13、デート?(2)

 手を振っても振り返すわけもない龍。そんな龍は私達が乗ってる車が見えなくなるまでジッと立ってた。帰った後のご機嫌取りがんばろー。にしても、すんごい高級車。たしか26歳って言ってたような……26歳の教師ってこんなの買えるくらいの給料貰ってんのかな。


「俺が金持ちってわけじゃねーぞ」


 ということは、実家がパターンね。人は見た目に依らずとはまさにこれ。


「へぇー」

「利用できるもんはしとかねぇとな~」

「ま、それもそうですね」

「悪い、煙草いいか?」

「あ、どーぞどーぞ」


 うちお父さんもお母さんも吸ってるし、龍も吸ってるから煙草に抵抗はない。なんかむしろ安心するっていうか、臭いんだけどちょっとホッとするみたいなね。


「あれ彼氏か?」

「はい?」

「さっきの」

「え、いや、違いますけど」

「そうか……ってやべ。これセクハラか? いやぁ、おっさんの戯れ言だと思って許してちょー」


 窓を開けて、煙草の煙がちゃんと外に出ていくように一応配慮しながら吸ってる担任。ていうか、『担任担任』言ってるとポロッと本人に『担任』とか言っちゃいそうだな。『先生』もしくは『堀江先生』……まあ、先生でいっか。


「おっさんって年齢でもなくないですか」

「羽柴くらいの年齢からしたら26なんざおっさんだろー」

「さあ? どうなんでしょう。別に私はおっさんとは思いませんけど」

「じゃあ俺も許容範囲か? なんつって~」

「はあ」


 この人、なんか本当に適当そうな人だなぁ。ていうか、これからどこ行くんだろう。デートなわけでもあるまいし、そもそもなんでスーツ着てんだろって感じだし。


「擬人化文房具特別調査委員会、その本部に今向かってる」

「へぇー。……ん?」

「ま、そーゆーこと」

「え、どーゆーこと」


 それから下道が面倒とか言って高速に乗り、『ここのパーキングのソフトクリームうめぇぞ』とか言ってなぜか奢られた。


「うめぇだろ」

「美味しいですね」

「こっちの食うか? そっちのもくれよ」

「あー、どうぞ」


 お互いスプーンで食べてるし『ま、いっか』くらいにしか思ってなくて、先生もあっけらかんとしてるから特に気にも止めず食べ合いっこしてる。


「先生のやつのほうが美味しいですね」

「交換してやろっか? 俺はどっちでもいいぞ~」

「いや、いいです」

「そうか」


『クソしみるわ~』とか言いながらちゃちゃっと食べ終わった先生は目と鼻の先にある喫煙所に行きたいのか落ち着きがなくて、『どうぞ、吸ってきてください』って言ったんだけど、『いや、いい』の一点張り。


「で、どうだ」

「え、なにがですか」

「SSS」

「ああ」


 言えない、あんなことがあったなんて言えるわけがない。そもそも先生もSSSがあんな奴とは思ってなかっただろうし、ゴリ押ししてきた先生は少なからず責任とか感じてそうで、なんかそうやって無駄に責任みたいなの負わせるの嫌だし、だから余計なことは言わない。そもそも面倒なことになるのがめんどくさい。


「大丈夫か?」

「まあ、はい」

「悪かったな、想定外すぎた。あんな自我の塊みたいな奴、元来存在するはずがねぇんだが……ま、俺に責任がある。なんでもしてやっからなんでも言ってこい」

「最終的に契約したのは私だし、別に先生のせいじゃなくない? 気になくても大丈夫です。悪いのは全部SSS(日髙)なんで」

「……まぁ、変わってねぇか。お前は── だわな」

「え? なんて?」

「いや? こっちの話。うーし、行くか」

「あ、はい」


 車に乗ってそっこー煙草を咥えて火をつけた先生を呆れた目で見るしかない私。そんな視線に気づいたのかフッと鼻で笑って外に煙を吐き出してる。


「別に喫煙所で吸えばよかったじゃないですか」

「危ねぇだろ」

「え、なにがですか?」

「周り男だらけだっただろ。危ねぇじゃん、さすがに1人にすんのは」


『いや、全然平気です。束になってかかって来ても全員もれなく伸せる自信しかありませんし』なーんて言えるはずもなく。私は“普通の女子高生”。


「お気遣いどうもです」


 生徒と外出時に問題があったら教師としての立場が~みたいなのもあるよね。そりゃ気も遣うか。意外とって言ったらあれだけど、意外とちゃんとした先生なんだなー。


「……やば」

「随分とご立派な高層ビルで」


 擬人化文房具特別調査委員会の本部とやらは、見上げれば首が痛くなるほどの高層ビルで見上げるのをやめた。なんか場違い感ヤバくない? そもそも先生スーツなら私制服でもよかったんじゃ? とか思いつつ、案内されるがまま最上階までやってきた。案内されたのは会議室みたいなところで、『少々お待ちください』と出ていく案内人。取り残された私と先生は最上階の窓から下を見下ろして、なぜか同時に顔を見合わせた。


「「高すぎ」」


 この一言に尽きる。

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