第9話 ドタバタと騒がしい夜

 シャロがディオロイ城にあるシャーロットの部屋に戻って数時間後、辺りもすっかり暗くなりディオロイ城の警備や村にいる人達も静かに過ごす中、シャーロットの部屋だけはドタバタと騒がしい声と足音が聞こえていた

「シャロ、これ美味しいよ。一緒に食べよう」

 リリーがパンの袋を咥えて窓の近くで本を読むシャロの前に来ると、読んでいたページを遮るようにパンの袋を置いた。すぐに側にあるテーブルにパンを移動しまた本を読みはじめると、リリーは新たなパンを取りにたくさんのパンや果物を抱えるシャーロットの方へ飛んでいった

「ちょっと!私が買ってきったパン、ほとんど食べているじゃないの!」

「美味しいから仕方ないよ」

 シャーロットが持つパンや果物を奪い取ろうとするリリーから逃げる。更にドタバタと騒がしくなる部屋でシャロは気にせず本の続きを読む

「シャロ、食べよう」

「夕御飯を食べたからいらないよ。リリーが全部食べて」

「えっ、私の為に用意されたご飯でしょ?食べたの?」

「帰ってくるの遅いし、食べないのも変だから食べたよ」

「そ、そんな……」

「早く帰ってこないのが悪いね」

 シャロの返事を聞いてしょんぼりするシャーロットをちらりと見た後、また本に目線を向けテーブルに置かれた紅茶が入ったティーカップに手を伸ばす

。こくりと一口紅茶を飲むとリリーがシャーロットから奪い取った葡萄をテーブルに置いた

「シャロ、ご飯美味しかった?」

「美味しかったよ、今日は豪華にしたらしいから」

 リリーが奪った葡萄を一緒に食べながら答える。葡萄の甘味が口に広がりリリーと楽しく食べている中、シャロの話を聞いたシャーロットが足元をふらつかせ、そのままベッドに倒れた

「早く帰って来れば食べれたのに」

 と、シャロが呆れながら言うと、シャーロットがベッドからガハッと勢いよく起き上がり、持っていたパンや果物がベッドや床に散らばった

「仕方ないでしょ、町に出たのよ。はしゃぐでしょ?」

「変な奴」

 落とした物を拾うシャーロットを見ながらシャロが呟き、読んでいた本を閉じた

「リリー、帰るよ」

 葡萄を食べるリリーに声をかけ、側にある窓を開ける。窓から出て帰ろうとするシャロを見て、リリーが急いで葡萄を数粒食べた

「またね、また明日もパン買おうね」

 窓辺に立ち、シャーロットにそう言うと、シャロを追いかけるようにリリーも窓から出ていった。急にシャーロット一人だけになった部屋が静かになり、拾ったパンや果物をシャロが座っていた椅子の側にあったテーブルに置く音が微かに響き、シャーロットが窓を閉めると、部屋の扉をコンコンと叩く音が聞こえた

「シャーロット様、お風呂の用意が出来ました」

「すぐ行くわ。ちょっと待って」

 家政婦の声に慌ててパンや果物を布団の中やクローゼットの中に隠す。服と果物でうまく閉まらなくなったクローゼットの扉を無理やり閉めて、はぁ。と一つため息をつくと、今日の昼間リリーと村を回った事を思い出してクスクスと楽しそうに一人笑った

「まあ今日は楽しかったから夕御飯は許してあげるわ。仕方ないわね」

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