12、情報量多々(2)

「愛する人を愛でたいと思うのは変態ではありません、至極当然のこと。凛子様のリコーダーをべろべろしたかった……それが僕の心残りです!! 私は凛子様の鼻かみティッシュすらもコレクションにしたい!!」

「歩く18禁かおまえは!!」


 ていうか、なんっで日髙がヒステリックになってんの? ヒステリックになりたいのどちらかと言えば私なんですけど!?


「だいたい私がリコーダーぴーぴー吹いてたと思う? リコーダーなんて持ったことすらないわ」

「ガッッテェェム!! そ、そんな……凛子様の使用済みリコーダーがこの世に存在してない……だと? そんな世界失くなってしまえばいいのに。僕と凛子様で1からこの世界を作り直しましょう。1人目は女の子男の子どちらがいいですか?」


 ねえ、なんかもう気持ち悪いの度が振り切りすぎてて引くっていうレベルすら凌駕したからもう“無”でしかないんですけど。


「あの、その手いいかげんにしないとへし折りますが?」

「ならその両手、僕の顔から離してみては?」


 日髙の顔から手を離せばお腹を直で触ってる手をへし折ことは可能、たぶん。でもこの手を離したらこいつ絶対にキスしてくる、これは断言できる。まあ、さすがの日髙もこれ以上はなにもしてこないだろうし、お腹を触られるくらいちょっと我慢すれば……って我慢とか無理! 変な触り方してくるし、こいつ!


 ぞくぞくして、全身を縛られて支配されていくようなこの感覚、私は知らない。


「凛子様、僕がこれ以上なにもしないとお考えなら詰めが甘いですよ」

「は? ちょっ!?」


 日髙の手が下腹部から這うように上がってきて、谷間にスッと手を滑らしながらフロントホックに指をかけてピタリと止まった。色っぽい瞳で私を見下ろす日髙にドドドドと心臓が飛び出そうになって、もうキャパオーバー。


「わ、わかった、わかったから!」

「へぇ、なにが『わかった』のでしょうか」


 これ以上は無理、マジで無理、こいつマジでやりかねない。キスされるほうがマシ、絶対そのほうがマシ……だけど、やっぱ嫌、絶対嫌、ほんっと嫌!! こんなキャラじゃない、こんなはずじゃないのに、なんでこの私が言いなりになんないといけないの!?


 その時、コンコンッと部屋のドアを鳴らされて、それが誰なのかは言わずもがな。


「凛子さん、飯できたっすけど」


 今、一番来てほしくない人物が来てしまった。龍はむやみやたらに私の部屋を開けたりしない。ああ見えて本当に気遣いなのよ、龍は。このクソ変態野郎とは違ってね。


「凛子さん」


 あーヤバいヤバい、どうしようヤバい。


「凛子様」

「なによ……っていうか退け!」

「キスしてくれたら今日はもう勝手に出てきません。どうです?」


『どうです?』じゃない、違う、そうじゃないだろマジで。本来勝手に出てくるもんじゃないの、元来契約者の意思でしか出てこないのよ、そういうもんなのよ。あんたがイレギュラーなだけでしょうが。そのくせに交渉してこようとする神経の図太さもSSSって? 笑わせんなクソ変態野郎が!


「ぶっ壊すよ、本当に。あんたみたいなの要らないんだけど」


 冷めた声、死んだ魚のような目で私は日髙にそう言った。すると、一瞬だけ日髙の雰囲気がズシッと重くなって、背筋がゾクッとするような恐怖に似たナニかを感じる。今まで喧嘩なんて腐るほどしてきた、怖いとか思ったこともない。なのに、なんなの……? こいつ。


「ハハッ、そうですか。それはそれで興奮しかしませんけどね? で、どうします? 僕はこのまま続けちゃっても一向に構いませんが」

「っ!?」


 フロントホックにかかってた指でパチンッと呆気なく外されて、心の中で声にならない声で叫びながら暴れる私をニタニタしながら押さえてる日髙。


「んっ」


 日髙の手が、日髙の手が!! 下乳に触れそうなんですけど!?


「僕はこのまま触れて舐め回してもいいんですけどね、凛子様」

「っ! する、するって、わかった、するから触んな!」

「そうですか、そこまで仰るのなら仕方ありませんね。凛子様はどうしても僕とキスをしたいと」

「おまえマジで覚えてろ、絶対泣かす」

「ククッ。SMプレイで僕を啼かせてくれるなんてご褒美にすぎません」

「ちげーよ、黙れクソ変態」


 コンコンッと部屋のドアを再び鳴らされた音にドキッと心臓が跳ね上がる。


「ほら、早くしないと凛子様」


 あーーもういい、どうでもいい、キスなんてキスでしかないし、別になんだっていい、どうとでもなれ。これに深い意味も理由もないんだから、所詮唇と唇が触れるだけ、それだけのこと。


 私の上に跨がってる日髙の胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「強引な凛子様も素敵です」

「もう黙ってうざい」


 なにが嬉しくてこんな変態野郎と……そう思いながら私は日髙の唇に自身の唇を重ねた。よし、終わり、はい、終了。よくやった私、うん。


 うん? いや、終わりでしょ? 終わったはずでしょ? なのに、なんっっで日髙の舌が私の唇を無理やりこじ開けて入ってきてんの……?


「んっ……ちょ、日髙……っ!」

「凛子様……はぁっ、愛してます」

「……んぅっ、いやっ……」


 私には刺激が強すぎる、頭がクラクラして力も入んない。舌を絡められて、口のなかを余すことなく愛でられ犯させていく感覚。こんなの知らない、こんなのズルいじゃん……卑怯者。


 結局、血迷った私は日髙のひどく甘いキスを受け入れてしまった。だから日髙だけを責め立てることもできなくなったということ。ほんっとうに馬鹿。もう、一思いに殺して誰か。


「はぁっ……本当に愛らしいお方ですね。愛しています、凛子様。とても甘くて美味しかったです、ご馳走様でした。あぁ、凛子様の体液が僕の体内に入ってきたと思うと……ハァハァ、それだけで何回でもイけます」

「そうかですか。もう何回でも逝ってくれ、ご勝手に」

「ククッ。ではおやすみなさいませ、凛子様」


 しれっと触れるだけのキスを唇に落としてパッと姿を消したあのクソ変態野郎をどうやって殺ってやろうか、その殺害計画を考える脳しか今はない。


「凛子さん、寝てるんすか」

「あ、ああ、ごめん! 音楽聴きながら勉強してた」

「熱でもあんのか? 今すぐ体温計持ってっ」

「それどういう意味よ」


 ちゃちゃっと身なりを整えて部屋のドアを開けると、龍が今までにない焦り方をしながら後退りするのを見て『なにしてんの?』って顔で眺めるしかない私。


「なによ」

「いや、なんつーか、えー、いや、別に」


 明らかに動揺してる、こんな龍みたことない。私は後退りする龍をグイグイ追い込んで壁に追いやった。


「で、なによ」

「いや……つーか、なんつー顔してんすか凛子さん」

「はい?」

「俺頭冷やしてくるんで先に飯食っといてください、じゃ」

「は? え、ちょっと龍!」


 去っていく龍をボケーッと眺めて、日髙の抹殺計画を考える私であった。

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