第19話 敵陣突入
「私、弁護士の椿と申します。御社の社員による心的被害を受けております。企業倫理相談窓口をお願いします。」
椿弁護士から直接、アポイントメントをとって担当者との面談を取り付けた。通常は直接、担当者や人事部担当者に面談することはできないが、既に浜島からの仕込みが効いている。すぐに面談の約束を取り付けた。
面談当日、コンプライアンス担当部長、人事部部長が我々を迎えた。
椿が口火を切る。
「こちらの青島修吾様、四井相互銀行本店法人営業部にご勤務です。奥様の純玲さんが、約15年前、御社の資材・設備調達部の部長の柾木辰夫氏と不適切、つまり不貞関係にあることが、近日判明しました。ついては、青島氏は、柾木氏に精神的苦痛を受けた慰謝料を請求しようと考えています。」
「それは、弊社の社員がご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。」
「それだけですか?」
「個人的なトラブルについては、個々で解決いただければと思いますが。」
「個人的なトラブル、不貞行為として済ませるつもりですか?もし、そうなら我々は、性的な関係を強要した強要罪として刑事告発する準備があります。」
「おまちください。申し訳ありません。もう少し、詳しくお聞かせ願えますか。」
よし、ここで追加攻撃だ。
「私が、四井相互銀行に勤務しているのは先ほど申し上げました。当行の法人審査部に、柾木氏が不当なダンピングやリベートの強要の噂があると聞いています。御社ではその噂はありませんか?」
「は、はい。それは、まだ確認していませんが・・・。話は少し出ております。」
「私の妻は四菱商事の軽金属部で原料や板製品の輸入を当時担当しておりました。その際、柾木氏から取引の見返りに不当に低い価格の提示と性的関係の強要を受けたとみられる証拠を入手しております。」
「これでも、個人的な問題として処理されるおつもりですか。」
「いえ、申し訳ありません。社内で厳正に調査し、事実が確認できた場合は、適切な処分をすることをお約束します。」
椿と俺は顔を見合わせ、椿が言葉をつづけた。
「分りました。当方の希望をご理解いただけたと解釈します。では、社内調査で分かったこと、処分が下された場合はその内容を私までお知らせください。それを検討し、納得できた場合には刑事告発、外部への情報発信は見送ります。ご希望のとおり、柾木氏への慰謝料の請求のみといたします。」
「では連絡をお待ちしています。」
椿と俺は、力強い足どりでトヨノビルを後にした。
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