第15話 ユウキの街づくり (2)

「こんにちはー。個人勢の橘ユウキです。前回の続きから始めてくよー」


 Orbisオルビス Polarisポラリスにログインをしたユウキの周辺には、前回を超えるリスナーが大量に待っていた。

 前回は時間が合わなかったリスナーに加え、自分の作ったものが推しの作る街に残る、ということが思った以上にウケたらしい。

 特に、区画内であれば基本的にはどんなものでも建てられる、という自由度がある。材料と設計図があり、かつ公序良俗に反するものだったり、それ以外の著作権や利用規約に引っかからないものであれば、という前提はあるが。

 ユウキが前回ログインしたのは1週間前。建物に変化はないが、いろいろな場所に草が生えたりしている。ただ、切り倒した木はそのままで、変化のあるものとないものとがあるようだ。


「じゃあ、今日は拠点の家具とかを作った後は、いくつか建物を作っていこうかなって思ってるよ。前に『#ユウキクラフト』で募集した分で、みんなの家を建てよう。そのあとは、何組かに分かれて、自由に作るとか、かな?」


 Orbis Polarisの中では、協力者、とされる配信者本人以外の建築などができる参加者の人数を決めることができる。前回はお試しでかつ、自分の拠点のみだったため10人だけにしたが、今回は自分の拠点と同時進行で建物を作ることにし、その人数は50人を上限としたようだ。ただ、参加者の抽選はordinaryオーディナリー treeツリー projectプロジェクトに存在する超高性能人工知能、AIによる自動決定だ。これまでのログイン履歴や参加履歴などを参加希望者の個人IDから読み取り、抽選の当たりやすさを自動調節し、より多くのリスナーが参加者に選ばれるよう調整されている。

 なお、建物に関しては入場制限があり、拠点では配信者や配信者が許可をしたもののみ、他の建物は基本的に誰でも自由に出入り可能だが、特殊な条件により一部の人のみ入退場可能にすることも可能だ。

 拠点に関しても、建物自体が完成するまでは建築に参加する人のみ入場可能で、それ以降は家具や小物を別の場所で作り、配信者自身がアイテム欄にその家具などを入れ、拠点に配置する必要がある。


「あれ? この釉薬、とか耐火レンガ、とかってどこで手に入るんだろ?」


:『ショップだよー』

:『メニューから移動できるショップで色々買えるよ! 他のユーザー作成のバザーの方じゃないから注意してね!』

:『ログインボーナスもあるから受け取っておいてね!』


 ユウキは言われたとおりにメニューを開き、ショップの項目を押す。すると、一瞬で目の前が変わり、石敷きの床、ガラスのショーケースが広がる店内に移動していた。

 店内を見渡すが、店員らしき人しかおらず、リスナーは来ていないようだ。


「あの、ここって……?」

「橘ユウキ 様、ですね。当ショップをご利用いただきありがとうございます。当ショップでは、Orbis Polarisで利用できる、様々な材料や家具などを販売しております。

 取引メニューを開き、右のウィンドウから購入されたい商品を左にドラッグいただき、数量を選択してください」

「は……はあ。えっと、あ、これか。釉薬に、耐火レンガ……あ、苗木とかも買っておいた方がいいのかな?」


:『苗木は育つのに時間がかかるのと、一度植えたら場所移動できないから後のほうがいいかも?』

:『ある程度街が発展するまでは木材を買い揃えておいた方がいいと思う!』

:『焼き物するなら炭とかも必要だよー』


 ユウキはアドバイス通り、もともと必要だと出ていた釉薬と耐火レンガの他に、木材や炭を購入していく。他にも面白そうな素材があるようだが、ある程度商品を見終わると、購入をして取引用のウィンドウを閉じた。


 ユウキが拠点に戻ると、リスナーはいくつかの場所に移動しており、素材の切り出しや加工、拠点で使う家具の製作や建物の建築場所の確保、など分担して作業を進めていた。

 分担自体はユウキは指示をした覚えがないため、リスナー側で決めたようだ。素材集めが一番多く人が割かれており、他は数人程度ずつだったため、優先順位を決めて作業を進めることに決めたようだ。



「かまど、ってこんなのでいいのかな? なんか、ピザ窯みたいだけど……」


 Orbis Polarisにおいて、物を作るには外部から取り込む設計図と、元から用意されているレシピ、の2つに分かれている。どちらも物を作る、という最終結果は同じなのだが、設計図は実際の建築と同じように1つ1つの工程を踏んでいくし、その分設計図自体の自由度は高い。その反面、どうしても作成の時間や仕上がりの品質に反映される。一方で、レシピでは素材さえ用意したらあとは自動的に作り上げられる。仕上がりの差はなく、設計図から作り上げるよりも短時間で仕上がる、という差がある。

 今回レシピで作り上げたかまども、ユウキの言う通り下に燃焼室、上に焼成室と分かれているタイプのもので、ぱっと見ではピザ窯にしか見えない。


:『ピザ窯で焼き物を?』

:『できらぁ!いや、多分燃焼温度そこまで上がらないような』

:『少なくとも、ピザ窯なら300~500℃くらいまでしか上がらないはず。釉薬を塗った陶器の焼成なら1000℃以上は必要だから、ピザ窯では無理だと思う…』


 詳しいリスナーからも焼けないんじゃ? という心配のコメントがあがるが、燃焼室に既定の木材を、焼成室に釉薬を塗ったコップを置き、それぞれの扉を閉めるとタイマーがポップアップされ、カウントダウンが始まる。


「火もつけてないんだけど、こういうところゲームっぽいよね」


 ユウキは苦笑気味に笑うと、カウントダウンを待ちながらも今出来上がっている状況を確認しようと、適当にぶらぶらと散策を始める。

 とはいえ、まだまだ作り始めたばかりの場所で、圧倒的に空き地の方が多い。いろいろな場所に雑多にあった林が一部なくなっていたり、石がたくさんあった場所が半分ほどもうなくなっていたり、と現実にはなかなか人力ではありえない状況を見ると若干引いたのか、無言のまま拠点近くまで戻った。


「えーと。あ、もう出来上がるみたいだね。出来上がったら蓋開けてもいいんだよね……? 出来上がってるね……薪も全部なくなってるんだけど」


:『マグカップ3つに対して、薪が大量に……炭すら残らないのはさすがにコスパが悪すぎるw』

:『レシピで作ったものは大体そんなものらしい。だから、ある程度時間がかかっても、大量に作るのなら設計図で窯を作った方が安定』

:『そのうちユキくんもろくろで例のポーズをするのかしら』


 コメント欄の反応を見て、エクゼの『#ユウキクラフト』でそういった窯などの設計図がアップされているか確認するも、今のところないらしい。そのうち誰かしらがアップするだろうから、それを待ってもいいだろうと判断し、ウィンドウを閉じた。


「これ、俺の配信画面にあるやつそのもののなんじゃ……」


 設計図を見た時はあくまでもそれっぽいかな? 程度にしか思わなかったが、実際に出来上がったものを見てみると、普段使用している配信背景に存在しているものばかりが出来上がっていた。


:『だって、設計図作ったの配信背景用意したふみのふさんだし』

:『小物系はふみのふさんか、new-comming02さんが大体用意してるから、ほとんどユウくんの配信部屋と同じものだよ』


「それは知ってたんだけど、ここまで一緒になるんだ……。もしかして、このために3Dデザイン化してくれた、とか?」


 配信画面に関しては、リスナーから提供を受けたものを使用している。時折小物を追加をしたりもするが、それらの素材を作成した2人が今回ほとんどのものを設計図として提供したらしい。


「後で改めてお礼言わなきゃ……。っと、じゃあ設置してくるね!」


 アイテム欄に出来上がった家具などをまとめて入れると、拠点の中に入っていく。拠点の中にリスナーは入れないため、Orbis Polaris内で見れる配信用の画面をそれぞれが起動させる。

 移動している間、少し照れ臭そうにつぶやいているユウキの姿に、あちらこちらからスクリーンショットを撮る音が聞こえてくるが、それは仕方のないことだろう。



「じゃあ、拠点はいったんこんな感じかな? って、設置してる間に建物出来上がってるんだけど……?」


 ふと窓から見えた4階建てのマンションらしき建物にユウキは驚いた。拠点に入る前はまだ何もなかったはずの場所に建物ができている。

 できる限り配信画面に忠実になるよう、設計図とは別に送ってもらっていた俯瞰図を見ながら設置をしていたのだが、それでも作業時間はせいぜい30分程度だろう。

 突貫工事、にしては仕上がりが粗い、というところは少なくとも部屋の中からは見当たらない。多少離れているため、もっと近寄れば別なのかもしれないが。


 すぐ近くに寄ってみたものの、やはり目立った粗は見つからない。どうやってこんな短期間で作り上げたのか、と思うが答えは出ない。自分の拠点と比べると、出来の良さは一目瞭然だ。

 とはいえ、自分の拠点は簡単に置き換え可能で実際に住むようなものではないため、どうこう言うつもりはユウキにはないのだが。


「じゃあ、出来上がったみたいだから……中の確認は次回のお楽しみ、ということでいいかな? この建物に関しては、建物の取り壊し以外は自由にしていいからね。


 Orbis Polarisでは、建物ごとの権限なども自由に配信者で設定が可能で、その機能を使い、今回作られた建物に関してはリスナーが自由に内装を決めたりすることが可能になった。

 また、ユウキがログインしていない時間も作業可能になったことで、急遽それ専用のSNSでのグループが立ち上げられることとなったが、ユウキは知る由もなかった。



 盛り上がりを見せるリスナーを横目に、配信を終わらせるといつものようにSNSの感想タグのチェックや、届いていたメッセージの確認を行う。

 また、配信終了後の感想を投稿し、改めて素材を提供してくれた人へ個別でお礼のDMを送ると、軽く見はしたがいったんスルーしたメッセージを改めて眺める。


 内容としては、コラボのお誘いだ。何度もコラボをしたこともあるし、何度となくお世話になっている相手のため、断るつもりもない。

 ただ、その内容は、2度、3度見てもわからない。


『おじさん、これどういうこと?』

『あ、ユウキくん配信おつかれさまー。見ての通りだよ?』

『え?宇宙エレベーターを再現しない?って言われてもちょっとよくわからないんだけど…?』

『うーん……ユウキくんあまりそういうトンデモ科学あまり詳しくないかー。OPで成層圏とか再現できてるかもわからないし、難しそうかなー』

『よくわかんないけど、オルビスのことでいいんだよね?普通にコラボじゃだめ?』

『一応、義理で何度か配信することになったからね。ユウキくんのところにお邪魔することにするね』

『義理って何のこと?w まあ、ほとんどまだ何もできてないけど、それでいいなら』


 おじさんから来ていたメッセージについて聞くが、やはり要領は得ず、少しモヤっとした気持ちを残しつつコラボをすることが決まった。

 世代間ギャップというのか、それともおじさんの持っている知識の偏りがすごいのか。ただ、おじさんとコラボをしたら毎回何かしらのことは起こるはず。

 そう考えつつも、いざとなったらシャー先あたりを巻き込んでどうにかしよう、とユウキは決めて、新たにメッセージを送ることにした。

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