第3話 脇の下

 コンサートは最高だった。ものすごく久しぶりに舞台に立って、歌ったり踊ったりしたわけだが、やっぱり俺の天職はコレだと思った。上の方でテツヤも見ていて、白いシャツを着たテツヤは暗い客席にいても目立っていた。顔までは見えなかったのだが。

 自分の出番が終わったら、テツヤの元へと駆け付けた。もちろん、テツヤだけでなくメンバーが皆集まっていた。ステージにいるマサト兄さん以外の6人が並んだ。俺たちの完全復活を客席にいるファンに見せられたのは嬉しい。

 それで、テツヤとは最初離れて立っていた。たまたまだが。しかし、テツヤがこちらへ移動してきた。嬉しいけど恥ずかしい。気おくれもする。

「レイジ。」

にこやかにやって来るテツヤ。俺は特に何も言わず、笑って目を反らした。直視できない。それに照れるから、客席の椅子の背もたれに手をついて腕立てをしてみたりする。それを見たカズキ兄さんが、俺の顎を触って顔を上に向けさせた。

「うがっ。」

変な声が出た。するとテツヤはカズキ兄さんに対抗心を燃やしたのか、腕立てをする俺を後ろから片腕でぐっと捕まえ、顔を近づけた。俺、フリーズ。人前で、こんなにくっついちゃっていいのか?

 テツヤは満足げな顔をして腕を放した。俺はまた腕立てを続けるしかなかった。ああ、暑い。

 コンサートも佳境に入った。俺は何となく恥ずかしくて、テツヤの後ろに立っていた。まだまだ大勢の人に見られている状況に慣れない。だが、テツヤが無防備に立っているのを目の前にして、ついいたずら心が芽生えた。いや、俺の心からの欲望かもしれない。

「ひゃっ!」

俺がテツヤの両方の脇の下を触ったので、テツヤは声を上げて縮こまった。そして振り返る。

 素知らぬ顔をしようと思ったのだが、俺の顔を睨むテツヤの顔がどうも……嬉しそう?そして、また前を向いたかと思ったら、俺の腕をちょっと引き寄せる。何?もう一回やれって?なんで?我慢してみせるってか?

 ということで、ご期待通りもう一度脇の下を触った。ちょっとだけ我慢したテツヤは、やっぱり我慢できずに身をくねらせ、しゃがんだ。そして大笑いする。テツヤは前から脇の下が弱い。ちょっと触るだけですごくくすぐったがる。それが可愛くて仕方がない。つい、やってしまった。人前なのに。

「何、嬉しいの?」

低く聞くと、

「嬉しくないよー。」

テツヤはそう言って、わはははと笑うのだった。

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