地
「
僕たちは、まるで特撮映画か何かを
擬似体験するパビリオンに入り込んで
しまったかの様な、不思議な気分に
なっていた。
実際、此処は神社の境内で、社殿の
正に真裏にあたる。
山を背にした広い境内だから、何か
イベントがあってもおかしくはない。
そんな事を思っていると、大名行列の
中程にある駕籠が静かに開いた。
「よもやこんな所に居られるとは。
探しましたぞ…!」
凛とした声と同時に駕籠から出て
来たのは、190センチは優にある
スラリとした長身の男だった。
それがよくあんな窮屈そうな駕籠に
収まっていたなと、僕は密かに
感心していた。
多分 日本人 で間違いないだろう。
若く見える反面、年嵩にも見える
その男は、蒼白く光る
着こなして
「
「
「ええい、黙られいッ!」
雷の様な声に僕らは思わず沈黙した。
「何を、得体の知れぬ 呪文 など
唱えおるか!我は、
五郎左衛門様 をお迎えに上がった
次第であるぞ!雑魚共は控えよ!」
え、ぼく?
瞬間、兄の
僕の顔を見つめるが。
「僕に…何の用ですか?」こんな男に
知り合いはいない。ましてや此処は
祖父母の国、
「本日は、◻️◻️神社の還御祭が
あります故…それまでは我らの天下。
しかも、大事な御面議の日では
御座いませぬか。
年に一度の会合に来賓をお待たせ
する訳には参りませぬぞ?会合の後の
酒宴の準備も既に整っております故。」
「……。」正直なところ
何言ってんだかサッパリわからない。
「いやそれにしても探しましたぞ?
頭領が居らねば、始まりますまい。」
男はそう言うと、非の打ち所がない程
酷薄そうな顔を歪めた。どうやら、
笑っている様だ。
「ささ、駕籠にお乗り下さい。」
「…えっ。」どうにも断り切れない
厭な空気が霧の中に張り詰めている。
しかもついさっきまでは賑やかに
鳴り響いていた祭囃子が、今は全く
聞こえて来ない。
まさかの お祭りイベント の
一環だという予想も、ここに来ては
完全に
しかも、人攫いでもなさそうな所が
余計に不安を煽る。
「…いや、普通は乗らないですよ?」
僕が返事に困っていると、兄の
呆れ顔で口を開いた。
「五郎左衛門の、お知り合いですか?
彼は全く知らないみたいたけど。」
「…?」一瞬、意外そうな表情を
見せたかと思うと、男はその如何にも
酷薄そうな顔に、更に凄みのある
笑みを浮かべた。
「…人に係るモノに対しては呪が
かかっておるのか。されど、我らに
効くかと言えば、無駄。」「…?」
「しかも、そっちの小さい方は
非常食か、何かであろうか?」
男は兄の
移すと、更に可笑しそうに
僕達兄弟の名前は、民俗学者である
父が 魔除 を期待して付けたと
聞いている。だが、弟に至ってはもう
面倒になった様で、彼だけが普通に
辺りには滔々と白い霧が立ち込めて
頭上の大きな月と、行列に付き従う
蒼白い鬼火だけが光源だった。
賑々しく流れていた祭りの音楽や
広い境内を彩る電飾の光も、今や
何処にもない。
異界に紛れ込んでしまったのかも。
「余り遅くなると祖父母に心配かけて
しまうので…それに、五郎左衛門は
未成年ですから。まあ僕達もそうだけど
一応、兄弟なのでついて行きます。」
「何をごちゃごちゃと…!ならぬ!」
「あの!」このままでは埒が明かない。
こういう場面でどう動けばいいのかは
学校の テロ対策プロジェクト の
一環で習っていた。
「僕、行きます。でもお祭りが終わる
頃には帰りますから。良いですよね?」
僕は、相手の男というよりも兄弟に
向けて宣言した。
「
「
「夜半には◻️◻️が
それ迄には散会となりましょう。」
僕は兄弟に頷くと、男の指示に従って
大名行列の一際立派な駕籠に乗る
事にした。
正直なところ、少し興味があった。
もしかしたら物凄い体験が出来るかも
知れない。それも僕のルーツ日本で。
リーン リーン
リーン リーン リーン
駕籠は、想像してきたよりもずっと
快適だった。でもそれは駕籠かきが
人じゃないからだろうか。まるで
滑る様に流れて行く。例えるならば
空港にある 動く歩道 の物理的
負荷によく似ていた。
「…。」小窓から外の景色を見ようと
思ったが、何となくやめた。
然程の時間はかからなかったろう。
僕を乗せた駕籠が動きを止めたのは。
尤も、あくまでそれは僕自身の
体感であって、余り役に立たない。
それでも延々と狭い空間を耐えるより
余程いい。
「…?」流石に気になって小窓に手を
掛けようとした所で、引き戸が開く。
「さあ、着きましたぞ。」「…。」
駕籠から外に出ると、そこは何処かの
城の様にも見えた。白い玉砂利が
月の光を受けてキラキラと輝いていて
凄く綺麗だ。けれども、そんな感慨も
直ぐに潰えた。
時代錯誤な和装のメイドたちによって
僕は城っぽい建物の中へと
連れ込まれたからだ。
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