第27話 絵似熊市ダンジョン⑤ちぐはぐと魔石ガチャ
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銀色の世界を抜けるとどこまでも続く草原が広がる。
絵似熊市ダンジョンの二階層は草原である。
もちろん、ただの草原ではない。草原に生えている草が全部巨大なのだ。身の丈を超える大きさの草が所狭しと生えている。周りが巨大なので、相対的に自分が小人になったかのような感覚に陥る。まるで絵本の世界である。
「モンスター来るよ。コボルトが3だ。氷織ちゃん、やってみな」
「はい」
和奏が真っ先にモンスターの気配を察知する。そして、絵似熊市ダンジョンでの戦闘経験がない氷織に任せる。
今回、氷織はガチ装備で挑んでいる。
武器は氷河鋼をふんだんに使用した杖。防具は深海魔銀糸を使ったローブ。アクセサリにはアークデーモンが落とす核を使用したネックレス。
水海村でも採れる氷河鋼は氷系のスキルを強化してくれる。
深海魔銀糸はダンジョンの深海から採掘できる素材で、特殊な加工をすると糸になる。防御力が非常に高いので冒険者から人気が高い。ただし、需要に対して供給が間に合っていない。
アークデーモンの核は魔力運用の効率化ができる素材。加工したアクセサリを身につけるとスキルを効率的に使えるようになる。
どの装備も氷織が吟味したもので、氷織の戦闘力を飛躍的に高めてくれる。
ちなみに、どの装備も目が飛び出るほど高額である。実力のある冒険者の稼ぎは桁違いなのだ。
「来たっ、え!? ホントにちっちゃい、あっとアイスランス、アイスランス」
絵似熊市ダンジョン二階層は世界が巨大な代わりに、モンスターが極めて小さい。あまりの小ささにいつも冷静な氷織も焦ってしまう。
出現するモンスターは、コボルト、オーク、コブラというラインナップでどこも不思議なことはない。しかし、サイズが極めて小さのだ。手のひらに乗るサイズ、といえばどれくらい小さいかがイメージできるだろう。
そのため、絵似熊市ダンジョンのモンスターは新種として登録された。全部にコンパクトと名がついた。
コボルトはコンパクトコボルト、オークはコンパクトオーク、コブラはコンパクトコブラという具合だ。
「絵似熊市ダンジョンの二階層は、サイズが極めてちぐはぐな階層、か」
「氷織さん、二階層に出てくるモンスターは全部ランクが2です。アイスランスを使うまでもありません。見た目に騙されないでください」
蘇鳥が絵似熊市ダンジョンの二階層に思いを馳せている横で、氷織は柚木に注意されていた。
コボルトもオークもコブラも本来はもっとランクの高いモンスターだ。氷織は見た目に騙されて、使う必要のないアイスランスを使った。これは魔力がもったいない。
ダンジョンでは魔力がすべて、必要以上に魔力を消耗するのはよくない。
しかも、氷織はガチ装備で挑んでいる。アイスランスの威力も高まっている。明らかにオーバーキルだ。
「確かに、びっくりした。でももう大丈夫」
「それはよかったです。最初はびっくりしますよね。……ふう、これで先輩らしいことが一つできました」
先輩としての面目躍如といったところか。
「蘇鳥君、コボルトが魔石を落としたみたいだ。拾おう」
コボルトの死体は光の粒子となって消えてしまったが、そこには魔石が二つ残っていた。二つを拾ってみると、サイズが違うことが一目瞭然だった。
「うわ、本当にサイズが違う。まるで別のモンスターが落とした魔石みたいだ」
通常、同じモンスターが落とす魔石は同じものだ。
だが、絵似熊市ダンジョンでは同じモンスターを倒しても同じ魔石を落とすとは限らない。質がいいものを落とすこともあれば、質の悪い魔石を落とすこともある。
つまり、絵似熊市ダンジョンでは、モンスターを倒すと魔石ガチャが始まるのだ。
価値の高い魔石が出ればラッキー、価値のない魔石が出たらアンラッキーだ。
しかも、絵似熊市ダンジョンでは基本的に下振れる。質の高い魔石は滅多に出ない。
苦労して倒したモンスターから、しょぼい魔石しか手に入らないなんてこともあるのだ。絵似熊市ダンジョンを一般開放したら、冒険者を引退する人が続出するかもしれない。
ガチャには魅力もあるが、引退に引き込む魔力もある。絵似熊市ダンジョンの判断が難しい理由の一端だ。
「康安さんは魔石がガチャな理由に何か心当たりがありますか?」
「そうだね、まず第一に考えられる理由は同じモンスターに見えて、別種のモンスターである可能性だ。世の中には、見た目が一緒でも中身が全然違うモンスターもいる。擬態するためだったり、偶然だったりね」
それこそ、アルコールスライムみたいね、と康安は続ける。どうやら、林護町ダンジョンWにアルコールスライムが出るという情報を流した人物だと気づかれているようだ。
まあ、情報の出処がバレたところで問題ない。むしろ、康安の情報収集能力を褒め称えるべきだろう。アルコールスライムの情報を流したのはつい先日。しかも、大っぴらには流していない。普通は辿り着けない。
何かしらの、特別な情報網があるのだろう。
「別種のモンスターという可能性は確かにあり得ますね。で、実際どうだったのですか?」
康安はダンジョンを解明するために、多くの仮説を立て、多くの検証を行ってきた。既に検証を済ませていると当たりをつけて、続きを促す。
「モンスターを事細かに調べてみたけど、同じ種のモンスターだったよ。見た目も生態も一緒だったよ。僕の目が誤魔化されてなければ、の話だけどね」
康安は有数な冒険者だ。しかし、ダンジョンが生まれてからまだ20年しか経っていない。まだまだ分かっていないことは多い。康安の解析をのらりくらりと回避するモンスターがいても不思議ではない。
康安も所詮はひよっこ冒険者なのだ。
「他にも倒し方、生息地域、生まれてからの時間、食べ物なんかも検証したけど、どれも不発だったよ」
「そうですか。本当に謎なダンジョンですね、ここは」
そもそもダンジョンがある理由も不明だし、モンスターを倒すと魔石をドロップする理由も不明だ。そんな状態でモンスターがドロップする魔石が違う理由を解明するのは土台不可能な話なのかもしれない。
「よし、次に進みましょう」
戦闘を歩くのは氷織。最低限の威力でモンスターを倒し、魔力を節約する術を学ぶべく、実地で練習している。
先輩冒険者と人妻冒険者に見守られながら、着々と氷織は実力を上げるのだった。
TIPS
柚木るるな(ゆうき・るるな)
迷宮省の専属冒険者。大学を卒業したばかりの22歳。
大学時代から迷宮省の仕事をよく受けていた縁で迷宮省の所属に。
大学時代は冒険者活動に注力していたので、成績は推して知るべし。
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いつもお読みいただき、感謝感謝です。
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