていない所では、相変わらずである。むしろ、そういう時にはテツヤよりも俺の方が……。

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