第18話 すれ違う想い、深まる絆
1 眠れぬ夜
彼の告白を聞いた夜、私はずっと天井を見つめていた。
時計の針が一周しても、まぶたは重くならない。
頭の中には、彼の言葉と表情が何度もリフレインしていた。
「信じてほしい」
「もう隠し事はしない」
あんなにも真剣で、苦しそうで、誠実な眼差しを、どうして疑ってしまうのだろう。
私は枕を抱きしめ、唇を噛んだ。
信じたい。
本当に信じたい。
でも、一度芽生えた不安はしつこく残り、心の奥に影を落とす。
(もしまた裏切られたら……)
考えたくないのに、最悪の想像ばかりが浮かんでしまう。
気づけば涙が頬を濡らし、私は声を殺して泣いていた。
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2 ぎこちない朝
翌朝。
コーヒーの香りがリビングに漂っていた。
彼がマグカップを二つ用意し、テーブルに座って待っていた。
「おはよう」
「……おはよう」
ただそれだけの言葉が、どうしてこんなにもぎこちないのだろう。
普段と同じなのに、どこか違う。
その違和感が、余計に胸を締めつけた。
「昨日のこと……話してくれてありがとう」
私が絞り出すように言うと、彼は少し驚いた顔をして、すぐに柔らかく笑った。
「信じてくれるか?」
「……うん。でも、まだ……怖い」
私の本音を聞いた彼は、苦しそうに眉を寄せた。
その表情に胸が痛んだ。
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3 元カノの再会
その日の午後、街で思わぬ再会を果たした。
彼の元カノ――写真に写っていた女性。
「久しぶりね」
突然の声に振り返った私は、息を呑んだ。
整った顔立ちに、落ち着いた雰囲気。
彼女の笑顔は優しいはずなのに、なぜか胸に突き刺さった。
「彼、元気にしてる?」
「……ええ」
声が震えたのを、自分でも感じた。
彼女は一瞬迷ったように視線を落とし、それから静かに言った。
「まだ……彼のこと、想ってるの」
鼓動が早鐘を打つ。
言葉が頭に響き渡り、足がすくんだ。
「彼は優しいでしょう? きっとあなたを大事にしてる。でも、私だって忘れられないの」
笑顔なのに、挑戦的。
柔らかさに包まれているのに、奥底に強い決意を感じた。
私は何も言えなかった。
胸が苦しく、涙がこぼれそうになったから。
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4 心のすれ違い
数日後。
私たちは些細なことで言い合いになった。
「どうして信じてくれないんだ」
「信じたいの。でも……怖いの」
彼の声は必死だった。
私も必死だった。
けれど、言葉は互いの心に届かず、ただぶつかり合うだけだった。
沈黙が部屋を満たし、息苦しい空気に包まれる。
私は唇を震わせながら、とうとう涙をこぼした。
「どうしてなの……。こんなに好きなのに、どうして疑ってしまうの……」
泣き声がこだまし、私は顔を覆った。
その瞬間、彼が強く私を抱きしめた。
「ごめん。もう二度と失わない。だから、泣かないで」
彼の胸に顔を埋めると、心臓の鼓動が力強く響いていた。
その温もりに包まれると、氷のように冷えていた心が少しずつ溶けていった。
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5 絆の誓い
夜。
ベッドの中で、私は彼の腕の中にいた。
彼の体温が心地よく、涙の跡が乾いていくのを感じた。
「私、あなたを失いたくない」
小さな声で告げると、彼は迷わず答えた。
「俺もだ。絶対に守る」
強い声だった。
その言葉に、胸が温かく満たされていった。
私は初めて、彼にすべてを委ねたいと思った。
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6 新たな影
けれど――安堵したその夜、机の上に置かれた一通の封筒に気づいてしまった。
白い封筒。見覚えのない差出人の文字。
ぞくりと背筋が冷えた。
「……また、秘密?」
眠りかけていたはずの心が再びざわめき、私は目を閉じたまま拳を握りしめた。
運命に翻弄されるような恋。
愛しているのに、信じたいのに、なぜか心はまだ揺れていた。
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次回「封筒の秘密」
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