第45話 都会の都市ダンジョン③スーツを着たゴブリンもいます

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 旧交を温め、ダンジョン探索の準備を終えた四人は、早速都会の都市ダンジョンにやって来た。

 一人や二人での探索は厳しいダンジョンだが、四人いれば探索は可能だ。そのダンジョンランクの高さから、決して楽な探索になることはないが、油断しなければ探索はできる。


「あたり一面、木造の街が広がっているな。不思議な感覚だ」


 近代化の進んだ都会に住んでいる蘇鳥には、木造の街並みに馴染みがない。知っているようで知らない景色に圧倒される。一軒家、住宅、商店、倉庫、診療所、小料理屋、事務所、駅舎など、木製の街並みが目の前にある。

 ちなみに、建物の中にモンスターが隠れていたり、トラップが仕掛けられているので、無暗に建造物に近づくのはオススメしない。

 だが、建物の中の壺やタンスを調べると、稀にアイテムを入手することができる。危険も大きいが、得られるものも大きい。モンスターを倒す実力、トラップを掻い潜る自信があるのなら、挑戦してみるといいだろう。


「確かに不思議な街だな。街はよく知っている構造なのに、その素材がコンクリートから木に変わるだけでこんなにも違うとはな」


 神倉も蘇鳥と似た感想を抱いたようだ。残りの二人はというと。


「すぐに慣れるよね」

「ふん、ダンジョンの中なんて、どこも不思議でしかない。不可思議さを感じるなんて当たり前だろうに」


 止木は何度も入っているので、その感想を。そして、月城はダンジョンが不思議なことが当たり前だとのたまう。

 四者四葉の感想を言い合いながら、ダンジョン探索が始まるのだった。


 華鳥楓月の一行は木造の街を進む。


「ーーモンスター発見。ターゲットは、スーツゴブリンだ。曲がり角の先にいるぞ」


 モンスター発見の報告が月城からもたらされる。

 月城の役割はサポート。仲間のステータスを上げたり、モンスターのステータスを下げたり、怪我をした仲間を回復することもできる。その他に斥候や罠の解除も行う。探索のサポートなら何でもござれだ。

 昨今、サポート役は役に立たいないとして、パーティから追放されるケースが漫画などで見られる。しかし、華鳥楓月では決してそんなことは決してしない。探索がスムーズに進むのはサポート役の月城のおかげだ。

 月城がいなくなると、探索が立ち行かなくなるだろう。いなくなるのは考えられない。


「スーツゴブリンか。角から出てきたところを、神倉の矢で牽制か? それとも先制攻撃か?」


 久しぶりの仲間との冒険に蘇鳥はセオリーが思い出せない。ダンジョンの知識は無限に増えても、実戦経験はわずかも増えていない。牽制すればいいのか、先制攻撃を仕掛けるのがいいのか、仲間に確認する。


「所詮はスーツゴブリンだ。ここでは雑魚モンスター。神倉が先制攻撃を仕掛けて、そのまま一気に叩けばいい」

「了解。んじゃ、始めるぜ」


 神倉は気負うことなく矢を番えて、その時を待つ。

 神倉の武器は今も昔も弓。遠距離攻撃がメインだ。


「いつでもいいぜ」

「こっちも準備できてるからね」

「じゃあ、呼ぶぞ」


 月城が挑発スキルを使用して、スーツゴブリンを呼び寄せる。

 角からスーツゴブリンがおびき寄せられた瞬間を狙って弓から矢が放たれる。矢は一直線にスーツゴブリンに向かう。

 神倉は現在も別のパーティで冒険者を続けている。兼業で冒険者をしている仲間が多いため、活動自体は少ない。

 しかし、活動が少ないのは何も仲間だけが理由ではない。神倉は慎重派なのだ。大幅な安全マージンがないとダンジョンに行かない。常に余裕をもってダンジョンを探索すると決めている。

 たとえ意気地なしと言われようと、安全には代えられない。特にその傾向は蘇鳥が怪我してから加速したらしい。

 だからといって弱いなんてことはない。蘇鳥が知っている頃に比べたら、技量は大きく向上している。


「ぐぎゃ」


 スーツゴブリンの左の太ももに矢が突き刺さる。何が起きたのか理解していない間に蘇鳥と止木がスーツゴブリンに近づく。

 スーツゴブリンは、名前の通りスーツを着用したゴブリンだ。都会でサラリーマンをしているゴブリンがいたら、こんな見た目だろう、というのを体現したモンスターだ。武器は万年筆で射程が短いが突き刺されると大怪我をする。防具はビジネスバッグだが、防御力は侮れない。都会に順応したゴブリンは油断していいモンスターではない。


「いくよー」


 止木が先に攻撃を仕掛ける。スーツゴブリンは咄嗟にビジネスバッグで防御しようとするが、止木のほうが上手だ。防御を掻い潜って本体に攻撃を当てる。


「ぐぎゃぎゃあああ」


 スーツゴブリンが悲鳴を上げ、さらに大きな隙をさらす。

 少し遅れた蘇鳥がその隙を見逃さず、追撃をいれる。武器が優秀なため、非力な蘇鳥でもダメージを与えることが可能だ。


「ぐぎゃぎゃ」


 止木に比べたら攻撃が浅い。だが、確実にダメージを与えている。スーツゴブリンは攻撃された近くにいる止木と蘇鳥に注意を向けるが、それは悪手だ。華鳥楓月は二人じゃない。

 月城がスーツゴブリンのステータスを低下させ、神倉は二の矢を放つ。

 スーツゴブリンは華鳥楓月の四人に翻弄され、まともな反撃もできない。一方的に攻撃され続け、そして最後の時が訪れる。


「輪ちゃん、あと一発で終わりだよ。決めちゃって」

「あいよ、これで終わりだ」


 止木が蘇鳥のためにわざわざ見せ場を用意する。止木の実力なら、そのままとどめを刺すことができるが、蘇鳥に譲った形だ。これも蘇鳥に冒険者としての楽しさを思い出してもらうための策だ。

 スーツゴブリンは光の粒子となって消え去るが、代わりに魔石を残す。


「ふぅ、終わったな。……久しぶりの華鳥楓月だったが、連携はなんとかなるもんだな。昔取った杵柄ってやつか?」

「そうかもね」

「ふん、お前以外は冒険者を続けていたんだ。戦い方を忘れるはずもなければ、連携力が落ちる道理もない。なんとかならないとしたら、それはお前の練度不足だ」

「手厳しいな。まあ、間違っていないけどさ」


 蘇鳥は確かに冒険者から離れていた。だが、ダンジョンそのものには関わっていたし、情報収集も怠っていない。何より蘇鳥以外の三人は冒険者を続けていたこともあって、久しぶりでも連携に不足はなかった。

 そう不足はなかった。でも、完璧な連携でもなかった。やはり、ブランクというのは侮れない。お互いがお互いにやりたいことを理解していても、微妙なすれ違いはある。

 この微妙な差が、今後の探索で響かないといいのだが……。


 その後も華鳥楓月の一行は都会の都市ダンジョンを順調に攻略していく。

 夜の街が似合うバンパイアホスト、死を予見する妖精のインフルエンスバンシー、赤・黄・青の三色の地獄の番犬シグナルケルベロス、自転車乗りの首なしの騎士サイクルデュラハン、こん棒の代わりに自撮り棒を持つセルフィーサイクロプスなどを討伐した。

 華鳥楓月の四人に敵なし。攻略を阻むモンスターはいなかった。


「……ふぅ、少し疲れたな。ここまでずっとモンスターと戦ってきたし、休憩するか。月城、いい場所はないか?」

「そうだな体力の少ない蘇鳥のために、休憩するか。そこのカフェはトラップがない。ついでに周囲も見渡せるからモンスターの襲撃にも気づける。休憩するにはちょうどいい」


 一言余計だよ、とは思ったが口には出さない蘇鳥。他の三人に比べて体力が少ないのは事実だからだ。


「確かにいいな。椅子もテーブルもあるし、休憩にはもってこいの場所だ。ついでに店内も探索して、アイテムが落ちてないか確認しよう。もちろん、慎重にな」

「それじゃあ、カフェにレッツゴー」


 四人は近くの休憩のため近くのカフェに向かう。


「ふぃーー。そうだ、みんなは魔力の残りは大丈夫か? 魔力ポーションはたくさん持ってるから、必要なら言ってくれ」

「ほう、魔力ポーションをたくさんとな。どんな手を使ったがしらんが、やるではないか」

「くれるというのなら、遠慮なくちょうだいしよう。安全に冒険するには、魔力は欠かせないからな」

「わたしはいいや、全然魔力が減ってないし。また、減った時にもらうね」


 冒険者にとって大事な魔力は魔力ポーションで回復させることができる。大変貴重なアイテムなので、普通はたくさん所持することはできない。

 しかし、蘇鳥はとある田舎の村から大量に仕入れることに成功した。今回の探索のために仕入れたものだ。

 神倉と月城がいたのは予想外だったが、だとしても魔力ポーションを出し惜しみするつもりはない。それに、二人に渡したとしても問題ないくらいに数を用意している。

 大量に魔力ポーションを用意できたのも、地道にコツコツダンジョン再生屋の仕事を頑張ったおかげだ。

 ……まあ、今はまったくダンジョン再生屋とは関係ないことをしているが。

 ともかく、一行はカフェで休憩をして英気を養う。それと、カフェの店内を散策したが、特に目ぼしいものは見当たらなかった。アイテムが見つかるのはかなり珍しいことらしいので、なくても仕方ない。


TIPS

スーツゴブリン

スーツを着ているゴブリン。眼鏡をかけており、知的な雰囲気が漂っている。

このゴブリン、ただのゴブリンじゃない。

ちなみに、メガネをかけているタイプとかけていないタイプがいる。違いは不明。武器は万年筆なので、射程はかなり短い。懐に入られるとヤバい。

防具はビジネスバッグ。

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