第18話 ユウキ+おじさんの街作り
「こんばんは、個人勢の橘ユウキです!」
「どうもーおじさんだよー」
普段はおじさんはデフォルメが強いLive2Dの姿、なのだが今回はその姿のまま。つまり、3Dではなく、2Dの体。要は奥行きがなくペラペラなのだ。
「おじさんさ、ほんとにこのまま配信するの?」
「え? でもこれ、用意してもらったやつだよ? 動きのおかしさもないし、おじさん割と気に入ってるんだけど」
:『全部、おかしいんだよなぁ…』
:『ユウキくん、諦めてくれ…知っての通り、これがおじさんなんだ…』
:『いつも通りなんだけどさ、本当にいつも通りなんだけどさ。せめて、せめてコラボの時くらいはちゃんとしようよ…』
おじさんたちやユウキストは嘆くが、おじさんは意に介していない。ユウキもすっかりと諦めモードなのだが、おじさんだけは上機嫌のようだ。
「でも、まあ流石にこのままだと変なニュース記事にされちゃいそうだから、ちょっと待っててね」
「う、うん。ニュース記事にされるなら、多分もうなること確定なんだけどね」
おじさんの姿が一瞬消えると、今度は3Dの姿になって現れる。なお、おじさんは普段の配信ではLive2Dで行っているが、3Dの体もちゃんと持っている。つまり、最初からこの姿で現れることは可能だったのに、あえて2Dの姿で現れたことになる。
「まあまあ、ひとまずはいいとして。それにしても、ユウキくんのところの人、ずいぶん多いね?」
「参加してくれてる人? 多分、参加のタイミング考えても、おじさんたちだよ、半分近く」
Orbis Polarisに参加するリスナーは多種多様で、多くのアバターが2人を囲むようにしている。その中で、おじさんに見えるのはごくわずかで、若い女性のアバターが非常に多い。
ユウキのリスナーの男女比が2:8であることを鑑みても、増加した状況でも男女比は3:7程度で男性が若干は増えはしたものの、ユウキが見慣れないアバターはほとんどがおじさんたち、だろう。
「えー? まあ、ユウキくんに迷惑をかけないならいいんだけど。おじさんたち、参加するならちゃんと仕事するんだよ」
「おじさんがそれ言うかな? いや、ちゃんとやることはやってるのは知ってるんだけどね? うん……とりあえず、今回何作りたいんだっけ?」
「軌道エレベーター、と言いたいところだけど、資材的に無理らしいから、ひとまずはお店とかどうかなって。今できたのは、ユウキくんの拠点と、戸建ての家が4棟、マンションが2棟にゲームセンターだよね。
#ユウキクラフトでいい感じのゲームショップと駄菓子屋さんが上がってたから、ちょっといい感じのアパートと広場と一緒に作れたらいいかなって」
「思ったよりもずっとまともだった。でも。ゲームショップも駄菓子屋も、店の中のものってどうするのさ?」
「それにはちょっとアテがあってね。ひとまず、外観の分が問題なければ作っていこうよ」
得意げに笑うおじさんに釈然としないものを感じながらも、そうはいっても何だかんだ信用している相手からの言うことだ。失敗するならそれはそれでおいしいし、謎の方法を用いて理不尽に成功させることも正直目に見えている。そう考えると、今の時点で色々悩んでも仕方ないだろう。そう思い、ある程度の規模を作るであろうことを想定し、かつコラボであるためいつもよりも多めの人数に参加を求めることにした。
「うんうん。みんな頑張ってるね!」
「何かさ、回を追うごとに設計図がどんどん本格的になっていく、というかどうやったらこんな建物できるわけ?」
「そこはユウキくんのとこの人が優秀だからだよ。設計図はユウキストのみんなが用意してくれたものだよ?」
「それはありがたいんだけどね? 何か、高度すぎて俺には全然出来上がるまでのやり方とかがよくわからないんだよ」
BIMで設計された建物を、事前知識もほとんどない高校生に理解しろ、というのも酷だろう。何となく、検索をした結果ちゃんとした建物を作るときに使うもので、しっかりと設計をしたら実際の建物すら建てられる、ということは理解できたが、どれがしっかりとした設計で、どれがそうでないのかを判断しろ、と言われてもさっぱりだろう。
「それで、おじさん。内装どうするの? 棚しかないけど……」
「什器もしっかりしたのができたから、あとは中身だけ、だね。さて、それ用のアテなんだけど……ユウキくんに作ってもらおうかな」
おじさんはそういうと、手の上に何やら光る球を取り出し、ユウキに渡す。
「え? これ何」
「これは、何ていえばいいんだろ? まあ、Orbisだけで使える、拡張型複合機械、らしいよ?」
「らしいよ、って言われてもさ。おじさん知らないもの押し付けないでよ」
「おじさんが持ってても仕方ないからね。やれることは3つ。
1つ、見た目を変えることができる
1つ、これ自体を複製して、機能をそれぞれで利用することができる。
1つ、連携できる他のアカウントと紐づけることでそのアカウントに登録されてるサービスの利用ができる。らしいよ」
:『何その万能アイテム』
:『おじさんがわざわざデュープとかする意味もないんだけど、何でそんなもの持ってるんだ?』
:『ゲームショップには必須のアイテムなんだろうけど、それを駄菓子屋に使おうとする発想よ』
説明されてもいまいちピンと来なかったが、何か色々できるらしいというのはわかったようだ。
そして、過剰すぎるアイテムである、ということも。
「複製自体は簡単にできるみたいだけど、本当にもらっちゃっていいの?」
「うん。おじさんはそういうの使いこなせそうにないし、おじさん一人で街を作るっていうのもなかなかね」
「おじさんたち、猛抗議してるからやってあげなよ」
おじさんたちがここぞとばかりに『自分の配信でちゃんとやるべき』や『ユウキくんに甘えずに俺らを頼れ』などと書かれた看板をどこからともなく取り出し抗議する。
:『おじさんも、おじさんたちにファンサしてあげなよ…』
:『おじさんたち、配信告知にめちゃくちゃ反応しててはしゃいでたんだから、もう少し考えてあげて?』
:『楽しみにしてるんだ…おじさんがそういうの苦手なの知ってるけど、きっと少しくらいは一緒に遊んでくれることを…』
「ほら! 何か物凄く楽しみにしてるんだから、応えてあげなよ!」
おじさんたちが落ち込んだため慌ててユウキはフォローを始めた。
「ここで少しでも頷くと言質を取った、っていうのがおじさんたちだよ? ……今回はユウキくんに付き合ってもらったし、少しはするけどさぁ」
非常に面倒くさい、という態度を隠さずにおじさんはいう。酷い態度だ、とおじさんたちは手のひらを返し文句を言い始めるが、そこまで含めたポーズのため一連の挙動は実にスムーズだ。
とはいえ、おじさんとしては本気で面倒だと思っている節もあるが。
「ユウキくん、使い方はわかったかな?」
「多分、なんとなく。あとは、設置しながら使い方を覚えてみるよ」
出来上がったゲームショップに、いくつかのゲームや展示機を設置すると動かしてみてその機能を試すも、まだすごさがユウキには伝わっていないらしい。
すごいんだろうけど、よくわからないなーと呟くと、改めて出来上がった施設をおじさんと一緒に見て回る。
「なるほど。こうやってみると建物のすごさがよくわかるね。ユウキストのみんなすごいなぁ」
「でも、こっちの建物はおじさんたちが作ったみたいだよ?」
「おじさんたち、こういう時はちゃんとするからね。ふざけるのはおじさんとの時だけって約束だからね」
:『おじさんに対してならともかく、他に迷惑をかけるのはさすがにちょっと』
:『おじさんにならどれだけふざけてもいいけど、ユウキくん相手だし』
:『ユウキくんの配信でふざけるとかユウキストにも失礼だから』
約束をした、というよりもふざけるために約束を取り付けた、というのが正解なのだがユウキはそこまで知る由もない。
「おじさんたちのことはもういいから、そろそろ終わろっか?」
「おじさんたちの助けもあってだいぶ進んだからね。いい時間だし、次も手伝ってくれるならうれしいけど」
「おじさんが手伝える部分ってあまりないかなぁ? カゲトラくんとかの方がいい気もするけど、ユウキくんが必要なら呼んでよ」
「本気にするよ? シャー先、こういうリスナー参加系の企画苦手なんだよね。0proの方でも色々イベント期間らしいしさ」
「あー。カゲトラくん確かに最近忙しそうだよね。そのあたりは、いい感じにユウキくんが調整してくれたらいいからさ」
「はいはい。じゃあ、次回の時はまた手伝ってね」
緩やかな話し合いで配信は終了する。緩やかというか、適当なのはいつものことではあるが。
「おじさんお疲れ! さっきのほんとに貰ってよかったの?」
「おつかれー。いいんだよ、さっきも言ったようにおじさんが使えるようなものじゃないからね」
誰かに渡すことを条件に貰ったものだからね、とはおじさんの口の中だけで呟かれた言葉だ。
配信において変に炎上させるようなことを伝えるつもりはなく、とはいえ一番楽しんで使ってくれる人に渡したかったためユウキを選んだようだ。
とはいえ、ユウキが恥ずかしがるのはわかっているため、決して伝えることはないことではあるのだけれど。
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