第2話:弟子・クロノ登場
「ご無沙汰しております、師匠!」
「クロノ! どうしたんだ突然!? まぁ入って座ってくれ!――しっかし、最後に会って二年以上経つか?」
ルイスは弟子――クロノとの再会に驚きながらも、彼を招き入れた。
そしてクロノも、ルイスの家を懐かしそうに見渡しながら椅子に座ると、近くにいたリンゴを齧るエミックに気付いた。
「やぁエミック。君も元気そうだな」
『~~♪』
優しい表情を浮かべるクロノに、エミックも跳ねて再会を喜んだ。
そんな様子にルイスは嬉しそうに笑みを浮かべていると、保冷庫から果実水を取り出した。
「果実水で良かったかいクロノ?」
「師匠にお任せしますよ」
クロノはそう言いながらも表情は懐かしさに溢れていた。
弟子時代、よくルイスの作る果実水を飲んだものだと。
そしてグラスに注がれる果実水を口に運ぶと、変わりない味にクロノは安心した。
「この味……変わらないですね」
「アハハ……クロノはこの果実水、好きだったからね。――ところで本当にどうしたんだ、こんな田舎まで? 確か今はギルドマスターをやっていると聞いてたが?」
「……えぇ。王都でギルドを率いています。軌道にも乗って、今はオリハルコン級ギルドにもなりました」
「オリハルコン級!?」
クロノの言葉にルイスは驚愕し、目を見開いた。
オリハルコン級――それは国王すら認めた国家公認のギルドであり、同時にギルドの最高峰だからだ。
「驚いたな……まさかオリハルコン級にまでなっていたなんて。けど、クロノは優秀だったからな。――それで、今日はその報告に来てくれたのかい?」
「……いえ、無関係ではありませんが、報告が目的ではありません」
クロノはそう言うと飲み干したグラスを静かに置き、真剣な表情でルイスを見た。
「単刀直入に言います。――師匠、俺のギルドに来ませんか?」
「……えっ?」
クロノの言葉にルイスは言葉を失った。
――私をオリハルコン級ギルドに?
弟子からの言葉が実感できなかったからだ。
国王にすら認められた最高のギルドに自分を誘う事に。
「いやいや……冗談じゃないのか? 私はもう36歳だぞ? 今更、何か……オリハルコン級ギルドの役になんて――」
「そんな事はありません! 師匠は最高の冒険者――ダンジョンマスターじゃないですか!」
――ダンジョンマスター
それはルイスの『二つ名』であり、半伝説級の冒険者としての肩書だった。
数々の高危険度ダンジョンを攻略し、依頼品を手に入れてきたルイスに、気付けば周囲が名付けた二つ名。
ただルイス自身は、自分には過ぎたるものだと言って認めてはいなかった。
だが、クロノを始め弟子や数々の冒険者の中では知らない者はいない程の冒険者なのは間違いなかった。
「ダンジョンマスター……その名も私には重い名だよ」
「いえ! 数々のダンジョンを攻略してきた師匠がいたからこそ、俺達に今があるんです! ダンジョンマスター・ルイスの弟子だったからこそ、俺達はいるんです!――相談役でも一冒険者でも好きな役職を与えます! ですからどうか、どうか師匠! 俺のギルドに来て下さい!」
――師匠の才能を、この地で眠らせたくない!
クロノは机を叩いて勢いよく立ち上がり、ルイスの目を見た。
そんな弟子にルイスは困った様に頬を掻きながら苦笑していた。
「参ったな……しかし私は今じゃ半引退中の冒険者だ。オリハルコン級ギルドの依頼に身体が付いて行くかどうか……」
ルイスの身体に、ガタが来てる傾向があるのも事実だった。
肩や腰、膝も冬は痛む。
ルイスは座ったまま膝を撫でていると、クロノは深い溜息を吐いた。
そして懐から何かを取り出すと、それを机の上に置いた。
「師匠……これが分かりますか?」
それは赤い石――ルビーの様に美しい小さな石だった。
その石にルイスは見覚えがあり、目をパチパチとさせた。
「これは……前にクロノに送った火竜の秘石じゃないか?」
「そうです! 危険度7ダンジョン『紅蓮回道』に生息している火竜のみが持つ希少鉱石――『火竜の秘石』です! 半年前に師匠が俺に送ってくれたものです!」
クロノはそう言うと、優しく『火竜の秘石』を掴むと、愛おしそうに眼を細めながら口を開いた。
「定期的に送られてくる、これらの贈り物を貰って俺は……俺達は本当に嬉しかったんです。師匠が元気だと……今も冒険者をしているんだと!――師匠。師匠は今もダンジョンを、いえ冒険を求めているんじゃないんですか?」
――そうでなきゃ危険度7のダンジョンに潜る筈がない。
クロノは気付いていた。ルイスが根っからの冒険者であることを。
危険度7ダンジョン。それはオリハルコン級ギルドですら、攻略できるか怪しい高難易度ダンジョンだ。
それを弟子の為だけに挑むなんて、普通はありえない。
そうダンジョンマスターじゃない限りは。
「……冒険か」
クロノの言葉にルイスは僅かに下を向き、グラスに持って少し喉を潤した。
そして隣に置いてある棚に顔を向けた。
それはカーテンで遮られているが、隙間から何かが覗いていた。
「……随分、コレクションは増えたよ」
「――っ! 失礼します!」
ルイスがゆっくりと呟くと、何かに気付いたクロノはそう言ってカーテンを捲った。
そして、目の前に広がる光景に言葉を失ってしまう。
「す、凄い……!」
目の前の棚に置かれていたのは宝石の様に輝く、ダンジョンの戦利品の数々だった。
クロノはその内の目の前にある、一つの蒼い水晶を持ってみると、その正体に気付いて両手が震えた。
「これって……まさか『リヴァイアサンの涙』!? 危険度8ダンジョン『海獣の園』にしかない水晶じゃないですか! それにこっちの宝石は――『星の爪』!? これは『世界樹の結晶』!?」
それだけじゃなかった。
『破壊飛竜デストロイアの牙』・『奇石エルドラド』・『幸運の竜シャングリラの鱗』――等の数々が棚には置かれていた。
まるで近所の雑貨店の棚の商品の様にだ。
それ以外にも図鑑や本、吟遊詩人の歌でしか見て聞いたことのない戦利品の数々にクロノは身体が震えていた。
「凄い……凄いですよ師匠!」
そんな単調な言葉しかクロノは言えなかった。
思考が停止し、身体が震える程の希少素材の数々。
間違いなく弟子時代にはなかった代物ばかり。
これを一つでも売れば、王都でも屋敷が幾つ建てられるか考えるまでもない。
それ程まで高価な素材をルイスが――自身の師がダンジョンで手に入れてきたのだとクロノは実感すると、やっとルイスの方へ振り返った。
そこには相変わらず困った様子で笑うルイスがいた。
「半引退……そう言っても気付いたらダンジョンに行ってるんだよな」
どこか諦めた様に下を向いてルイスは言った。
彼自身に自分が凄いという実感はなかった。
弟子達に素材を送るのも仕送り感覚でしかない。
けれど自身の行動が矛盾していることには気付いていた。
依頼でもないのに、高難易度ダンジョンに行っている理由。
それこそクロノの言った通り、冒険を求めているのかもしれない。
「……冒険か」
「師匠……もう一度言います。俺のギルドに来てもらえませんか? ギルドには、冒険者界にはダンジョンマスターの力が必要なんです」
未開のダンジョンは勿論。
高難易度で入ることすらままならないダンジョンだってある。
クロノは願うかの様に頭を深く下げ、それを見たルイスは額を抑えなながら困った様に笑う。
「ハハ……君が頭を下げる程の男じゃないよ、私は。――だけど弟子が困っているなら助けるのも師匠の役目だよな、エミック?」
『~~♪』
しょうがない、そうルイスの顔に書かれてはいるが、どこか安心したかの様にルイスは笑いながらエミックを見た。
そしてエミックも、闇の腕でグッドサインを出しながら口を開閉させていた。
相棒からの許可も出た。
それを見たルイスはまた笑うと、立ち上がってクロノの前に立った。
そしてクロノの手を取ると、静かに口を開いた。
「どこまで役に立つか分からないけど、宜しく頼むよ……クロノ」
「っ! はい! 師匠がいれば怖いものなしです! どうか、またお願いします!」
クロノも願いが叶ったかの様にルイスの手を掴む。
その手は強く、ルイスもそれだけ自分を心配してくれた弟子に申し訳なく思ってしまった。
だが今からが大変だ。
準備もあるし、挨拶もある。――フレイ達への別れの挨拶が。
それを思うルイスの顔は少しだけ寂しそうだった。
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