第3話住所を教えてって!?

 俺が登校して教室に脚を踏み入れようとしたタイミングで横から腕を掴まれ、意識が腕を掴まれた方向に向いた。

「中峰くん、おはよう……昨日は付き合ってくれてありがとう。家の住所、教えてくれない?」

「おはようございます……えぇっ、自宅の住所って!?なんで望月さんに自宅——」

「校内では他人の視線が気になるので……中峰くんなら平気ですから。昨日の報酬みかえりを果たせてないので、中峰くんが私にしてほしいこと……ひとつしてあげる。そのための家の住所を公開してほしいの。良いかな?」

報酬みかえりっていうほどのことしてないよ。うーん……」

「良識あるのは好ましいけど、そんなに悩むの?中峰くんになら……パンツ、見せても良いんだよ」

 熟考している俺に顔を耳に近づけ、男子からすれば甘い魅惑を囁いてきた彼女。

「はふゅっ……それは、あぁーっと……自分を大切にしないと」

「ふふっ、なにその声?その啓蒙は嬉しいよ。報酬はしたいから、今日じゃなくても良いから心積もりが出来たら教えて。じゃあ!」

 口に手を当て上品な笑いをあげ、スカートの裾を掴んで翻るのを押さえて離れていく彼女だった。

 言葉とは裏腹にあわよくば……望月のショーツを見てみたいとは思った。

「あっ、望づ——」

 俺は彼女を呼び止めようとして、左腕を伸ばしたが既に彼女の姿は小さくなって見えなくなった。


 惜しい……と思ったが躊躇してしまって、彼女に話し掛けようと試みるがどうも上手くいきそうにない。


 放課後を迎えた。

 俺は俺の決心はつかぬまま、時間は刻々と過ぎていく。

 放課後は20分を過ぎた頃、俺は椅子から立ち上がる。

 ゆっくりと望月の席まで歩いていく。

 床の木目だけを捉えながら、望月のもとへと脚を進めた。

 望月の席に到着すると、望月の脚を捉え、唾をのみ込み、彼女の頭がある高さまで顔を上げ、彼女の横顔が瞳に映る。

「あのっ——」

「緊張してるね。教えてくれる気になった?」

「あのさ……望月さん、おっ教えるのはなんだしついてくるのは——」

 タイミングの悪いことにSNSのアプリの通知音が鳴った。

「気になるなら確認して。ついていく、中峰くんに」

「ごめん!えっあぁー……わかった」

 スマホを取り出し、メッセージを確認して、しまって返答に取り繕うことを忘れて親し気な返答をしてしまった。


「行こう、中峰くん」

「……分かりました」

 夏なら蝉の鳴き声で聴こえない振りが出来たのにと……もやもやとした感情に襲われながら歩き出した。

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