第2話 出所

 翌日、網走訓練所の外に出ると、やはり報道陣やファンがたくさん詰めかけていた。昨日のテツヤたちと同じだ。門を出て、その大勢の人やカメラの前に立ってみたら、急に恥ずかしくなった。ノーメイクだし、まだ痩せられていないし、ああ、以前はどんな顔で人前に立っていたのだったか。

 カズキ兄さんを見ると、やはりこちらを見て恥ずかしそうに笑い、大勢の人に背中を向けてしまう。やっぱり俺と同じだな。2年の間、人前に出ていなかった。その前は10年もアイドルをやっていたのに。楽な方に慣れるのは速いらしい。

 マイクを押し付け合ったり、一緒に後ろを向いてしまったりしつつ、俺とカズキ兄さんの会見は何とか終わった。昨日はシュッとしたテツヤと、少し戸惑いながらもリーダーとしての才覚のあるタケル兄さんの会見で、きちんと挨拶が出来ていたのだが、俺たちは何だか素人丸だしで、一応挨拶はしたけれど、顔が作れていないと言うか何と言うか……ああ恥ずかしい。

 その足で東京へ移動した。いよいよメンバーが揃う。テツヤに会える。


 久しぶりに出社した。実は翌日、マサト兄さんのコンサートにゲスト出演する事になっていた。歌の練習はこっそりしていたけれど、振り付けの練習をマサト兄さんと合わせなければならない。シン兄さんもいて、3人で振り付けの練習をした。

 とにかく痩せなければならない。糖質カットだ。運動もするし、それから酒断ちだ。

 ひたすらダイエットにいそしんだものの、1日や2日では効果が出ず。まだまだ丸い顔でコンサートのステージに立つ事になった。それに、テツヤにも会う事に。会えるのは嬉しいのだが、あんなに完璧に美しく引き締まったテツヤと並ぶのが、何となく……気おくれする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る