第7話 弱さの告白
工房の窓から差し込む朝日が、削りかけの楓材に琥珀色の輝きを与えていた。僕は昨日から取り組んでいる小さな宝箱の蓋に刻む彫刻に集中していたが、どうしても手が震える。集中できない理由は明白だった。
「タクミさん、おはようございます」
リラの声が背後から響いた。振り返ると、いつものように清楚な薄紫の服を身に纏った彼女が立っている。だが、何かが違う。普段の穏やかな表情の奥に、僕でも感じ取れるほどの緊張が宿っていた。
「おはようございます、リラさん。今日も早いですね」
僕は彫刻刀を置き、彼女に向き直った。リラは微笑みを浮かべているが、その笑顔は作り物のように見える。まるで何かを隠そうとしているかのように。
「はい。でも、タクミさんの方がお早いじゃありませんか」
「あの彫刻が気になって、つい」
僕は宝箱を指差した。依頼主は隣町の商人で、娘の誕生日プレゼントにと注文してくれた。蓋には小さなバラの花を彫る予定だったが、細かい作業に没頭していると、昨日から村に流れている噂のことを忘れられる。
「素敵ですね」リラが近づいてきて、僕の手元を覗き込んだ。「この繊細な線の一本一本に、タクミさんの思いが込められているのがわかります」
僕の頬が熱くなる。リラはいつも僕の作品をそんな風に褒めてくれるが、どうしても素直に受け取れない。
「そんな大層なものじゃありませんよ。ただの趣味の延長です」
「また謙遜されて」リラが困ったような表情を見せる。「タクミさんの技術は本当に素晴らしいのに、どうしてそんなに自分を低く見積もられるのですか?」
この問いかけに、僕は答えに詰まった。自分でもよくわからない。ただ、褒められると居心地が悪くなってしまう。
「あ、そうだ」僕は話題を変えようとした。「昨日ミラさんが言ってたんですが、隣町のクロスロードに討伐隊が来てるって本当ですか?」
リラの表情が一瞬強張った。僕はそれを見逃さなかった。
「え、あ、はい」彼女は慌てたように答える。「そのような話は聞いております。でも、ここは辺境ですから、そう心配することは——」
「魔王軍を討伐する国王軍とその一行だとか」僕は続けた。「この平和な村には関係のない話だと思いますが、でも少し不安で気になりますね」
リラは何か言いかけて、口をつぐんだ。そして深呼吸をしてから、僕を見つめた。その時、僕は彼女の手が小刻みに震えているのに気づいた。
「タクミさん、実は」彼女の声が震えている。「私、しばらく旅に出ようと思うのです」
「旅、をですか?」
僕の心臓が跳ね上がった。突然すぎる申し出に、頭が真っ白になる。
「はい。故郷に、どうしても会わなければならない方がいまして」
「いつ頃」僕の声がかすれた。「どのくらいの期間で帰ってくる予定ですか?」
「明日の朝には出発したいと思います。期間は…」リラが視線を逸らした。「わかりません」
工房の中に沈黙が落ちた。薪ストーブの炎がぱちぱちと音を立て、外では鳥たちがさえずっている。だが僕の耳には何も聞こえなかった。
リラがしばらくいなくなる。
この数ヵ月間で、僕の生活は大きく変わった。朝起きて工房に向かうとき、リラが既に到着しているかもしれないという期待がある。作業中に彼女が持参するお茶を一緒に飲む時間が、一日の中で最も穏やかなひととき。夕方、彼女が「お疲れ様でした」と微笑みながら帰っていくのを見送るときの、名前のつけられない寂しさ。
「……そう、ですか」
なんとか絞り出した声は、自分でも驚くほど硬かった。リラがいなくなる。その事実が、重い石のように胃の底に沈んでいく。
「大切な用事でしたら、仕方ありません。僕のことは、お気になさらず」
無理やり作った笑顔は、きっとひどく引きつっていただろう。
内心は、混乱していた。なぜ、こんなにも胸がざわめくのだろう。リラは、ただの助手だ。いや、本当にそうだろうか? 僕にとって彼女は、もうそんな言葉で片付けられる存在ではなくなっていた。だが、彼女には彼女の人生があり、僕がそれを引き留める権利など、どこにもない。
「あの、リラさん」
僕は、何か言わなければと、必死に言葉を探した。そして、作業台の引き出しから、小さな革袋を取り出す。
「少し早いですが、これ、今月分のお給料です。道中でお使いください。急な旅立ちで、準備も大変だったでしょうから、当座の資金として多めに入れておきました。 気になさらないで」
差し出した革袋は、給料というには少しだけ厚みがあった。本来渡す予定だった額に、僕が黙って銀貨を数枚、上乗せしたからだ。
「…いえ、そんな、仕事もしていないのに給料をいただくわけには——」
リラが遠慮しようとするのを、僕は少し強引に遮った。
「いいんです。リラさんがいてくれたおかげで、工房の仕事は順調なんですから。これは、当然の報酬です。だから…その、無事に帰ってきて、また使い道を教えてください」
最後の言葉は、ほとんど懇願に近かった。お金を渡す。そんなことしか、僕にはできない。本当は「行かないでほしい」と、その腕を掴みたいのに。
「ありがとうございます」リラの表情が少し和らいだ。「それでは、今日一日よろしくお願いします」
その日の作業は集中できなかった。リラは普段通り手際よく木材の整理や道具の手入れをしてくれたが、時折ぼんやりと窓の外を眺めている姿を見かけた。何かを考え込んでいるような、憂いを帯びた横顔。そして、僕が気になったのは、彼女の指にはめられた木の指輪だった。いつもは木目が縦に流れるようにはめているのに、今日は横向きになっている。些細なことだが、彼女の心の乱れを物語っているように感じられた。
昼過ぎ、ミラが工房を訪れた。
「タクミさん!聞きました?隣町に国王軍がいらしてるって!」
彼女の興奮した声に、リラがびくりと肩を震わせた。僕はそれを見逃さなかった。
「ああ、うん。朝、リラさんからも聞いたよ」
「すごいですよね!しかも今回はの国王軍と一緒に第一王子のディエゴ・ライトブレイド様も一緒に来るみたいです!ウィロウブルックには耐性が整うまで滞在するって噂になっていますよ」
ミラの目がキラキラと輝いている。彼女は昔から冒険者に憧れを抱いていて、第一王子の話になると特に興奮する。
「でも」ミラが声を落とした。「なんで急にこんな田舎の方に来たんでしょうね?魔王軍の幹部でもいるのかな?」
リラの手が止まった。彼女が磨いていた鑿が、かたりと音を立てて作業台に置かれる。
「ミラ」僕が口を開いた。「あんまり物騒な話は」
「あ、ごめんなさい!でも気になりませんか?平和なこの村に、もしかしたら魔王軍の人が紛れ込んでたりして」
リラが顔を上げた。その表情は蒼白だった。僕が慌てて彼女を庇おうとした、その時だった。
「…あれ?リラさん」
ミラが、急に不思議そうな顔でリラの手元をじっと見つめた。
「その指輪、いつもと逆向きにはめてますよ?何かあったんですか?」
ミラの無邪気な指摘に、リラははっとしたように自分の指を見た。確かに、いつもは木目が縦になるようにはめている指輪が、今日は横向きになっている。僕でさえ気づいていたが声をかけられずにいた、ほんの些細な変化。それは、彼女の心が、極度の緊張と動揺で乱れていることの、何よりの証拠だった。
「…!いえ、これは…少し、考え事をしていただけです」
リラは慌てて指輪の位置を直し、無理に微笑んだ。だが、ミラはまだ何か言いたそうに首を傾げている。
「その話は、もうやめましょう」
僕は、もう一度、今度は有無を言わせぬ強い口調で言った。このままでは、ミラの鋭すぎる観察眼が、リラの仮面を剥がしてしまうかもしれない。
「え?でも——」
「やめましょう」
僕の語気に、ミラが驚いた顔をした。普段の僕は決して強い口調で話すことはない。
「タクミさん、どうしたの?」
「別に何でもないです。ただ」僕はリラを見た。彼女は俯いている。「そういう疑心暗鬼になるような話は好まないだけです」
ミラが僕とリラを交互に見た。空気の重さに気づいたのだろう、彼女は小さく頷いた。
「ごめんなさい。軽率でした」
「いえ」リラが顔を上げた。「ミラさんは何も悪くありません。警戒するのは当然のことです」
だが彼女の声は震えていた。
その後、工房は静寂に包まれた。ミラは早めに帰り、リラは黙々と作業を続けていたが、いつもの集中力を感じない。僕も同様だった。小さな宝箱の彫刻は全く進まず、同じ場所を何度も削り直している。
午後の日差しが工房を満たし、木屑が舞い踊る中で、僕たちは言葉を交わすことなく、それぞれの作業に向き合った。だが、その静寂は決して平穏なものではなかった。まるで嵐の前の静けさのような、張り詰めた空気が流れていた。
僕は何度かリラに声をかけようとしたが、その都度躊躇してしまった。彼女の表情があまりにも深刻だったから。そして、僕自身も、彼女の旅立ちへの不安で心が乱れていたから。
夕方が近づいた頃、リラが口を開いた。
「タクミさん、先ほどは申し訳ありません」
「いえ」僕が遮った。「僕の方こそ、ミラにきつく当たってしまって」
「そうではありません」リラが僕に向き直った。「タクミさんは、私を信じてくださるのですか?」
突然の問いかけに、僕は戸惑った。
「信じるって、何に対してですか?」
「もし」リラの声が小さくなる。「もし私が、タクミさんの思っているような人間でなかったとしても」
僕は彼女の瞳を見つめた。深い青の瞳に、不安と恐れが宿っている。まるで拒絶されることを覚悟しているような。
「リラさん」僕はゆっくりと口を開いた。「僕は、あなたがどんな人なのか知りません。過去に何があったのかも、なぜこの村に来たのかも」
リラの表情が曇った。
「でも」僕は続けた。「僕が知っているのは、あなたがこの工房で見せてくれる姿です。丁寧に道具を手入れしてくれるリラさん。僕の拙い作品を心から褒めてくれるリラさん。困っている人を見過ごせないリラさん」
リラの目に涙が浮かんだ。
「それがあなたの本当の姿だと、僕は思っています。だから——」
僕は自分の気持ちを整理しながら言葉を探した。
「僕は、あなたを誰よりも信じています」
リラが小さくすすり泣きを始めた。僕は慌てて立ち上がろうとしたが、彼女が首を振った。
「ありがとうございます」彼女が涙を拭いながら言った。「タクミさんのその優しさが、私には……」
「リラさん?」
彼女は何かを言いかけて、また口をつぐんだ。そして深く息を吸い込んだ。
「タクミさん、私にも聞かせていただけませんか?」
「何を?」
「タクミさんが、どうしてそんなに自分を低く評価されるのか。あれほど素晴らしい技術をお持ちなのに、なぜいつも『大したことない』と言われるのか」
僕は素直に困った顔を隠せなかった。自分のことを話すのは得意ではない。特に、劣等感について語るのは気が重い。
だが、リラが僕を信頼してくれと言ったのなら、僕も彼女に心を開くべきなのかもしれない。
「昔の話になりますが」僕はゆっくりと口を開いた。「僕は、大きな組織で働いていました」
「組織?」
「はい。たくさんの人が集まって、建物を作る仕事をする場所です」
リラが頷いた。
「そこで、僕は設計の仕事をしていました。建物がどんな形になるか、図面に描く仕事です」
実際はもう少し複雑だったが、できるだけ分かりやすく説明した。
「最初の頃は夢中でした。自分が考えた建物が実際に建つのを見るのは、本当に嬉しかった。でも」
僕は一度言葉を切った。あの頃のことを思い出すのは、今でも辛い。
「僕の設計には、いつも問題がありました。費用が予定より多くかかったり、構造に欠陥があったり、職人さんたちが作るのに苦労したり」
リラが心配そうに僕を見ている。
「僕の設計には、いつも問題がありました。コストが予算を超過したり、構造上の不備が見つかったり…」
リラが心配そうに僕を見ている。
「上司からは…毎日のように叱責されました。『また君か、村上くん』と、うんざりした顔で。同僚たちの間では、陰でこう呼ばれていたそうです…『修正待ちの村上』、と」
自嘲気味に呟いた言葉は、喉の奥でひどくざらついた。
「『あいつに任せると、必ず後で問題が起こる』…そんな声が、いつもどこかから聞こえてくるようでした
僕の声が小さくなった。
「最初は反論していました。でも、何度も何度も指摘されていると、だんだん自信がなくなりました。自ら考えて判断する事も、意見を出す事も無意味になって毎日が苦しくて仕方なかったです」
「そんな」リラが呟いた。
「最後の頃は、何を作っても『どうせまた問題があるんだろう』って思うようになりました。自分の能力を信じることができなくなって、簡単な作業ですら怖くなりトイレに逃げました」
僕は深いため息をついた。そして、あの日のことを思い出した。作業場で旋盤を扱っていた時の、あの瞬間のことを。
「そして、ある日」僕は続けた。「趣味で木工をやっていた作業場で、事故が起こりました。旋盤に巻き込まれて、気がついたらこの世界にいたんです」
リラが息を呑んだ。
「だから、この世界に来てから木工を始めても、いつも不安なんです。本当にこれでいいのか、どこか間違いがあるのではないかって。前の世界での失敗が、頭から離れないんです」
あの旋盤の、鉄の匂いとオイルの匂い。耳をつんざくような甲高いモーター音。そして、何かが砕ける鈍い感触。
この世界に来て、木の香りに包まれて、ようやく忘れられると思っていた。なのに、最近また、ふとした瞬間に、あの作業場の光景が鮮明に蘇るようになった。
まるで、この体に刻み込まれた恐怖そのものが、僕がここで幸せになることを拒絶しているかのように。深く僕は、またあの場所へ戻ろうとしている。
リラが立ち上がって、僕の近くに来た。
「タクミさん」彼女の声が優しい。「私が初めてこの工房を訪れたとき、あの木の指輪を見て息を呑みました。あんなに美しい物を見たのは初めてでした」
「でも、あれは」
「違います」リラが僕の言葉を遮った。「あれは間違いなく芸術品でした。私の目に狂いはありません」
僕は何も言えなかった。
「それに、ミラさんが作られた小箱を見たときの表情。ガリックさんが『いい仕事だ』と呟かれたときの顔。村の人々がタクミさんの作品を大切そうに持ち帰る姿」
リラの瞳が真剣だった。
「それらすべてが嘘だとお思いですか?」
「いえ、でも」
「タクミさんは、ご自分を過小評価しすぎています。確かに過去に辛いことがあったのでしょう。でも、それはもう過去のことです」
リラが僕の手を握った。その手は少し冷たかったが、温もりを感じた。
「今のタクミさんは、多くの人に喜びを与えています。それは紛れもない事実です。私も」
彼女の声が震えた。
「私も、タクミさんの作品に、タクミさんの優しさに、救われました」
僕の目に涙が滲んだ。誰かにこんなに真剣に言われたのは、いつぶりだろう。
「ありがとうございます」僕は小さく呟いた。「リラさんがそう言ってくれるなら」
「はい」彼女が微笑んだ。「私は嘘をつきません」
だが、彼女の表情に一瞬影が差したのを、僕は見逃さなかった。何かを隠している。それは確実だった。しかし、僕にはそれを追求する気はなかった。誰にでも言えない事情がある。僕にもそうだったように。
「リラさん」僕が口を開いた。「明日の旅路、気をつけて行ってきてください」
「はい」彼女が頷いた。「必ず戻ります」
「約束ですよ」
「約束です」
リラがそう言った時、彼女の瞳に深い悲しみが宿っているのを、僕は見てしまった。まるで、その約束を守れないかもしれないことを、彼女自身が一番よく知っているかのように。
その夜、僕は宝箱の彫刻を完成させた。小さなバラの花が、木肌に命を吹き込まれたように咲いている。リラの言葉を思い出しながら、久しぶりに自分の作品に満足できた。
しかし、心の奥底に不安が渦巻いていた。リラの様子があまりにも異常だった。指輪の向き、蒼白な顔色、震える手、そして何より、あの悲しそうな瞳。
僕は窓の外を見つめた。月明かりが村を照らしている。平和で静かな夜だが、その向こうに何かが潜んでいるような気がしてならなかった。
翌朝、僕が工房の一階に降りると、リラは既に旅支度を整えて待っていた。簡素な旅装に身を包み、小さな鞄を肩にかけている。その姿を見た瞬間、僕の胸に鋭い痛みが走った。
「お早いですね」
「はい。早く済ませて戻りたいので」
リラの声は普段通りだったが、どこか作り物めいていた。
僕たちは並んで工房を出た。村の入り口まで見送ると約束していた。
「タクミさん」歩きながらリラが言った。「もし」
「もし?」
「もし私が戻らなかったら」
僕の足が止まった。
「戻らないって、何かあるんですか?」
「いえ」リラが慌てて首を振った。「ただの仮定の話です。でも、もしそうなったら、タクミさんはこの工房を続けてくださいますか?」
「もちろんです」僕は即答した。「でも、あなたは絶対に戻ってきますよね?」
リラが立ち止まって僕を振り返った。朝日が彼女の髪を照らし、美しい光の輪を作っている。
「はい」彼女が微笑んだ。「約束しましたから」
だが、その微笑みは余りにも切なく、まるで永遠の別れを告げるかのようだった。
村の入り口で、僕はリラを見送った。彼女の姿が森の向こうに消えるまで、僕はそこに立っていた。
そして、後になって理解することになるのだった。あの時の彼女の悲しそうな表情の意味を。なぜ彼女が「戻らないかもしれない」と言ったのかを。
昼過ぎ、ガリックが工房を訪れた。
「リラは出かけたのか」
「はい。故郷に用事があるとかで」
ガリックが眉をひそめた。
「いつ帰ってくる?」
「わからないそうです」
しばらく沈黙が続いた。ガリックが何かを考え込んでいる。
「なあ、タクミ」
「はい?」
「お前はリラのことをどう思ってる?」
突然の質問に、僕は戸惑った。
「どうって」
「信頼してるか?」
「もちろんです。昨日もそう言いました」
ガリックが重いため息をついた。
「いいことだ」彼が言った。「だが、もし」
「もし?」
「もしリラが、お前の思ってるような人間じゃなかったとしても、その気持ちを忘れるな」
僕はガリックの真剣な表情に驚いた。
「どういう意味ですか?」
「人は皆、何かを隠してる」ガリックが作業台の木材に手を置いた。「俺だってそうだ。お前だってそうだろう」
「はい」
「大切なのは、その人が今、目の前でどんな人間かだ。過去じゃない。未来でもない。今だ」
ガリックの言葉に、僕は深く頷いた。
「わかりました」
「リラは良い女だ」ガリックが珍しく柔らかい表情を見せた。「お前を大切に思ってる。それは間違いない」
「そう、ですね」
「だから、何があっても信じてやれ。たとえ世界がリラを敵だと言ったとしても、お前だけは信じてやれ」
ガリックの言葉に、僕は不吉な予感を覚えた。なぜ彼はそんなことを言うのだろう。まるでリラに何か危険が迫っているかのように。
「ガリックさん、何かご存知なのですか?」
「いや」ガリックが首を振った。「ただの老人の戯言だ。気にするな」
そう言って、ガリックは工房を出て行った。しかし、その後ろ姿は重く、まるで大きな重荷を背負っているかのようだった。
夕方、ミラが心配そうに工房を覗いた。
「タクミさん、リラさんは?」
「旅に出ました。故郷に用事があるって」
「そう、なんですか…」
ミラは俯いて、何かを躊躇うように唇を噛んだ。
「昨日は、ごめんなさい。私、余計なこと言っちゃって…」
「気にしないでください。ミラさんは何も悪くありません」
「でも…」
彼女は顔を上げ、真剣な目で僕を見た。
「リラさん、やっぱり様子が変でした。指輪の向きもそうだったけど、私と話している時、一瞬だけ、まるで『もう会えない』って言うみたいな、すごく悲しい顔をしたんです。ただの里帰りじゃないんじゃ…」
子供ならではの、曇りのない直感が放つ言葉。それは、僕が心の奥底で感じていた不安の正体を、的確に言い当てていた。リラは、戻らないかもしれない。
僕が言葉を失っていると、ミラは作業台の隅に、小さな木の板をそっと置いた。それは、僕が以前教えた通り、表面が滑らかに削られている。
「私、リラさんが帰ってくるまで、木工の練習、もっと頑張ります。それで、リラさんが帰ってきたら、びっくりさせてあげるんです。『私も工房の仲間です』って」
彼女はそう言って、無理に笑顔を作った。それは、僕を励ますための、彼女なりの優しさだった。
「…ええ。きっと、喜びますよ」
僕は、その小さな木の板を見つめながら、かろうじてそう答えた。リラが残した温もりと、彼女が向かったであろう危険。そして、この工房で彼女の帰りを待つ、僕とミラのささやかな絆。その全てが、胸の中でないまぜになっていた。
「タクミさん」ミラが僕の手を握った。「リラさんは絶対に帰ってきます。だって、タクミさんがいるもの」
彼女の言葉に、僕の目に涙が滲んだ。
「ありがとう、ミラさん」
その夜、僕は一人で工房に残って作業を続けた。リラがいない工房は、やけに静寂だった。いつもなら彼女が片付けてくれる道具も、自分でしまわなければならない。
彼女の不在を実感するにつれ、僕は自分の気持ちを認めざるを得なくなった。
僕は、リラを失いたくなかった。
助手としてではない。もっと特別な存在として。
しかし、彼女には彼女の事情がある。僕にできるのは、彼女の帰りを待つことだけだった。
窓の外で風が吹き、木々がざわめいている。まるで何かを警告するかのように。
僕はまだ知らなかった。リラが向かった先で、どんな危険が待ち受けているのかを。そして、彼女が隠していた真実が、やがて僕たちの運命を大きく変えることになるのを。
翌朝、村に不穏な知らせが届いた。隣町クロスロードで、第一王子の一行と謎の魔法使いの間で戦闘があったという。魔法使いは逃走したが、第一王子はその行方を追ってこちらの方面に向かっているらしい。
宿屋の主人が慌ただしく村人たちに情報を伝えて回っている。
「氷の魔法を使う女だったそうだ」主人が息を切らしながら言った。「青い髪で、美しい顔をしていたが、その目は冷酷だったとか」
僕の心に、嫌な予感が広がった。青い髪。美しい顔。氷の魔法。
リラは、本当に大丈夫なのだろうか。
「タクミさん、大丈夫ですか?」
ミラが心配そうに僕を見上げていた。僕の顔が青褪めているのに気づいたのだろう。
「ええ、大丈夫です」
だが、心は全く大丈夫ではなかった。リラの異常な様子、突然の旅立ち、そして今回の情報。全てが一つの恐ろしい可能性を示していた。
もしかしたら、リラは。
僕はその考えを振り払おうとしたが、頭から離れなかった。ガリックの言葉が蘇る。「もしリラが、お前の思ってるような人間じゃなかったとしても、その気持ちを忘れるな」
まるで彼は、最初から知っていたかのように。
工房に戻ると、僕は完成した宝箱を眺めた。小さなバラの花が、僕を見つめているような気がした。まるで、何かを語りかけるように。
リラは無事だろうか。そして、彼女が隠していたものは何なのだろうか。
午後になって、村の空気が一変した。遠くから馬の蹄音が聞こえてきたのだ。複数の馬が、こちらに向かって来る音。
僕は工房の窓から外を覗いた。
村の入り口から、まるで夕闇を切り裂くように、一団の騎士たちが姿を現した。彼らがまとう白銀の鎧は、月明かりを反射して、まるで自ら発光しているかのようだ。その一団がもたらすプレッシャーに、道端にいた村人たちが、壁に張り付くようにして道を譲る。
その先頭に立つ青年を見た瞬間、僕は呼吸を忘れた。
陽光を編み込んだかのような金髪。寸分の隙もなく磨き上げられた、王家の紋章が刻まれたプレートメイル。そして何より、ただそこに存在するだけで、周囲の空間そのものを支配下に置くかのような、圧倒的な覇気。
背中に背負った聖剣は、まるで生きているかのように脈動し、その輝きは夜の闇を昼間のように照らし出していた。
ディエゴ・ライトブレイド。この国の第一王子にして、魔王を討つ宿命を背負った次期国王の候補者。
彼が馬上から村を一瞥しただけで、村全体が彼の威光の前にひれ伏したかのような、絶対的な静寂が訪れた。彼の瞳は、悪を断罪する裁定者のように鋭く、そして冷徹だった。
彼が軽く手を上げるだけで、後ろに控える騎士たちが一糸乱れぬ動きで馬から下りる。声も、物音一つない。完璧に統率されたその静寂こそが、何よりも雄弁に彼の権威を物語っていた。
王子は自らも馬から降り立つと、その鋭い瞳で、しんと静まり返った村をゆっくりと見回した。
その視線は、何か特定のものを探しているようでありながら、それだけではなかった。まるで、この村の空気そのものを吟味しているかのようだ。長年培われてきた村の営み、人々の気質、そして、この土地に流れる微かな魔力の淀みさえも。彼は、その全てをその双眸に写し取り、一瞬にして本質を理解しようとしている。そんな、常人離れした洞察力が、彼の佇まいから感じられた。
沈黙を破ったのは、村長だった。彼は、額に脂汗を浮かべ、震える足でなんとか王子の前まで進み出ると、深く、深く頭を垂れた。
彼の視線が、ふと、ガリックの鍛冶場に向けられる。
「……ほう。この村には、腕の良い鍛冶職人がいるらしいな」
王子がぽつりと呟いた。彼の視線の先、鍛冶場の軒先に吊るされた、何の変哲もない馬蹄。だが彼は、その一見平凡な鉄製品から、作り手の確かな技術と、長年の経験によって培われた魂の熱量を感じ取ったのだろう。
次に、彼の視線は僕たちの工房へと滑った。
「そして…木工職人もか。随分と、実直な仕事をする」
その言葉に、僕は息を呑んだ。窓から見えるのは、僕が作った簡素な椅子と、壁にかけられた工具だけだ。それだけの情報で、彼は僕の仕事の「質」を、その核心を見抜いたというのか。
彼の目は、表面的な美しさや豪華さには興味を示さない。ただひたすらに、物事の奥に潜む「真実」だけを求めている。そんな、恐ろしくさえある眼差しだった。
その絶対的な洞察力を前に、村人たちは家々の窓や戸口の隙間から、息を殺して様子を窺うばかりだった。
「こ、これはディエゴ王子殿下。よ、ようこそ、このような辺境の村へお越しくださいました。何もお構いできませんが…」
王子は、必死に歓迎の言葉を紡ぐ村長に一瞥もくれず、ただ冷徹に、そして静かに告げた。
「案内は不要だ。我々は、客として来たのではない」
その声は、よく響く美しいテノールだったが、氷のように冷たく、一切の感情を排していた。
「――この村に潜む、『魔王軍の残党』を狩りに来ました」
その一言が、村の空気を完全に凍てつかせた。
村人たちの間にどよめきが起こった。
「この村に、怪しい人物は潜んでいないか?特に、青い髪の女性」
僕の心臓が激しく鼓動した。青い髪の女性。リラのことを言っているのだろうか。
「い、いえ。この村は平和な農村で、怪しい者など」
村長が震え声で答えた時、王子の視線が工房の方を向いた。僕と目が合う。
王子の瞳が鋭く光った。
「あの建物には誰がいる?」
「あそこには最近、よそから来られた木工の職人さんがいます」
村長がそう言いかけた時、王子が手を上げて制した。
「職人?いつ頃から?」
「数ヶ月ほど前からこの村で働いております」
王子がこちらに向かって歩き始めた。僕は慌てて窓から離れた。
なぜ王子が僕の工房に興味を示すのだろう。まさか、リラがここにいたことを知っているのだろうか。
工房の扉がゆっくりと開かれた。王子ディエゴが、その従者たちと共に入ってきた。
「失礼する」王子が言った。「あなたがこの工房の主人なのか?」
「は、はい。村上タクミと申します」
僕は努めて平静を装った。
王子が工房の中を見回している。リラが使っていた道具、彼女が座っていた椅子、全てを鋭い視線で確認している。
「美しい工房だ」王子が言った。「一人で切り盛りされているのか?」
「はい、基本的には一人体制で動いています」
僕は嘘をついた。リラのことを話すべきかどうか、迷った。
王子が作業台の上の宝箱に目を止めた。
「見事な彫刻だね。あなたの手で造った作品?」
「はい」
「素晴らしい技術だ」王子が微笑んだ。だが、その笑顔は目に届いていなかった。「ところで、最近、この村に怪しい人物は現れていないか?」
「怪しい人物と言いますと?」
「魔王軍の幹部が、この辺りに潜伏しているという情報が入った。特に注意していただきたいのは、青い髪で美人だそうだ」
僕の手が震えそうになった。
「そのような人は」僕は慎重に言葉を選んだ。「見かけておりません」
王子が僕の顔をじっと見つめた。まるで嘘を見抜こうとするかのように。
「そうか」王子が言った。「もし見かけたら、すぐに我々がいるところまで知らせてくれると嬉しい。非常に危険な人物だから直接相手にしないように気をつけろ」
「承知しました。ちなみにどう言う危険を持っている人ですか?」
「氷の魔法を操り、数多くの人々を殺してきました。リラエルという名前の、魔王の右腕とも言える幹部である。それに、魔族は人ではない。ただこの王国から消し去るべきのゴミだ」
リラエル。
その名前を聞いた瞬間、僕の世界が揺らいだ。
リラとリラエル。
まさか、奇遇だろう。
「顔色が悪そうだが、大丈夫か?」王子が僕の表情の変化に気づいた。
「い、いえ。何でもありません」
だが、僕の動揺は隠しきれなかった。
王子が一歩近づいてきた。
「では、我はここで失礼にするとしよう」
その時、工房の扉が開いた。ミラが慌てて駆け込んできた。
「タクミさん、大変!リラさんが——」
ミラが王子の存在に気づいて、言葉を止めた。
「リラさん?」王子の声が鋭くなった。
僕は青褪めた。ミラが無邪気に秘密を暴露してしまう。
「あ、いえ」
ミラが、顔面蒼白になって慌てて首を振った。
「今のは、その、村の友達のことで——ただの、噂話でして…!」
その必死の取り繕いを、王子は氷のような視線で一蹴した。
「嘘は、私には通用しない」
王子の声は静かだったが、その一言が工房の空気を凍てつかせた。彼はミラから僕へと視線を移す。それは、僕の心の奥底まで見透かすような、あまりにも鋭い眼差しだった。
「木工職人よ。あなたなら、真実を語るだろう。あなたの作るものと同じように、実直な言葉を。」
それは、賞賛のようでいて、決して逃がさないという宣告だった。彼の目は、僕がほんのわずかでも嘘をつけば、その瞬間に全てを見抜くと告げていた。
沈黙が落ちる。
工房の時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえた。カチ、カチ、と、まるで僕の命の残り時間を刻んでいるかのようだ。額から、冷たい汗が一筋、こめかみを伝って流れ落ちる。
どうする? どうすればいい?
ここで嘘をつけば、ミラが偽証の罪に問われるかもしれない。この鋭い王子の目を欺き通せる自信など、僕には到底ない。そうなれば、僕も、この工房も、終わりだ。
だが、真実を話せば、リラが——。
脳裏に、彼女の笑顔が蘇る。『必ず戻ります』と約束してくれた、あの泣きそうな笑顔が。あの約束を、僕自身の手で裏切るのか?
ミラが、助けを求めるように僕を見た。その瞳には、純粋な恐怖と、僕への信頼が宿っている。彼女を、この恐怖の渦に巻き込んだのは、紛れもなく僕自身だ。
もう、選択肢は残されていなかった。
僕は、喉の奥から絞り出すように、乾いた唇を開いた。
「……はい」
その一言を口にした瞬間、まるで重い枷が外れたかのように、ほんの少しだけ呼吸が楽になった。これが、僕にできる唯一の、誠実な答えだった。
「リラ、という女性が、数日前まで、ここで働いておりました」
僕の言葉を聞いた瞬間、王子の瞳の奥で、探し求めていた獲物を見つけた狩人のような、鋭く、そして冷酷な光が、カッと燃え上がった。
「やはり。その魔族女は、今どこにいる?」
「故郷に帰ったと言っていました。どこかはわかりません」
「いつだ? 曖昧な記憶で私を惑わすなよ。発った日、時刻まで、
「昨日の朝にこの工房を立ちました」
王子は満足げに一つ頷くと、背後に控える騎士の一人に、視線だけで合図を送った。騎士は音もなく駆け出し、追跡の準備に向かう。もはや、僕の存在など彼の眼中にはないかのようだった。
「村上、と言ったか」
不意に名を呼ばれ、僕は顔を上げた。王子の瞳には、憐れみとも侮蔑ともつかない、冷たい光が宿っていた。
「気の毒だが、あなたはただ、まんまと騙されていただけのこと。――その女の正体は、魔王軍が誇る最悪の魔女の一人、氷獄の
リラエル。
その名前が、まるで呪いのように僕の鼓膜に突き刺さった。頭が真っ白になり、立っているのがやっとだった。
「…そんな、はずは…」
かろうじて絞り出した声は、自分でも驚くほどか細く、震えていた。
「彼女は…リラさんは、とても優しい人でした。子供たちにも、動物にも……」
僕の必死の反論を、王子は鼻で笑った。
「それこそが、魔族の最も得意とする擬態だ。彼らは、獲物を油断させるために、完璧なまでの善人を演じてみせる」
王子の言葉が、容赦なく僕の心を抉っていく。工房での穏やかな日々、彼女の優しい笑顔、交わした約束。その全てが、彼の言葉によって、計算され尽くした「演技」という名の、醜い嘘に塗り替えられていく。
「あなたは、利用されていただけだ、木工職人よ。彼女の隠れ蓑として、実に都合の良い存在だったのだろうな」
違う。そう叫びたかった。
だが、声が出なかった。僕が信じてきたリラの姿と、王子が語る冷酷な真実。二つのイメージが頭の中で激しくぶつかり合い、僕の心は激しく揺さぶられ、引き裂かれそうになっていた。
彼女は本当に、僕を騙していたのだろうか。
あの涙も、あの笑顔も、全てが嘘だったというのか。
いや、違う。そんなはずはない。
僕が知っているリラは、子供たちの目線まで屈んで、優しく話しかけてくれる人だ。僕の拙い作品を、宝物のように大切にしてくれる人だ。彼女と過ごした工房の、あの温かい空気そのものが、彼女が人間と魔族という境界線をやすやすと飛び越えるような、冷酷な存在であるはずがないと、何よりも雄弁に物語っていた。
王子が見ているのは、彼女の「魔族」としての一面に過ぎない。だが、僕が見てきたのは、紛れもなく、一人の「リラ」という人間だったのだ。
「彼女から何か聞いていないか?魔王軍の動向について」
「何も」僕が首を振った。「彼女は木工を手伝ってくれていただけです」
王子が疑わしそうに僕を見た。
「本当に何も?怪しい行動は?」
僕は迷った。リラの様々な異常な行動を思い出す。でも、それを話せばきっと彼女の立場がさらに悪くなる。
「何もありません」
王子がため息をついた。
「わかった。でも、もし彼女が戻ってきたら、絶対に近づかない方がいい。あれはもうあなたが知る存在ではなくなっている」
「はい」
王子一行が工房を出て行った。僕とミラが一人残された。
「タクミさん」ミラが小さな声で言った。「リラさんって、本当に魔王軍の人だった?」
僕は答えられなかった。頭が混乱していた。
リラが魔王軍の幹部だったとしても、僕が知っている彼女の優しさは偽物だったのだろうか。あの涙も、あの笑顔も、全て演技だったのだろうか。
いや、そんなことはない。僕の直感がそう告げていた。
「……そうですね」僕が言った。「リラさんがどんな人だったか、ミラさんはどう思いますか?」
ミラが考え込んだ。
「優しくて、きれいで、でも時々すごく寂しそうな顔をしてた」ミラが答えた。「魔王軍の人だとしても、悪い人じゃないと思います」
僕は微笑んだ。子供の純粋な感性が、真実を見抜いているのかもしれない。
その夜、僕は一人で工房に残った。リラが使っていた道具を手に取り、彼女のことを思い出していた。
彼女は確かに秘密を隠していた。それが魔王軍の幹部であるということだったのかもしれない。
でも、僕が見たリラの涙は本物だった。彼女の優しさも、僕への想いも、全て本物だったはずだ。
王子は彼女を危険な人物だと言った。でも、僕にはそうは思えない。
ガリックの言葉を思い出す。「何があっても信じてやれ。たとえ世界がリラを敵だと言ったとしても、お前だけは信じてやれ」
まるで彼は、こうなることを予見していたかのように。
僕は決意を固めた。リラがどんな正体だったとしても、僕は彼女を信じる。そして、もし彼女が危険な目に遭っているのなら、僕にできることはないだろうか。
窓の外を見ると、星空が広がっていた。どこかでリラも、同じ空を見上げているのだろうか。
「リラさん」僕は小さく呟いた。「どうか無事でいてください」
夜風が工房を吹き抜けていった。まるでリラからの返事のように。
だが、その風はどこか冷たく、僕の胸に言い知れぬ不安の種を植え付けていった。
僕の知らない場所で、彼女がたった一人、何かとてつもなく大きなものと戦っている。そんな予感が、暗い夜の底から、じわりと滲み出してくるようだった。
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