夏の終わりのファッション革命

トムさんとナナ

夏の終わりのファッション革命

## 第一章 雑誌の魔法


「はぁ……この夏も何もなかった」


桜井美咲は大学の図書館で、恋愛小説の背表紙を眺めながら深いため息をついた。夏休みが終わり、もうすぐ後期が始まる。友達の華やかな恋愛話を聞くたびに、自分だけが取り残されているような気持ちになる。


「美咲ちゃん、暗い顔してどうしたの?」


振り返ると、同じゼミの友人・田中麻衣が心配そうな表情で立っていた。


「いや、別に何でもないよ」


美咲は慌てて笑顔を作ったが、麻衣には見透かされてしまった。


「また恋愛のことで悩んでる?美咲ちゃんって真面目すぎるのよ。もっと積極的にならないと」


麻衣は美咲の隣に座ると、バッグから一冊の雑誌を取り出した。表紙には「この秋絶対モテる!大学デビュー完全攻略法」という文字が踊っている。


「これ、今月号の『Sweet Campus』よ。めちゃくちゃ参考になるから読んでみて」


美咲は恐る恐る雑誌を受け取った。ページをめくると、派手なメイクと露出度の高い服装をした女性たちの写真が次々と現れる。


「『男性の視線を釘付けにする!肌見せファッション特集』」


美咲の頬が赤くなった。こんな格好、今まで一度もしたことがない。


「でも、これって……ちょっと派手すぎない?」


「それがいいのよ!美咲ちゃんはいつも地味すぎるの。せっかく可愛いんだから、もっとアピールしなきゃ損よ」


麻衣の言葉に、美咲の心が揺れた。確かに、今までの自分では何も変わらない。思い切って変身してみるのも悪くないかもしれない。


「『オフショルダーで男性をドキドキさせちゃおう』『ミニスカートは膝上10センチが勝負』『胸元のアクセサリーで視線を誘導』……」


雑誌の記事を読むうちに、美咲の決意は固まっていった。


「よし、やってみる!」



## 第二章 大変身の日


後期開始の日。美咲は鏡の前で最終チェックを行っていた。


白いオフショルダーのトップスに、膝上15センチのプリーツスカート。胸元には大きなネックレスが光っている。いつものナチュラルメイクではなく、雑誌を見ながら頑張った濃いめのメイク。


「うーん、これで大丈夫かな……」


不安を抱えながらも、美咲は意を決して家を出た。


電車の中では、周りの視線を感じて落ち着かない。いつもなら本を読んでいる時間も、スカートの丈が気になって座り方に困ってしまう。


「大丈夫、雑誌に書いてあった通り。『自信を持って歩くことが一番のモテ要素』よね」


大学に着くと、予想以上に注目を集めた。男子学生たちがちらちらと振り返り、女子学生たちもひそひそと話している。


「美咲ちゃん、すごい変身ね!」


麻衣が駆け寄ってきて、美咲の変化を褒めちぎった。


「ど、どう?変じゃない?」


「全然!超可愛いよ。きっと今日は告白されちゃうんじゃない?」


美咲は照れながらも、内心で期待に胸を膨らませていた。



## 第三章 思わぬ出会い


午後の講義に向かう途中、美咲は慣れないヒールでつまずいてしまった。


「きゃあ!」


転びそうになった瞬間、誰かの手が美咲の腕を支えた。


「大丈夫ですか?」


顔を上げると、見知らぬ男子学生が心配そうに覗き込んでいた。黒縁メガネをかけた真面目そうな顔立ちで、紺色のセーターを着ている。


「あ、ありがとうございます」


美咲は慌てて立ち上がったが、その拍子にスカートの裾が少し上がってしまった。男子学生は慌てて視線を逸らす。


「あの……」


彼は何か言いたそうにしていたが、結局口をつぐんでしまった。


「本当にありがとうございました。私、文学部の桜井美咲です」


「僕は……理学部の森田健太郎です」


健太郎は小さく会釈すると、早足でその場を去っていった。


「なんか変な人」


美咲は首を傾げたが、すぐに次の講義のことを考え始めた。



## 第四章 図書館での再会


翌日、美咲は図書館で勉強していた。今日も雑誌のアドバイスに従って、胸元が開いたカットソーを着ている。


「この参考書、どこにあるんだろう……」


高い棚の本を取ろうと背伸びをしていると、後ろから声をかけられた。


「あの、取りましょうか?」


振り返ると、昨日助けてくれた森田健太郎が立っていた。今日も地味な格好で、手には分厚い専門書を抱えている。


「あ、昨日の……」


「はい、森田です。えーと……」


健太郎は美咲の服装を見て、明らかに困惑している様子だった。


「その格好で図書館にいると、他の人の迷惑になりませんか?」


「え?」


「男子学生が集中できないというか……もう少し控えめな格好の方が」


美咲の顔が真っ赤になった。雑誌には「どこでも積極的にアピール」と書いてあったのに。


「何よ、余計なお世話じゃない!私がどんな格好をしても自由でしょ」


「そ、それはそうですが……」


「真面目ぶって説教しないでよ。どうせ私みたいなタイプは嫌いなんでしょ」


美咲は本を乱暴に掴むと、健太郎を睨みつけて去っていった。


健太郎は一人残されて、困ったように眉間にしわを寄せていた。



## 第五章 雨の日の失敗


三日後、美咲は雨の中を急いでいた。今日は薄いブラウスにミニスカートという組み合わせで、雨に濡れて大変なことになっている。


「きゃー、透けちゃう!」


慌ててコンビニに駆け込んだが、既に服はびしょ濡れだった。


「傘、貸しますよ」


声の主を見ると、またもや森田健太郎だった。彼は自分の傘を差し出している。


「い、いらない!」


「でも、そのままじゃ風邪をひきますよ」


健太郎は美咲の意志に関わらず、自分の上着を脱いで美咲の肩にかけた。


「な、何するのよ!」


「透けて見えちゃってるんで……」


美咲は慌てて胸元を確認し、顔を真っ赤にした。


「あ、ありがとう……」


「僕、近くに住んでるんで、着替える場所を貸しますよ」


美咲は躊躇したが、このままでは本当に風邪をひいてしまいそうだった。



## 第六章 健太郎の部屋で


健太郎のアパートは意外にも整理整頓されていて、本棚にはびっしりと本が並んでいた。


「タオルと、姉の服があるんで使ってください」


健太郎が差し出したのは、シンプルなワンピースだった。派手な装飾は一切ないが、上品で温かみがある。


「ありがとう」


美咲がお風呂で着替えている間、健太郎は紅茶を入れて待っていた。


「あの……」


着替えを終えた美咲を見て、健太郎は息を呑んだ。雑誌のアドバイス通りの派手な格好ではなく、自然な美しさが際立っている。


「とても……似合ってます」


「え?」


「その格好の方が、桜井さんらしくて素敵です」


美咲は困惑した。今まで誰も、地味な格好の自分を褒めてくれたことがなかった。


「でも、雑誌には派手な格好の方がモテるって……」


「雑誌?」


健太郎は首を傾げた。


「実は、夏休みに恋愛がなくて、ファッション誌を参考に変身したんです。でも、あなたはそういうの嫌いなんですよね」


美咲は少し寂しそうに微笑んだ。


「嫌いなわけじゃないんです。ただ……」


健太郎は言葉を選ぶように続けた。


「本当の桜井さんを知らずに近づいてくる人ばかりになってしまったら、それは本当の恋愛と言えるのかなって思うんです」



## 第七章 本当の気持ち


その日から、美咲は健太郎の言葉が頭から離れなかった。雑誌通りの格好を続けていたが、以前のような楽しさを感じられない。


「美咲ちゃん、最近元気ないけど大丈夫?」


麻衣が心配そうに声をかけた。


「うん、大丈夫……」


「彼氏できた?」


「それが……よくわからないの」


美咲は健太郎との出来事を麻衣に話した。


「へえ、その森田くんって面白いわね。普通の男子だったら、美咲ちゃんの変身を喜ぶはずなのに」


「そうよね。やっぱり私の事、嫌いなのかな」


「でも、上着貸してくれたり、家に招いてくれたりするってことは、少なくとも嫌いじゃないと思うけど」


麻衣の言葉に、美咲は少し希望を感じた。



## 第八章 図書館でのすれ違い


翌日、美咲は勇気を出して健太郎に話しかけることにした。図書館で勉強している健太郎を見つけて、そっと近づく。


「あの、森田くん」


「あ、桜井さん」


健太郎は顔を上げたが、美咲の今日の格好を見て複雑な表情を浮かべた。


「昨日はありがとうございました。お姉さんの服、洗濯して持ってきました」


「ありがとうございます」


美咲は健太郎の隣に座ろうとしたが、健太郎は少し距離を置いた。


「あの……私、何か変なこと言いましたか?」


「いえ、そんなことは……」


健太郎は本に視線を落としたまま答えた。


「だったらなんで避けるんですか?」


美咲の声が少し大きくなり、周りの学生たちが振り返った。


「避けてるわけじゃ……」


「嘘!最近話しかけても素っ気ないし、今だって隣に座るのを嫌がったじゃないですか」


美咲の目に涙が浮かんできた。


「私の格好がそんなに嫌いなら、最初からそう言ってくれればよかったのに」


「違います!」


健太郎が初めて大きな声を出し、図書館中の注目を集めた。


「僕は……僕は桜井さんの格好が嫌いなんじゃなくて……」


健太郎は言葉に詰まり、立ち上がって図書館から出て行ってしまった。



## 第九章 麻衣からのアドバイス


「それって完全に好きになってるじゃない!」


麻衣は美咲の話を聞いて、興奮気味に言った。


「え?」


「だって考えてみてよ。美咲ちゃんの露出の多い格好を見て、他の男子に見られるのが嫌だから避けてるのよ」


美咲は目を丸くした。


「そんな、まさか……」


「絶対そうよ!真面目そうな男子って、好きになった女の子が他の男に見られるのをすごく嫌がるの。独占欲が強いのよ」


麻衣の分析に、美咲の心臓がドキドキと鳴り始めた。


「でも、確かめる方法ってある?」


「簡単よ!今度は地味な格好で会ってみて。美咲ちゃんの本来の姿でね」



## 第十章 雨の日のデート


次の日は朝から雨が降っていた。美咲は迷った末に、普段の地味な格好を選んだ。ベージュのカーディガンに膝丈のスカート、控えめなメイク。


健太郎を探して大学中を歩き回り、ようやく中庭のベンチで見つけた。雨宿りをしながら本を読んでいる。


「森田くん」


「桜井さん……」


健太郎は美咲の姿を見て、ほっとしたような表情を浮かべた。


「昨日はごめんなさい。大きな声出して、図書館で迷惑かけて」


「いえ、僕の方こそ……変なことを言って」


二人は並んでベンチに座った。雨音だけが静かに響いている。


「あの、森田くんって私のこと嫌いですか?」


美咲が意を決して尋ねた。


「嫌いなわけないじゃないですか」


健太郎は慌てて否定した。


「だったらなぜ……」


「桜井さんがあんな格好をしていると、他の男子がじろじろ見るじゃないですか。それが……嫌だったんです」


美咲の心臓が跳ね上がった。麻衣の予想が当たっていた。


「嫌だったって……それって」


「僕、桜井さんのことが好きなんです」


健太郎は真っ赤な顔で告白した。


「でも、桜井さんは派手な恋愛を望んでいるんですよね。僕みたいな地味な人間じゃ……」


「そんなことない!」


美咲は健太郎の手を握った。


「私も森田くんのこと、気になってました。優しくて、真面目で、私のことを本当に心配してくれる人」


健太郎の目が見開かれた。


「本当ですか?」


「本当です。雑誌の真似をして派手な格好をしたけど、それは本当の私じゃなかった。森田くんに出会って、ありのままの自分でいることの大切さを教えてもらいました」



## 第十一章 新しい始まり


それから一週間後、美咲はいつもの地味な格調で健太郎と一緒に図書館にいた。


「この問題、わからないんですが……」


「あ、これですね。ここがポイントで……」


健太郎が丁寧に説明してくれる。美咲は健太郎の横顔を見つめながら、幸せを感じていた。


「桜井さん、聞いてます?」


「あ、はい!ちゃんと聞いてます」


美咲は慌てて教科書に視線を戻した。


「そういえば、今度の土曜日、映画でも見に行きませんか?」


健太郎の提案に、美咲の顔がぱっと明るくなった。


「はい!ぜひお願いします」



## 第十二章 初デートの準備


土曜日の朝、美咲はクローゼットの前で悩んでいた。


「やっぱり少しはおしゃれした方がいいかな……」


でも、あの派手な服装はもう着る気になれない。代わりに、上品で清楚なワンピースを選んだ。健太郎の姉の服に似ているデザインだった。


映画館で待ち合わせると、健太郎も普段よりおしゃれをしていた。


「素敵ですね、その服」


「ありがとうございます。森田くんもカッコいいです」


お互いに照れながら、映画館に入った。



## 第十三章 映画の後で


映画はロマンティックコメディだった。美咲は健太郎の隣に座って、時々彼の反応を盗み見していた。


「面白かったですね」


映画が終わって、カフェで感想を話し合う。


「主人公の女の子、最初は派手だったけど、最後は自然な感じが素敵でした」


美咲の言葉に、健太郎は微笑んだ。


「桜井さんみたいですね」


「え?」


「最初に会った時の桜井さんも綺麗でしたが、今の方がもっと素敵です。本当の桜井さんらしくて」


美咲は恥ずかしくて、コーヒーカップを両手で握りしめた。


「私、雑誌に影響されて変な格好してましたよね」


「変じゃなかったです。ただ、桜井さんらしくなかった」


健太郎は真剣な表情で続けた。


「人って、無理に自分を変えようとしなくても、ありのままで十分魅力的だと思うんです」



## 第十四章 麻衣への報告


月曜日、美咲は麻衣に週末のことを報告していた。


「やっぱりね!私の予想通りだった」


麻衣は得意げに笑った。


「でも、美咲ちゃんの大変身も無駄じゃなかったと思うよ」


「え?」


「だって、あれがなかったら森田くんと出会わなかったし、自分らしさについて考える機会もなかったでしょ?」


美咲は納得した。確かに、あの雑誌がきっかけで今の幸せがある。


「それに、たまにはおしゃれするのもいいと思うよ。ただし、森田くんの前だけでね」


麻衣の言葉に、美咲は顔を赤くした。



## 第十五章 文化祭の準備


秋も深まり、大学の文化祭が近づいてきた。美咲たちのゼミではカフェを出店することになった。


「美咲ちゃん、ウェイトレスの衣装どうする?可愛いメイド服があるんだけど」


麻衣が提案したが、美咲は首を振った。


「普通のエプロンドレスでいいよ」


「えー、つまらない」


「でも、それが私らしいもん」


美咲は健太郎のことを考えて微笑んだ。きっと派手な格好よりも、自然な自分を喜んでくれるはず。



## 第十六章 文化祭当日


文化祭当日、美咲は白いブラウスに紺のスカート、可愛いエプロンを着けていた。シンプルだが、とても似合っている。


「いらっしゃいませ」


カフェは大盛況で、美咲は忙しく働いていた。


「桜井さん」


振り返ると、健太郎が友人たちと一緒に来店していた。


「森田くん!来てくれたんですね」


「はい、楽しみにしてました」


健太郎は美咲の働く姿を嬉しそうに見つめていた。


「その格好、とても似合ってます」


美咲は照れながら、健太郎たちのテーブルに注文を取りに行った。



## 第十七章 告白の続き


文化祭が終わった夕方、美咲と健太郎は校庭を歩いていた。


「今日は忙しかったですね」


「でも楽しかったです。森田くんが来てくれて嬉しかった」


「僕も楽しかったです。桜井さんの頑張る姿を見ていて」


二人は立ち止まり、向かい合った。


「あの……僕たち、付き合ってるということで良いんですよね?」


健太郎の質問に、美咲は笑顔で頷いた。


「はい。私からもお願いします」


夕日が二人を照らし、美咲の頬が薄いオレンジ色に染まった。


「綺麗ですね」


健太郎は美咲の手を優しく握った。



## 第十八章 クリスマスデート


時は流れ、12月。街はクリスマスの装飾で彩られていた。


美咲と健太郎は初めてのクリスマスデートを楽しんでいた。美咲は赤いコートに白いマフラーという、季節感のあるおしゃれを楽しんでいる。


「プレゼント、気に入ってもらえるかな」


健太郎は不安そうに呟いた。


「きっと大丈夫ですよ。森田くんが選んでくれたものなら、何でも嬉しいです」


イルミネーションの下で、二人はプレゼント交換をした。


健太郎からのプレゼントは、シンプルで上品なネックレスだった。


「わあ、素敵!」


「派手じゃなくて、桜井さんらしいものを選びました」


美咲は嬉しそうにネックレスを首につけた。


「ありがとうございます。大切にします」


美咲からのプレゼントは、手編みのマフラーだった。


「手作りですか?」


「はい。下手ですけど……」


「いえ、とても温かくて素敵です。毎日使わせてもらいます」



## 第十九章 春の訪れ


桜の咲く季節になった。美咲と健太郎の交際も順調に続いている。


「もうすぐ新学期ですね」


「はい。今度は後輩たちが入ってきます」


二人は桜並木を歩きながら話していた。


「美咲さん」


健太郎は最近、美咲を下の名前で呼ぶようになった。


「何ですか、健太郎さん」


美咲も同じように、健太郎を名前で呼んでいる。


「僕と出会って、何か変わったことはありますか?」


美咲は少し考えてから答えた。


「自分らしくいることの大切さを知りました。無理に背伸びしなくても、ありのままの自分で愛してくれる人がいるんだって」


「僕もです。美咲さんと出会って、人の本当の魅力は外見じゃなくて内面にあるんだと確信しました」


二人は桜の木の下で立ち止まった。



## 第二十章 一年後の夏


一年前の夏、美咲は恋愛がないことに焦っていた。そして雑誌に影響されて、無理な変身を試みた。


今年の夏、美咲は健太郎と海に来ている。今度は自分らしいファッションで。


「去年の今頃は、必死に雑誌を読んでモテテクニックを研究してました」


美咲は笑いながら振り返った。


「僕はその頃、美咲さんの存在すら知りませんでした」


「人生って不思議ですよね。あの雑誌を読んでなかったら、健太郎さんと出会うこともなかった」


「でも、きっといつかは出会ってましたよ。運命だから」


健太郎の言葉に、美咲は幸せそうに微笑んだ。


「そうですね。きっと運命です」


波の音が二人の会話を優しく包み込んでいた。



## エピローグ 本当の自分らしさ


大学三年生になった美咲は、後輩たちの相談に乗ることが多くなった。今日も一人の女子学生が恋愛の悩みを打ち明けに来ている。


「先輩、どうしたら男子にモテるんですか?」


後輩の質問に、美咲は苦笑いした。一年前の自分と全く同じ悩みだ。


「モテることが目的なら、雑誌のアドバイス通りにすればいいと思うよ」


「でも?」


「でも、本当に大切なのは、ありのままの自分を愛してくれる人を見つけることかな」


美咲は窓の外を見た。健太郎が図書館で勉強している姿が見える。


「無理に自分を変える必要はないの。自然体でいれば、きっと素敵な出会いがあるから」


「でも、地味だと気づいてもらえないかも……」


「大丈夫。本当にあなたのことを好きになってくれる人は、どんなあなたでも見つけてくれるよ」


美咲の言葉に、後輩は希望を見つけたようだった。


「ありがとうございます、先輩」


後輩が帰った後、美咲は自分の成長を実感していた。一年前の自分に教えてあげたい。


「無理しなくても、きっと素敵な恋愛ができる」って。


健太郎が図書館から出てきて、美咲に手を振った。美咲も笑顔で手を振り返す。


二人の恋は、互いの本当の姿を愛し合うことから始まった。そして今も、ありのままの自分でいられる幸せを噛み締めながら続いている。


美咲がかつて読んだ雑誌は、今も本棚の片隅にある。でももう開くことはない。なぜなら、最高のモテテクニックは「自分らしくいること」だと知ったから。


そして健太郎の隣で、美咲は今日も自然な笑顔を浮かべている。雑誌の中の女性たちよりもずっと輝いて見える、本当の美しさとともに。


「今日は何を勉強しようか?」


健太郎の問いかけに、美咲は嬉しそうに答えた。


「恋愛小説の分析をしようと思うの。今なら、本当の恋愛がどういうものか分かる気がするから」


「それは面白そうですね。僕も一緒に読んでもいいですか?」


「もちろん!」


図書館に向かう二人の後ろ姿は、とても自然で、とても幸せそうだった。美咲の服装は相変わらずシンプルで地味だったが、そこには雑誌の中の女性たちが決して持つことのできない、本物の輝きがあった。


季節は再び夏に向かって進んでいる。でも今年の美咲は、去年のような焦りも不安もない。大切な人に出会えた喜びと、ありのままの自分を愛してもらえる幸福感で胸がいっぱいだから。


そう、本当のモテテクニックは、雑誌には載っていない。自分自身の心の中にあるものなのだ。


美咲と健太郎の物語は、まだ始まったばかり。でも二人なら、きっとこれからも素敵な恋愛を続けていけるだろう。自分らしさを大切にしながら。


そして今日も、大学のどこかで新しい恋の物語が始まろうとしている。今度は、ありのままの自分で恋をする勇気を持った人たちによって。


美咲の小さな変身騒動は、こうして本当の幸せへの第一歩となったのだった。


**【完】**


---


**あとがき**


この物語は、外見を変えることで恋愛を成功させようとした女性が、本当の自分らしさの大切さに気づいていく成長物語です。現代社会では、SNSや雑誌の情報に影響されて、本来の自分を見失いがちです。しかし、真の魅力は飾らない自然な姿にあり、それを理解してくれる相手こそが、本当のパートナーなのではないでしょうか。


美咲と健太郎のように、お互いの内面を大切にし合える関係が、多くの人にとって幸せな恋愛のお手本となることを願っています。

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