12、情報量多々(1)



「はぁ、なんか疲れた」


 なにに疲れたの? ってあいつしかいないよね、察してください。そう日髙です、日髙聡です。なぜかヌルッと出てこなくなったし、このまま一生出てこないでほしいんだけど。あ、担任にライクしようかな。もしかしたら、なんか情報持ってるかもしれないし。まあ、ただの擬人化文房具でさえ情報不足なんだから、日髙なんてトップシークレットだろうな。


「ていうか、担任とプライベートで連絡取り合うって今どき普通? 学校にバレて大事になるとかない……よね? そういうのめんどいしなぁ」


 でも、担任から渡してきたわけだし問題はないよね、たぶん。担任から渡されたメモを見ながらID検索っと。


「あ、出てきた」


 堀江信宏……うん、担任で間違えなさそう。ていうかトプ画缶ビールタワーとかどんなセンスしてんのよ。えーっと《こんにちは、羽柴凛子です。SSSのことでちょっと聞きたいことあるんですけど。》っと。


「はやっ」


 すぐ既読になった……わりに返事が一向に来ない眠いし。ベッドに座ってそのまま倒れ込むように寝転ぶと、スマホを持ったまま寝てしまった。


 ── 妙に安心する温もりといい匂いに包まれて、少し振動して程よく揺られてるような。ん? なんかスーハースーハー聞こえるし、ハァハァ聞こえるのは一体なんなの?


 パチッと目を開けると、なぜか添い寝して微笑んでる日髙と目が合った。ていうか、おまえなにしてんのマジで。


「すみません。凛子様の寝顔があまりにも可愛らしくてもう我慢の限界で。凛子様の寝顔と甘い香りをオカズにします」


 は? いや、マジで、なにを、言ってんの、おまえ。


「この変態がっ……んっ!?」


 ちょ、待って、マジで、ほんっと待って。なんで私、日髙にキスされてんの? しかもこのクソ変態、下半身なにしてんのマジで。さっきから激しさ増す一方なんですけど、なにこの状況。ベッドがギシギシ軋むわ、抱きしめられながらキスされるわ、調子こいて舌入れてくるわ。ま、舌噛んでやったけど。


「あいたた。こらこら、凛様。大きな声を出してはいけませんよ? 番犬君が来てしまう」

「ド変態クソ野郎が」

「ククッ、ありがとうございます」

「褒められてると思ってんなら修理してもらえクソ変態」

「ハハッ、にしてもやはり凛子様は甘いですね……匂いも唇も。たまんないな、これでイけそうです」

「ちょっ!? 離せってば!」


 スーハースーハー私の匂いを嗅いでハァハァと吐息を漏らしながら少し息を切らす日髙に寒気しかしない。キモすぎてシヌ。逃げようにもこのド変態クソ野郎が馬鹿力すぎてなんともならないのが現実。あーヤバいヤバい、ほんっと冗談抜きで。


「ハァハァ、凛子様。僕の目をしっかり見て」

「ちょ、なにっ!?」


 目をガン開きさせながら再び私の口を塞いできた日髙。こいつ、マジでキモすぎる。これさ、もうこの際だからはっきり言っちゃうけど、今こいつ1人でやってるよね? マジで信じらんない、ほんっとありえない。


 その手がピタリと止まって私の唇も解放された。


「凛子様のぬくもりと甘い香りでイけました」

「そうか、次はおまえが逝け」


 ニタニタしてる日髙の上に跨がってぶん殴ろうとした時──。


「はい、どうぞ。手作りのバターです」


 手作りのバターですって、なに……? ニコニコしながら私に差し出してきたのは、ペットボトルのなかで白く固まってるバターらしきもの。もう情報量多すぎてシヌ。なんなのこいつ、マジで紛らわしくてうざいんだけど。


「凛子様のえっち~」

「そうか、シネ」


 馬乗りになって容赦なく日髙の顔面をぶん殴った……はずなのに、それを躱された挙げ句、なぜか私が天井と日髙を見上げてるんですけど?


「凛子様は本当に可愛らしいお方だ。荒々しい凛子様も素敵ですけど、僕のキスで頬を染めちゃうウブな凛子様も素敵だなぁ」

「は? べっ、別にウブとかじゃないし! 赤くもなってない! 勘違いも甚だしいわ」


 気づかれないように、悟られないように、私はそんなキャラじゃないって、ちゃんと隠せてたはずなのに。さっきからドキドキが止まらない、相手はどう考えたって気持ち悪い男でしかないのに。私、どうかしてんじゃないの。


「へぇ、そうですか。僕の勘違いかどうかもう一度確かめてよろしいでしょうか? そうですね、次はもっと甘いのにしましょう」

「ちょ、なんの冗談? いいかげんにして、ほんっとキモい」

「ハハッ、ありがとうございます」

「だから褒めてないし! って、ちょちょちょ!?」


 こんな時、日髙のようなどの角度から見てもイケメンなのが隠しきれなくて滲み出てるような男に攻められたら、まあときめくのが普通だと思うの。ぶっちゃけドキドキしちゃってるのは潔く認めるわ。


 でも……きっっしょいんだって!! とにかく気持ち悪いの!! 『ぶちゅー、ちゅっちゅー』とか言いながらタコ唇で迫ってくるこのクソ変態残念イケメンをなんとかしてくんないかな!?


 私は迫ってくる変態タコの顔面を必死に押さえて、嫌がってる私を見てニタニタしてる日髙。


「ククッ。凛子様は無防備ですね、どうしましょうか」

「は? なに言って……ひっ!?」


 お腹に日髙の大きな手が添えられて、その手がスッと服を捲りながら私の肌に触れはじめた。しかも妙にやらしい手つきで。こんなの無理、マジで死ぬ。


「……っ、日髙!」

「どうします? このまま僕にあれこれされるか、僕のキスを受け入れるか」

「は? なんでその2択!? 意味わかんない、ふざけんな、さっさとその手退けろ」

「僕は本気ですよ。凛子様に心惹かれ、こんなにも愛しているのにキスもできない、触れることもできない。そんなこと……許させるわけがないじゃないですか! キスもしたい、触れたい、繋がりたい、余すことなく隅から隅からまで匂いを嗅いで、僕の舌で凛子様を舐め回したい! なのになんで、どうしてそんなにも僕を拒絶するんですか凛子様!! 僕達は永遠の愛を誓ったっ」

「誓ってねーよ! 勝手にド変態ぶっカマすのやめてくんない!?」

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