第17話 パルフェのホラゲ配信(失敗)
「こんパフェー。あにまるずっ!の癒し系。島国生まれのうさぎ、パルフェだよ! 昨日は途中で終わっちゃってごめんね?
エクゼでも書いたけど、ルーター壊れるとは思わなかったよ」
:『壊れるときは突然だから仕方ないよ』
:『あの絶叫が原因かな?』
:『あの時はついに配信クラッシャーになったかと思ったw』
「さっすがに、叫んで壊れるルーターはないと思うよ? マイクなら、前壊しちゃったことあるけど……」
以前行った、クラッシュ前提のカーレースゲームを実況中、3連続でクラッシュし、上位から下位に転落した時、心からの絶叫をした結果、マイクが一台お亡くなりになることとなった。
今回も、ホラーゲームをやっている最中、何かが出たと思った瞬間、画面がループし、オフラインになるということが発生した。
「あの時は予備のマイクがあったからすぐに交換してどうにかなったけど、さすがにルーターの予備はなかったからね。とりあえず2台買ってきたよ」
事情や現象をエクゼで伝えたところ、どうやらルーターが問題らしい、ということが判明し、リスナーからの助言もありルーターを買い替えてきたようだ。
:『言ってみれば仕事道具だし、予備もあるならしばらくは安泰かな?』
:『そのうちPCも予備買ってそう』
:『キーボードクラッシャーではないけど、ほとんどのものの予備を持っててもおかしくはない』
「いやいやいや、あたしも壊したくて壊してるつもりはないし。というわけで、昨日の続きから行くよ!」
:『お、おう』
:『チャレンジャーすぎる』
:『同じことになったら、霊障の可能性もあるってことか…』
霊障だなんて大げさだなーとパルフェは笑ってゲームを続きから再開させることにした。
と、前回の最初に見たあらすじから始まったことに首をかしげる。
「あれ? このゲームって、毎回最初のあらすじから入るの?」
:『セーブはオートセーブだから、前回のオートセーブポイントのところから始まるはずだよ』
:『そうそう。クラウドで管理されてるから削除しない限り最初からじゃないし、あらすじも出てこないはず』
:『クラウドでの管理…前回の配信、パルフェちゃん側のネットが落ちたから…たまたまオートセーブ入るタイミングで、壊れた?』
不運にも、クラウド上に保存されるデータが自動保存されるタイミングでネットが切れたらしく、通常であればそれでもデータは保存されるはずなのだが、よっぽどタイミングが悪かったらしく、続きのデータが読み込めなくなってしまったらしい。
「ねえ、あたし、前回の配信どれくらいしたっけ……?」
:『アーカイブに残ってる配信時間は、5:18:36だっけ…』
:『確か最初の30分は前のすーこちゃんとの話してて、怖くなったからって10分くらい中座したっけ?』
:『怖すぎる、って1時間近くグダグダしてたタイミングもあるし、スムーズにいけば3時間ちょいでいける計算だね!』
「やっぱ……枠取り直して、歌枠か凸待ち雑談にでもしよっか?」
:『草』
:『不幸がよく似合う女すぎる…凸待ちにするならほぼ0凸確定だけど大丈夫?』
:『歌枠でもいいけど、マイク予備ある?』
「相変わらずみんな好き放題いうなぁ! このゲームは週末に耐久するから、凸待ち行くよ! ついでに待ってる間歌も歌ってやるぅ!
枠すぐ作るから! 待ってて!」
むがぁ! と怒りの鳴き声を上げて配信を終わらせる。無茶なことを言っていることはわかってはいるものの、振り上げた拳の下げ所をなくしたまま、半ば自棄になったままパルフェは枠を作ることにした。
「お姉ちゃん! ご飯今日いらないから! 後で食べれるやつなんか適当に用意しておいて!」
「あーちゃん、お姉ちゃんはご飯作る人じゃないんだよ? お夕飯冷蔵しておくから、後でチンしてね?」
パルフェは冷蔵庫から無造作にエナドリを2本ほどつかむと、1本を開けながらリビングにいた姉に伝え、急いで部屋に戻っていく。
「あ、すーにもらったお土産はお姉ちゃん用だから一人で食べきっちゃってもいいからね!」
「うんー。すーこちゃんには後でお礼言っておくねー」
「じゃあ、改めて、無計画、アポなしの凸待ち! エクゼとあにまるずっ!のみんなにも告知したからきっと誰か来てくれるはず! 歌ってるから、適当に入ってきてね!」
:『横暴にも程がある』
:『ぽつぽつ配信してるんだけど、来てくれるのかな? 躊躇なく歌ってるし』
:『どっちかだけにしたらよかったのに、何でいっぺんにしたんだ…』
リスナーも呆れてはいるが、気持ちよさそうな歌うパルフェには残念ながら届いていないようだ。
「いつ終わるのかと思ってたけど、さすがに7曲も歌うとは思わないよね」
「じゃあ、途中でコメントとかくれたらよかったじゃないですか!」
「あいれのみんなもパルちゃんの歌を聞きたいだろうから、少し落ち着くまで待ってたんだけど、全然途切れないからさ」
1時間ほど歌い、次は何を歌おうかと悩んでいると、ようやく入ってきたシュデールに突っ込まれ、ようやく構造的な問題に気付く。
:『さすがシュデ隊頭。先駆者なだけある』
:『でも頭ぁ…あの時4時間歌い切ったの頭じゃないっすか!』
:『あにまるずの伝統だったのか…』
:『あの時シュデは酒飲みながらだったからみんな見て見ぬふりしてたんだよね…』
「あの時マネージャーにも言わずにやったから、後でめちゃくちゃ怒られたんだよね。パルフェちゃんも、後でメッセージ見ておいた方がいいよ」
「……やっば。告知しかしてなかったわ」
すること自体の告知はしていたものの、配信内容の変更や凸待ちなどに関してはマネージャーに報告はしていなかったらしい。
「ええと……いい時間だから、今日はこれくらいにしておくね? じゃあ、シュー姉、来てくれてありがと」
「ううん、いいんだよ。むしろ0凸阻止しちゃってごめんね」
「別に0凸なんて求めてないからっ!」
最後までコントのようなやり取りを繰り広げ、配信を終えた。歌部分を避けた切り抜きも作られ、リスナー的には好評だったようだ。
「じゃあ、一緒にごめんなさいしよっか」
「シュー姉がそういうときって、何か自分がやらかした時が多い気がするんだけど、あたしのこと隠れ蓑にしたりしないよね?」
「今日はそんなことしないよ。……やらかしたこと忘れてなかったら」
「やはり忘れてらしたんですね……。シュデールさん、ボイスの提出期限、過ぎてますよ?」
「シュー姉……?」
「え? ボイス? 記念グッズの分ならもう録ってOKもらったよね?」
「あれじゃない? あにまるずっ!の4周年のやつ。あたしは他の仕事とスケジュール被ってたからキャンセルさせてもらったけど」
「あ……。えっと、えっと。……これから頑張って録音します」
「そういうかと思いまして、明日の昼までは猶予をもらっていますので、出し直しがないようにしてくださいね? NGでも、そのまま出しますが」
パルフェはご愁傷様、と口の中で呟くが何かを言って自分が槍玉に上がっても困る。
「パルフェさんも、トラブルなので配信内容が変わるのは仕方ありませんが、凸待ちをするのであればちゃんとご報告くださいね?
シュデールさんのようなことが起こっても困りますので……」
「ボク、そんなに酷いことした覚えないんだけど」
シュデールは苦笑をするが、マネージャーからはスルーされ、さらに苦笑する。
「うん、シュー姉はそろそろちゃんとマネさんとか運営さんに謝った方がいいような……。あたしも同じことはしないように気を付けるけど」
「あれだね。長女として反面教師の役割を引き受けてるんだよ!」
「……シュデールさん、明後日までの締め切りの提出物もありますので、ちゃんと出してくださいね」
非常に冷たい声で伝えられた言葉に、シュデールは壊れた鹿威しのようにうなずくしかできなかった。
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よくわかる(可能性は微弱にある)VTuber(?)配信用語説明
マネージャー
VTuberの仕事を恙なく進めるためにスケジュール管理や社内調整などを行う人
社外とのやりとりなども多忙であったり、顔を出せないライバーの代わりに対応をしたりもする
企業勢だけでなく、個人勢も個人的に雇っている場合もある
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