第6話 問題のライブ配信

 アルコール断ちと糖質カットが功を奏したのか、だいぶ体重が落ちた。丸顔も解消した。今やタケル兄さん、カズキ兄さん、テツヤ、そして俺と、皆で懸命にジムで鍛えているのだった。ユウキ兄さんだけは、いつ食事をしているのかいつ寝ているのかも分からないほど、部屋に籠って楽曲制作に没頭しているようだった。

 しかし、俺の作曲の方はあまり進んでいない。頑張ってあれこれいじくってはいるのだが、これと言って成果物が出せていない。納得できる曲がなかなかできないのだ。

 せっかく見た目にも気を遣っているというのに、まだまだファンの前に姿を現さないというのはモチベーションが上がらない。ということで、ライブ放送をすることにした。

 が、その話をカズキ兄さんとしていたところ、テツヤは友達とご飯を食べに行くと言って夕方出かけてしまった。こんなところで友達?俺は俄かに不安に襲われた。誰だ?どんなやつだ?

 今アメリカにいる人でテツヤの友達を調べた。すると……なんとまたノゾムさん!この間会ったばかりなのに、また会いに行ったのか?

 ノゾムさんは散々浮名をならしたモテ男だった。女性歌手や女優さんとの噂を色々と耳にした事がある。そういう魅力的な人なのだ。テツヤがインスタに載せた動画を観ても、テツヤと仲良さそうだし、笑顔が魅力的なノゾムさんとテツヤは、なんかこう、お似合い……ウガ―、また俺は何という事を!テツヤは俺のものだー!

 と、モヤモヤする中、カズキ兄さんとライブ配信をした。せっかく痩せたからお披露目したいというただそれだけ。訓練所を出たばかりの頃は何をしゃべったらいいのか、どこを見たらいいのかも分からなかったのに、これもまたあっという間に慣れた。

 タケル兄さんも出かけていて、なんだかユウキ兄さんも出かけたとかで、メンバーの中で家にいたのはカズキ兄さんと俺だけだった。

「今俺たちしかいないから、ライブを始めました。」

「最近運動をよくしますよね。」

そんな風にしゃべっていたら、カズキ兄さんが、

「レイジとテツヤが運動を……」

と言い出すので、思わず、

「さっきドーナツを6個食べました。」

と、カズキ兄さんの話を遮った。だがカズキ兄さんも、

「本当にすごくたくさん……」

と話を続けるので、

「甘い物を食べたらしょっぱい物が食べたくなって、下に行ってカズキ兄さんとラーメンを食べたよね。」

と言ったら、

「そうだね。」

とカズキ兄さんをこっちの話に引っ張り込む事に成功した。更に、

「だからリップを塗り直さないと。」

と言って、自分のリップクリームを取ってカズキ兄さんの唇に塗ろうとした。

「塗ったよ、ちょっと、何をしてるんですか……あははは。」

冗談で揉み合いになり、リップは引っ込めたが、

「何で無理強いするんですか。あははは。あれ?何だっけ。」

カズキ兄さんは額に指を当てて考えているが、前の話の続きを思い出せない様子。俺とテツヤの話をさせない事には成功した。俺とテツヤが仲良くしている、なんて話をされたらどんな顔をしていいか分からない。きっと赤面してしまうだろう。

「そうだ、この人、僕が寝る時に動画を撮るんですよ。」

カズキ兄さんが俺の事を指さして言った。部屋に行ったら変な顔して寝てたから撮ったのだが、流石に我らの営業妨害になると思って言葉を飲み込んだ。

 2時間ほどライブ配信をして部屋に戻った。それからほどなくして、テツヤが帰って来たようだった。だが俺の部屋には来ず、自分の部屋でライブ配信を始めた。

「カズキとレイジがライブ配信していたので、僕も参加したかったのですが、ご飯を食べて帰ってきたら、ライブが終わってて……。」

テツヤはそう言って、なんだか寂しそうだった。寂しそうというか、泣きそうに見えた。チクリと胸が痛む。でも、テツヤがノゾムさんの所に行っちゃったから…だから…。

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