10、悟り(2)
「凛子様はいちご飴よりぶどう飴派っ」
「戻れ!!」
私は日髙へのストレスを『戻れ』の言葉に詰め込んだ。すると、パッと姿を消した日髙に確信を得た。原理はわかんないけど、おそらく感情の込め具合に左右されるっぽい。どうやら私は呪縛? の類いを扱えるようになってる……らしい。
「そんなに僕を弄んで楽しいですか? 凛子様」
「ひっ!?」
ヌルンッと現れた日髙に驚きつつ、なにかとペースを乱されてキャラブレしそうになる自分に嫌気が差す。日髙に振り回されてるみたいで嫌だ。
「もうお気付きでしょう。さすがの僕でも凛子様の言霊には敵いません。契約が成立した時点で凛子様は僕に“言霊縛り”まぁ、そうですね……僕の全身を強制的に緊縛できっ」
「きもい」
「ハハッ」
やっぱ言葉に感情を込めれば込めるほど、日髙は私の命令を強制的に受け入れなきゃいけなくなるってことか。まあ、封じ込めても勝手に出てこられるのが厄介だけど……ん? てことはさ、『勝手に出てくるな!』って言葉縛りできるじゃ……?
「それはできませんよ、凛子様」
「……なに、人の心まで勝手に読むわけ? SSSとやらは」
「さあ? どうでしょう」
ニコニコ笑いながら、いつの間にかぶどう飴を手にしてる日髙にもうため息しか出てこない。パッと消えてヌルッと再登場するまでのほんの少しの間のどこにぶどう飴買ってくる時間があったのよ。マジで何者?
「はい、あーん」
瞳をキラキラさせながら私にぶどう飴を食べさせようと接近してきた日髙の頭をベシッと叩いて、しれっとぶどう飴は受け取った。
「いただきます」
パクッとひと口食べると、日髙がとんでもない動きをしながら私にスマホをかざして、狂ったように連写を始める。私の瞳が異物を見る目に変わったのは言うまでもない。
「あぁ、なんと可愛らしい。この愛らしさは1秒足りとも逃したくはありません」
「日髙」
「はい、なんでしょっ……んぐっ!?」
ぶどう飴を容赦なく日髙の口へ突っ込むと、『凛子様からの大胆な間接キス……あぁ、僕はこんなにも幸せでいいのでしょうか? 凛子様の一部が私の体内に入って、交じりあって、僕の一部になる』とかなんとかどうのこうの言いながら、ニマニマしてぶどう飴を私の隣で食べてる変態。周りの女は『あの人めっちゃかっこよくない!?』『モデル!?』とか騒いでるけど、見た目に騙されるなとはまさに日髙のことで、正真正銘の変態野郎でしかない。
「で、話戻すけど。なんで『勝手に出てくるな!』は無理なわけ?」
「僕を誰だと思ってるんですか?」
「ただの変態」
「ククッ、お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないし、頭沸いてんの?」
「凛子様は本当に可愛らしいですね。キスしてもよろしいですか?」
「死ぬ覚悟があるならどーぞ」
「本望です」
「ちょっ!?」
不意に日髙の顔が目の前にきて、それを咄嗟に避けようとしたせいでよろけて転びそうになる始末。もちろん転ぶのを阻止したのは日髙で、助けるためといえ私に触れられたのが嬉しかったのか、ニヤけ顔が加速する変態に堪らず1発ぶん殴った。それすらも『快感です』と言わんばかりにうっとりした表情で私を見つめてくる変態に、もう感情が死んだ。
あー、ほんっと苦手だな……菊池桃花といい日髙聡といい、なんでこうも私を乱してくるかな。そういうのって今までになかったしそういうキャラでもないから勘弁してほしいんだけど。どちらかと言えば冷めてるほうの人間だと思って生きてきたから、なんか感情的になって『わーー!!』ってなるタイプじゃないの。キャラブレするからほんっとやめてほしい。
「で、どうしてなのよ」
「僕が“特別”だからです」
「あっそ。もういいわ」
うん、もう無駄でしかないなって悟った。これ以上なにを聞いたってふざけた答えしか返ってこないだろうし、日髙は唯一無二のSSSなわけであって、私の意思とは関係なく行動できちゃう時点で、もうどんな仕掛けがあってもおかしくはない。
「これだけは言っておきます」
「なによ」
「何があっても僕が必ず凛子様をお助けします。ただそれだけです」
「はあ……どうも」
こういう時に限ってヘラヘラしないしニヤニヤもしない。妙に真剣な顔して、ただ真っ直ぐ前を向いて歩いてる。ほんと調子狂うからやめてほしい、もう根掘り葉掘り聞くのはやめよ。
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