第39話 それぞれの道

 天下統一後、関羽、張飛、そして馬超といった将軍たちは、もはや戦う必要がなくなった。彼らは、劉備の恩義に報い、月英の知恵に感銘を受け、それぞれの新しい道を進み始めていた。戦場での英雄たちが、今や民衆のために、それぞれの役割を果たす。その姿は、武力ではなく、知恵と愛がもたらした、新しい時代の象徴だった。


 関羽は、戦で疲弊した民衆を救うため、新しい街道の整備を指揮していた。かつては、戦場で敵を打ち破ることに誇りを感じていた彼だが、今では、民が安全に暮らせる道を作ることが、武人としての新しい使命だと悟っていた。彼の持つ青龍偃月刀は、もはや戦の道具ではなく、街道を切り開くための、鋤へと変わっていた。


 「ここを、こうやって掘るのだ!民が安全に歩ける道を、俺たちが作ってやる!」


 彼の力強い声が、街道整備の現場に響き渡る。その声は、かつて戦場で兵士を鼓舞した声とは、また違った、穏やかで、しかし、深い愛情に満ちた声だった。民衆は、そんな関羽の姿を見て、彼が武人としての誇りを捨てたのではなく、武人としての誇りが、平和へと昇華されたことを理解していた。彼の後ろには、子供たちが小さな鍬を手に、彼の真似をして土を掘っていた。それは、平和な未来へと繋がる、確かな一歩だった。


 張飛は、納豆とプロテインの普及に尽力していた。彼は、かつて納豆を「腐った豆」と蔑んでいたが、今では、その栄養価と、兵士の体力を向上させる効果を、誰よりも理解していた。彼は、自らの豪快な性格を活かし、納豆の美味しさを民衆に伝え、納豆を使った新しい料理を開発していた。彼の持つ蛇矛は、もはや戦の道具ではなく、料理の材料を混ぜ合わせるための、大きな棒へと変わっていた。


 「姉御が教えてくれたこの豆は、力が湧いてくるんだ!よし、今度はこの豆を使って、新しい料理を作ってみるか!」


 彼の豪快な笑い声が、街の食堂に響き渡る。ある日、彼は納豆鍋を作っていた。子供たちが、その鍋を囲んで「早く食べたい!」と騒ぐ。しかし、張飛は、火加減を間違えて、鍋を焦がしてしまう。


 「うわー!姉御に怒られる!」


 張飛は、焦げ付いた鍋を見て、そう叫んだ。子供たちは、そんな彼の姿を見て、大声で笑った。それは、かつて戦場で恐れられた張飛が、今では、子供たちに愛される、優しい料理人へと変わった瞬間だった。


 馬超は、西涼の民に、蜀から届けられた温かい衣類と、新しい農具を広めていた。かつては、武力で天下を統一しようとしたが、今では、民が冬の寒さに苦しむことなく、豊かに暮らせることが、武人としての新しい使命だと悟っていた。彼の持つ槍は、もはや戦の道具ではなく、民衆を冬の寒さから守るための、温かい衣類を織るための、大きな機織り機へと変わっていた。


 ある冬の日、馬超は、雪深い山村に温かい布を配っていた。厳しい冬の風が吹き荒れる中、村人たちは、馬超が持ってきた温かい布を見て、涙を流した。


 「これがあれば、もう冬の寒さに苦しむことはない!皆、この衣類で、暖かく過ごしてくれ!」


 彼の声は、かつて戦場で兵士を鼓舞した声とは、また違った、穏やかで、しかし、深い愛情に満ちた声だった。西涼の民衆は、そんな馬超の姿を見て、彼が武人としての誇りを捨てたのではなく、武人としての誇りが、平和へと昇華されたことを理解していた。


 (やばい、やばい、やばい……関羽が土木工事の親方になってる!張飛が料理研究家になってる!馬超が機織り機の職人になってる!いやいや、これって三国志じゃないよね?だって、みんな武人としての誇りを捨てて、新しい道を進んでるんだよ?でも、この道こそが、本当の武人の道なのかも……!武力で人を打ち破るのではなく、知恵で人を活かす。それが、孔明が私に教えてくれた、新しい武人の道なんだ。この平和な世界、最高じゃない!孔明のためなら、どこまでもやっちゃうもんね!)


 私の思考は、孔明の愛に触れ、さらに暴走していく。それは、ただの妄想ではない。私の行動すべてに「必然性」を与える、新たな価値観の再構築だった。


 その日の夜、私は、孔明と一緒に、夜空を見上げていた。空には、満月が輝き、その光は、私と孔明を、優しく照らしていた。


 「孔明様……本当に、私たちのおかげで、皆、新しい道を見つけたのですね」


 私がそう言うと、孔明は、私の手を取り、その温もりを私の手のひらに伝えた。


 「ええ。あなたの知恵がなければ、この平和な世は、決して訪れることはなかったでしょう。彼らが新しい道を見つけたのは、彼らの武が、あなたの知恵によって、平和へと昇華されたからです」


 孔明は、そこで言葉を切ると、遠くの街の灯火をじっと見つめた。


 「しかし、戦なき世を続けることこそ、最も困難な戦です。この平和を、どうやって守り、どうやって次の世代に繋げていくか……それが、我らの、新しい戦いとなるでしょう」


 孔明の言葉に、私は、平和な勝利への道が見えてきたことに、安堵の表情を浮かべた。関羽や張飛、馬超が新しい道を見つけたことは確かだ。しかし、彼らの新しい道は、平和な世界の到来への、小さな代償なのだ。私は、そう自分に言い聞かせた。それは、私自身の罪悪感を打ち消し、この勝利に「意味」を与えるための、私にとっての「必然性」だった。


 夕焼けに染まる空は、まるで、平和な未来を象徴しているかのようだった。その光は、私の心を照らし、前に進む勇気をくれた。

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