14、擬人化文房具特別調査委員会(1)



「すみません、お待たせいたしました」


 そう言いながら会議室に入ってきたのは、いかにも研究員ですみたいな雰囲気の男とその助手ですみたいな感じの女、でさっきの案内人。案内人はお茶を出してそそくさと退散した。ドラマとかでよく見るような大きな会議用テーブルに向かい合って座り、チラッと前を見ると研究員の男と目が合った。


 ま、なんとなくだろうなとは思ってたけど、全然歓迎ムードではないよね。しかも見下すような目で見てくる時点でお察しだけど。呼んだのそっちなくせに随分と舐めた態度……なーんて思ってみたりみなかったりして? ははは。


「私は擬人化文房具特別調査委員会 会長 日高翔ひだかかけると申します」


 え、今『日髙』って言ったよね? え? あのクソ変態野郎の生みの親ですパターンきた?


「私は擬人化文房具特別調査委員会 委員長 岸本佳南きしもとかなみです」

「私は彪ヶ丘学園、羽柴の担任の堀江信宏です」


 先生って一人称『俺』なのに、こういう時しっかり『私』に切り替えてるの大人だなー。本当に色々と意外すぎる。


「私はっ」

「羽柴凛子さん、単刀直入に申し上げます」


 私も自己紹介しようとして、それをスパンッと遮ったのは日髙会長で。


「貴女のような平凡生徒にSSSの使用を許可するわけにはいかない」

「は、はあ、そうですか」

「貴女のことは調べましたよ、随分と野蛮な日常をお送りだったようで? 単細胞で生きてきたんでしょう。学力も平凡もしくは平凡以下。運動能力はまぁそこそこ。で、取り柄はその容姿くらいでしょうか?」


 はあ、知らね~よとかしか言いようがない。ていうか、なにこいつ。煽ってんのかな? 私を怒らせたい的な? 問題起こさせたいわけ? そもそも私だってあんなクソ変態野郎なんて願い下げなんだけど。


「はあ、まあ、そうなんじゃっ」


『そうなんじゃないですかー』って言おうとした時だった。


「お言葉ですが、羽柴は確かに学力面で言えばまだまだ伸び代はありますよ。そこは私の腕が鳴るってもんでしょうが。そんなことより、人間っつーもんはもっと他に大切なもんがあんでしょう。羽柴にはそれがしっかりある、他者には無い、簡単には為しえない大切なもんが。学力だけが全てではない、そんなことも理解できず擬人化文房具の研究ですか。それはご立派なもんで。如何せん私はそんなことを言われる為に、聞かせる為に羽柴をここへ連れてきたわけではありません。私の生徒を侮辱するのはやめていただきたい。謝罪を求めます」


 今までこんなこと言ってくれる教師っていたかな。今まで私とは関わりたくないって感じの教師ばっかで、まあ問題児だったのは認めるけど。こんな風に私を庇ってくれる……というか、守ろうとしてくれる教師が初めてでなんかムズムズする。意外と熱血教師なのかも? 死ぬほど柄じゃなさそうだけど。


「随分と肩入れしてらっしゃるようで、その生徒に」

「日髙会長、発言には気をつけてください。言いすぎです」


 委員長だっけ? 岸本さんって言ってたかな。なんていうか、口ではそう言ってるけど、私に対してなんとも思ってないっていうか、むしろ『言われて当然でしょ? 貴女みたいな女』感が否めない。


「はあ、そうでしょうか。気に障ったのなら謝ります、申し訳ございません」

「そういうことじゃないでしょうがっ」

「あーもう、いいって先生」

「羽柴、こういう時は引き下がんな。下手に出る必要もねえ」

「いや、引き下がってよ。もうめんどいし、ぶっちゃけどうでもいい。勝手に言ってろとしか思えないから。だいたい、そんなんで煽ってるつもりなのかなー。ガキの口喧嘩でもあるまいし」


 鼻で笑いながら相手方を見る私も大概性格ひん曲がってるわ。


「両親があの両親なら子も子ですね」

「あー、悪いですけどそういうの私には通用しないんで。親のこと悪く言えば~とかそういう魂胆ですよね? テンプレかよ、マジ笑う」

「なるほど? 救いようのない単細胞馬鹿というわけでは無さそうだ」

「場数が違うんで。何事も場数踏むのが大切かと」


 何事も冷静に。特に喧嘩の時は冷静さを欠くなと教わったし羽柴家の家訓にもなってる。私は一度、美智瑠絡みの喧嘩で冷静さを欠き、美智瑠に怪我をさせてしまった。とはいえ軽い擦りむき傷で、焦った美智瑠が1人で転んで……っていう流れだったけど、焦らせたのは冷静さを欠いた私が原因なわけで、だから私のせい。もう二度と、冷静さを欠くことはしない。元々そういうタイプでもないし……そういうタイプじゃないはずなのに、あの男のせいで狂い始めてる──。


「あのSSSは私が初めて開発した擬人化文房具の最高傑作。ですが、この私達でさえSSSの全ては把握しきれておらず、ごく一部しか把握できていないのが現実です。来る者を全否定し拒絶するSSSに頭を悩ましていました。あれは最高傑作にして最高峰……そして、いわば“バグ”なのです」

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