第28話 絵似熊市ダンジョン⑥霧のように消えるモンスター

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 謎を抱えたまま、一行は絵似熊市ダンジョンの三階層に突入する。

 三階層は二階層の草原と打って変わって、荒野が広がっている。

 二階層は世界からしておかしな場所だったが、三階層は普通の荒野だ。西部劇の舞台になりそうな荒野が広がっている。ただしタンブルウィードという枯れた草が丸まったものは転がっていない。それにスイングドアの酒場もない。西部劇の舞台にするには足りない要素が多い。


「おー、荒野だ。……埃っぽい」

「はい、荒野ですね。でも、最初の感想が埃っぽい、ですか。まあ、氷織さんらしいのでしょうか?」


 荒野で風が吹くと風で土が舞い上がり、埃っぽくなる。咳き込むほどではないが、長居をすると喉がイガイガするかもしれない。


「三階層のおかしな点はフィールドではなく、モンスターにある。蘇鳥君、覚えているかね?」

「もちろんです。三階層に出現するモンスターはリザードマン、ニードルスベア、ポイズンスライムの三種類です。リザードマンは二足歩行するトカゲのモンスターです。ニードルスベアは全身に棘を持つクマのモンスター。ポイズンスライムは毒持ちのスライムです。ランクはいずれも3です」


 まだまだ浅い階層なので、出現するモンスターも強くない。氷織のアイスランスが炸裂すれば一発で倒せる。

 しかし、氷織はモンスターを倒せないだろう。そして、モンスターを倒せないのは他の護衛も同じだ。


「三階層のモンスターは倒すと霧のように消えるんですよね」

「その通りだ。通常、モンスターを倒すと、キラキラした光のエフェクトを残して、死体が消える。確率でアイテムなり魔石をドロップする。しかしだ、ここではそれが起こらない」


 モンスターを倒しても、死体が霧のように消えてしまい、そこには何も残らない。当然、魔石もアイテムもドロップしない。


「当たり前のことが起きていないから、三階層のモンスターは倒せていない、と考えられる」


 絵似熊市ダンジョンは不思議なことがたくさん起きているが、三階層以外のモンスターは倒すとキラキラした光のエフェクトを残して消える。通常の仕様だ。

 しかし、三階層だけそれが起きない。


「何かしら、隠された要素があると踏んでいるが、まだ未解明さ」


 絵似熊市ダンジョンは本当に謎が多い。


「リザードマンが来るよ。数は7。氷織ちゃん、準備はいい?」

「ん、いつでもオッケー」

「そう、じゃあやっちゃって」


 遠くからやって来るリザードマンの集団に氷織は一番得意なアイスランを放つ。所詮はモンスターランク3のモンスター。氷織の敵ではない。

 リザードマンは氷の槍に貫かれて、容易く絶命するのだった。

 そして、霧のように消えてしまう。


「おおっ! 本当に霧のように消えましたね。実際に見ると、全然消え方が違います」


 資料だけだとイメージできなかったが、実際に見てみるとモンスターを倒した時のエフェクトが全然違った。

 モンスターを倒していないと言われて納得できる。

 通常のモンスターは倒した、という実感が得られる。だが、ここのモンスターは倒した感触がない。まるで世界に溶けるかのように消えていく。


 その後、襲ってくるモンスターを氷織の氷の檻を作るアイスケージで閉じ込めて、観察してみたりもした。しかし、大した成果は得られなかった。


「まったくもって理解不能ですね、ここは」

「蘇鳥君はこの現象を説明する、何かを思いつくかね?」

「そうですね。ここのモンスターは本物ではなく、どこかの誰かが生み出した疑似モンスター、というのはどうでしょうか?」


 スキルによってモンスターを寸分の狂いなく生み出している存在がおり、冒険者たちはスキルで生み出されたモンスターと戦っているという考えだ。

 スキルで生み出されたモンスターは本物のモンスターとは異なる。霧のように消えるのも納得だ。

 スキルの中には召喚系のスキルも存在する。似たようなスキルをモンスターが使っていてもおかしくない。


「なるほど、いい考えだ。本物のモンスターではないという考えは調査した当初から考えられていた。そのため、モンスターを生み出すスキルを使う存在を血眼になって探したが、未だ発見の報告はない。少なくとも三階層にはいないみたいだ」

「そうですか。やっぱり俺が考えることなんて、他の人が考えてますよね」

「そう落ち込むんじゃない。こういった積み重ねが大きな発見に繋がるのだから」


 歴史を変えるような大発見というのは早々に見つからない。大抵は小さなことをコツコツと積み重ねて、大きな成果に至るのだ。先人と同じ考えを持っているということは、着々と基礎を学んでいるとも言える。

 同じ考えを持つことは決して悪いことではない。


「では、そろそろダンジョンから引き揚げようか」


 蘇鳥と氷織の二人がダンジョン調査の初日ということもあって、深くは潜らない。あくまでダンジョンに慣れるのが目的。

 本格的な調査は翌日以降となる。今回の調査でダンジョンの雰囲気が分かったので、次回の探索で活用できる。

 絵似熊市ダンジョンの調査期間は当分続く。調査を急ぐ必要はない。

 今後、木皿儀夫婦と合同でダンジョン調査をするとは限らない。予定が合えば今後も一緒にダンジョン調査をすることになる。

 蘇鳥だって個人的に調べたいことがあるし、毎日ダンジョンに潜ることもない。予定が合わないこともあるだろう。

 ただし、数日間は一緒に調査をする予定だ。

 木皿儀夫婦の知識は豊富だ。一緒に行動しているだけで、冒険者として強くなれる。二人からすると願ったり叶ったりなのだ。


 数日間、一緒にダンジョンを調査したが、新しい成果は得られなかった。蘇鳥と氷織は今までに確認されていることを実際に確認することができた。それ以上の成果はない。

 ダンジョン調査は予想以上に難航している。


TIPS

リザードマン

二足歩行するトカゲのモンスター。集団で行動することが多い。

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