第26話 ドラゴンモドキの大群

「で、クエストですか」

「な、なんだよ! 悪いか?」


 ナヴィは「いいえ」とつぶやくと俺の肩に乗った。

 魔力回復はガセネタだと諦めることにした。

 受けたクエスト名はフィクサの依頼。

 依頼品はシオナの<真珠岩>を10個。

 ナヴィがいうには、シオナ火山で普通にとれる一般的なアイテムらしい。

 確かにそこら辺に落ちている。


「鑑定」


 シオナの真珠岩のステータスが表示される。

 ランクは無機級スライムクラス のどこにでもあるような石である。


 要は道端の石ころだ。

 ナヴィが以前話したように、一定以上の品質を狙うならこんな道端や採取ポイントでは無理だ。


 クエスト達成ついでにこの素材で何かできないか聞いてみる。


「今ムショクがつくれるものなら簡単なアクセサリーですかね?」

「そんなものなのか? じゃあ、なんで料理屋が欲しがるんだ?」

「あぁ、炎を抑える力があって、火力の安定剤代わりに使えるんですよ。入れすぎると火が消えちゃうので、大量に必要なわけじゃないですが」


 ナヴィはムショクと同じように下に落ちている真珠石を拾いじっと見つめて捨てた。

 たぶん、それも同じくランクが低いのだろう。


「<真珠石>は安定と浄化の作用があります。火山地帯ですが、属性は水を有しているので、炎を抑えるのですよ」

「ほぉ、それを利用してなんか他に作りたいな」

「まぁ、考えるのは自由ですよ」


 無理でしょうともと続きそうな言い方で、ナヴィは先程と同じく石を見つめては投げ捨てた。

 やはり、質の良いものはないようだ。

 場所が重要なのだろう。

 薬草は泉の近くになると稀少度が上がった。

 その生育環境に適した場所になるほど高くなる。

 となると、真珠岩も同様なのだ。

 こんな道端ではなくて、稀少度の高いポイントがあるはずだ。


「それにしても暑いな……」


 日中に山登りっていうのは、それだけで体力が消耗する。

 それに加えて、今日は澄み渡るほどのいい天気だ。


「冷たい飲み物が飲みたい……」

「あぁ、いいですね……」


 どうやら、ナヴィも同じようだ。

 項垂れるようにふらふらと飛んでいる。

 ナヴィのほほや首筋から汗が流れ落ちていく。


「ムショク……冷たい水作ってください……」

「んなこと、できたらやってるっての!」


 こいつは、便利屋か何かかと思っているんじゃないのだろうか。


「ベイヘル森林で火焔茸と一緒に取ったやつがありましたよね?」

「えーっと……」


 ベイヘル森林に入ったことを思い出す。

 ベイヘル森林で取れたものは、<火焔茸>、<氷結草>、<パラライズフラワー>、<夢想草>だ。


「氷結草か?」

「そうです。それを調合に使う精製水に入れて強く振ってください」


 コリンの水晶瓶に入った精製水に氷結草を入れて強く振る。

 最初、生温かかった瓶が振るたびに少しずつ冷たくなっていくのが分かった。


「おぉ! なんだこれ!」

「氷結草の効果です。

 冥界の川のほとりにも咲くという美しい野草です。

 熱を奪う効果があって、いろいろなものを冷やすことができます。

 花が蒼く美しいのですが、めったに咲かないんですよね。

 あっ――あまり振りすぎないでくださいね! 凍っちゃいますよ」


 ナヴィの注意に慌てて瓶を振る手を止めた。

 さっきまで生温かった瓶が今では霜が付き、うっすらと白い靄を身にまとっている。


「こんなに冷えるのかよ!」


 まるで魔法みたいだというのは語るに落ちるかもしれない。


「これ、飲めるのか?」

「もちろんですよ」


 コリンの水晶瓶のふたを開けて恐る恐る口をつける。唇が瓶にくっつきそうなほどキンキンに冷えている。

 中の水を一口飲む。


「おっ――これはうまい!」


 精製水といっても泉の水だ。あの泉の水だけでもうまかったが、それが、冷えてさらにおいしくなった。

 氷結草のお陰でなのだろうか。

 ミントのようなすっきりとした味と香りがわずかに口の中に広がる。


「私の分もちゃんと残しておいてくださいね」


 ナヴィに瓶を渡すと、彼女もそれに口を付けた。

 よっぽど暑かったのだろう。

 身体と同じくらいの残りの水を一気に飲み干した。


「あぁ……頭が……」

「大丈夫か?」

「キーンってする……」

「お前、馬鹿だろ」


 改めて、他の瓶で同じものを作る。確かにこれはおいしいし便利だ。

 精製水という名前だが、要はただの水だ。必要ならまたどこかで採取できるだろう。

 残りの精製水を2つに分けて、どちらにも氷結草を入れてナヴィと分ける。

 2人でそれを飲みながら、山を登る。

 あたりを観察しながら歩いていると、先の岩陰に黒い影が隠れたのが見えた。

 どう見間違えても人ではないだろう影。

 持っている杖を構えた。


 隠れたということは、臆病なのか?と一瞬疑問が浮かんだ。

 が、それもすぐナヴィの叫び声でかき消された。


「ムショク! 上です!」


 ナヴィの声に上を仰ぐと、道の横にあった岩から飛び込んでくる巨大なトカゲが目に入った。


 慌てて、後ろに飛びのくことに成功した。

 影が見えて身体が緊張していなかったら避けきれなかったかもしれない。


 巨大なトカゲは地面に着地すると、鞭打つように尻尾を振りこちらを見た。


「ドラゴンモドキです。

 集団行動が多く、仲間を呼ぶんで気を付けてください」


 その瞬間、ドラゴンモドキは天を向いて雄たけびを上げた。

 ナヴィの忠告と同時に早速仲間を呼んだ。


「気を付けてくださいって言ったのに!」

「無理だろ!」


 ドラゴンモドキが、尾を地面に打つと牙をむいて、こちらに向かってきた。

 早い。

 慌てて横に飛び退いてよける。

 ナヴィにはもう少し話を聞いておくべきだった。これほど巨大だと思わなかった。


「ムショク! 杖だけじゃ倒せないです。あれを使ってください!」


 リュックのサイドポケット。手を回して一番取りやすい場所からナヴィのいったあれを取り出した。

 火焔粉と火焔油を混ぜて作った特性の手製爆弾。


 名前:メルフラゴ

 カテゴリ:攻撃アイテム

 ランク:獣人級ゴブリンクラス

 品質:高い

 効果:範囲に無差別の炎熱攻撃

 エンチャント:追加攻撃+、ダメージ増加


 作り直した火焔粉は祝福はつかなかったものの高い品質だった。

 おかげで、威力だけは保証できる。


「近くに投げすぎないでくださいね。

 対象無差別は自分にも影響があるので」

「大丈夫、分かってる」


 走ってきたドラゴンモドキに向かって、<メルフラゴ>を投げる。

 狙いが外れてドラゴンモドキのすぐ横ではじける。



「ドラゴンモドキは獰猛で攻撃的です。

 特に、その牙には気を付けてください! 毒がありますから!」

「なんだって!?」

「毒があります!」


 思わずため息が漏れそうになる。

 あの毒の気持ち悪さは二度と体感したくない。

 最初の奇襲を除いて、ドラゴンモドキは早いが、全部が直線的な動きだ。


 ドラゴンモドキが尾を地面に打つと、再度牙をむいて突進してきた。

 それを横によける。

 出始めも、走っている間も早くてまともに狙えない。


 ならば。


 攻撃を避けて通り過ぎた後、その動きを止める瞬間を狙う。

 ドラゴンモドキが通り過ぎ、動きを止めた瞬間に<メルフラゴ>を投げた。


 それがドラゴンモドキの身体に当たると大きな音を立ててはじけた。


「おぉ、一撃!」

「ムショク! 感動していないで早く逃げてください!

 さっき呼んだ仲間が来てしまいます!」


 ナヴィが服の裾をつかんで必死に叫んだ。


「ナヴィ、そりゃ無理だ」


 辺りの岩場の陰からドラゴンモドキが次々と顔を出した。


「1体ならまだしも、これだけの数は……」


 ナヴィが困惑した顔でムショクを見た。

 そういう重要な情報は早めに言って欲しいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る