<プロローグを読んでのレビューです>
本作は、王都の平和を守る高潔なる神官クリサンテーメ――通称テーメが、日常的な「断罪」を通して物語世界のルールとキャラクター性を鮮明に描く序章である。万引きの少年を断罪しつつも、心の奥では平和な日常や小さな喜びを味わう描写から始まり、テーメの誇張された自意識や信仰心のユーモアが際立つ。さらに、黒ローブの怪しい人物との遭遇、誤解と沈黙の間に生じる緊張感も巧みに描かれ、プロローグとして読者の興味を引く構成になっている。文章は短文と長文を適度に組み合わせ、心理描写と行動描写のテンポが絶妙で静かなユーモア感が漂う。
個人的に印象的だったのは、「――断罪か、見逃しか。ふたりの間に沈黙が流れる。じり……と黒ローブの者が後ずさりする。」の場面である。静かな沈黙の描写とわずかな動作の描写だけで、緊張感とコミカルさが同時に伝わり、読者はテーメの正義感過剰ぶりを自然に楽しむことができる。この一文だけで、キャラクターの性格と物語の雰囲気が鮮やかに浮かび上がる。
読む際には、テーメの誇張された正義感やユーモラスな自己評価を楽しみながら、日常の小さな事件や誤解のやり取りに注意を向けると、物語世界の愛らしさや緊張感を存分に味わえるだろう。神官の日常と非日常の微妙なバランスを追いながら読むと、一層面白さが増す作品である。