第29話 一緒に分け合って

 剣術の練習を終え、更に夜が更けてきた頃、シャーロットの部屋では、いつもよりもほんの少し騒がしい声が聞こえていた

「ねえシャロ、これ食べていい?」

「いいよ、どうぞ」

 シャーロットの部屋でパンを分け合い食べるシャロとリリー。部屋にあるテーブルの上にたくさんのパンを囲み美味しそうに食べる二人をシャーロットがベッドに座り不満そうに見ている

「家に帰って食べなさいよ」

 お風呂上がりでまだ少し濡れた髪をタオルで乾かしながら二人に話しかけると、リリーがシャロと分けたパンを咥えてシャーロットの膝の上に置いた

「これ食べる?」

 差し出されたパンを取り、ちらりとシャロを見る。同じパンを持っているのを見て、食べていいか戸惑うシャーロットとシャロが目が合い、シャロがパンに目線を変えてパンを頬張る。それを見てシャーロットもリリーが持ってきたパンを少し千切ってリリーにあげると一緒にパンを一口頬張る

「美味しい」

 甘さ控えめなパンを食べながら呟くように言うと、先に食べ終えたリリーがシャーロットの肩に乗る

「これ、どこで買ったの?」

「一緒に行ったパン屋だよ、また行こうね」

「そうね」

 リリーとお喋りをしながらパンを食べ終え、ふぅ。と一息つき、ふとシャロを見る。まだ買い物袋にあるパンを新たに出してまた食べようとしていた

「じゃああの後、パンを買いに行ったのね」

 シャーロットの肩からパンを貰いにシャロの肩に移動したリリーに問いかける。パンを貰ったリリーが返事をするように顔を少し横に振る

「ううん、パンはさっき買ったばかりだよ」

「じゃあどこに行っていたの?」

「魔力を追っていたんだよ」

「もしかして、お母様とお父様の魔力?」

 シャーロットがシャロに向かって問いかける。返事もなくまだパンを食べ続けるシャロに、シャーロットが近づいてまた問いかける

「また行くの?それなら私も」

「ダメ」

「なんで?」

「魔術が使えないと無理だから」

 シャロの返事にシャーロットが言葉に詰まり黙り込む。二人の会話を聞いていたリリーがシャーロットの右肩に移動して立ち止まる

「魔術どころか全く魔力が無いなら無理だよ」

 そうリリーが言うと、シャーロットが少しうつ向いて無言になった

「リリー、帰るよ」

 パンを食べ終えたシャロが椅子から立ち上がりリリーを呼ぶ。呼ばれたリリーが止まっていたシャーロットの右肩からシャロの横を通り過ぎ、一足先に窓から外に飛び出した。部屋に残ったシャロはまだうつ向いたままのシャーロットに一冊の本を差し出した

「どうせ無理なんだから、その本でも読んで待ってて」

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