第22話 林護町ダンジョン⑩報酬はケチられました
「でも、アルコールスライムなんて初めて聞いたよ。どうして知られてないの?」
「スライムと同じだからだな。見た目やら性能やらがスライムと同じだから、別種のモンスターだと気付かない、のが主な理由だな」
スライムもアルコールスライムも見た目は同じ。無色透明で、ぷにぷにもちもちしている。どちらも物理攻撃に強い耐性を持っている。
見た目が同じで、性能も同じ。倒した時に落とす魔石も一緒。
違うのは体内にアルコールを溜め込んでいるかどうか。冒険者がアルコールスライムと出会ってもスライムとしか思えない。
実際にはアルコールスライムのほうが若干透明度が高いが、一緒に並べて見比べでも見分けるのは難しいくらいに似ている。
冒険者の中にはモンスターの情報を得られる鑑定系のスキル持ちもいるが、スライムだと思っているモンスターにわざわざ使うことがない。普通の冒険者はアルコールスライムがいても見逃すのだ。
「だったら、スライム酒はどうなの? 美味しいお酒だったら広まってもいいのに?」
「アルコールスライムが珍しいモンスターで稀少だからなあ、スライム酒がそもそも流通してないんだよ。知名度が圧倒的に低い。そう、俺の仕事のようにな……はぁ、自分で言ってて悲しくなってきた」
どんなに美味しくても量が少なければ広まりにくい。ただでさえ少ないのに。知っている人が増えると入手する機会が減る。知っている人が教えたがらないというのもある。
故に知ってる人だけが知ってる状態なのだ。蘇鳥のダンジョン再生屋と同じく。
「それに、モンスターを食べるのを毛嫌いする層も一定数要るからな、モンスター食ってのも広がらない理由の一つだろうな」
動物のお肉は食べれても、モンスターがドロップする食材は食べたくない、と考えている人は少なからず存在する。そのような人は往々にして声が大きい。ネタを提供しないためにも、口をつぐんでいる人はいる。
物理的な限界、好事家の思惑などからアルコールスライムとスライム酒の存在は世の中に広まっていないのだ。
とはいえ、ネットでスライム酒を調べれば、一定数の情報は得られる。
蘇鳥だってスライム酒を飲んだことがなければ、現物を見たことがない。もちろんアルコールスライムを見たのも今日が初めてだ。
知られていないとは言っても、情報が完全に遮断されているわけではない。
蘇鳥のようにダンジョンの仔細を調べていれば、辿り着くこともある。
「なにはともあれ、依頼が達成できそうで欣喜雀躍でごわす」
「……ごわす?」
「気にしないでくれ。調子に乗っただけだ。突っ込まれると反応がむずい」
テンションが上がると、自分でも思いがけないことをしてしまうものだ。蘇鳥だってまだ大学生、そこら辺のコントロール能力は未熟だ。
「そうだ氷織、帰る前に少し調べたいことがある。周囲の警戒を頼む」
「うん、わかった」
蘇鳥はスマホを取り出して、情報を調べる。
ダンジョンは地球とは違う別世界のため、インターネットは使えない。しかし、電子機器は充電があれば普通に使える。
既にスマホにデータをダウンロードしていれば、そこから情報を調べることは可能だ。
蘇鳥が調べているのは林護町ダンジョンWのこと。このダンジョンでアルコールスライムが出現するか今一度確認しているのだ。
事前に確認しているとはいえ、確認漏れがあるかもしれない。今回得られた情報が本当に価値があるのか裏付けを取る。
「よし、問題ないな。ふっふっふ。今回はたっぷり報酬をもらうぞ」
事前にダウンロードした情報に林護町ダンジョンWでアルコールスライムが出現しないことが確認できた。情報の隅々まで確認したので、間違いないはずだ。
ダウンロード漏れがあって、そこにアルコールスライムに関する情報があったら水の泡だが、情報に関して公式・非公式問わず集めている。情報漏れはないと考えていい。
これから貰えるだろう報酬に蘇鳥は心を躍らせるのだった。
あまりに気持ちの悪い笑顔を浮かべてしまったので、氷織からは虫けらを見るような視線を向けられたが、大金の前では気にならない。
二人は地上に戻って来た。
林護町ダンジョンWで大きな成果を得たのだ。ダンジョンに長居する理由がない。依頼達成を報告する必要もあるので、そそくさと帰ってきた。
林護町に提出する報告書とアルコールスライムから取れたアルコール。これらを町役場の担当者に渡したら、依頼は終わり。後日、たんまり報酬が支払われることだろう。
「よし、これで今回の依頼は終わりだ。打ち上げに行くぞおー!」
「おー!」
「何が食いたい? ステーキか? 寿司か? それとも、焼き肉? 今日は何でもいいぞ。豪勢に飯を楽しむぞ」
本当に最後まで諦めなくてよかった。アルコールスライムがいるのといないのでは、今日の成果に天と地ほどの差がある。
豪勢な食事を楽しめるのも、氷織のおかげだ。美味しい料理を満腹になるまで食べよう。
パーッと使っても問題ないくらい、いい仕事をしたのだ。
なお、打ち上げは高級焼肉店で行われた。目が飛び出るほど高い会計だった。
シャトーブリアンとトリュフはやりすぎだったみたいだ。でも、とーっても美味しかったです。
●●●
後日談。
林護町には最大限の成果を提出したのだが、蘇鳥に支払われた報酬は微々たるものだった。交通費、宿泊費、打ち上げ費用、護衛料、諸々を考えると大赤字だ。あと、浮き輪代も地味に高かった。
林護町の予算が足りなかったのか、それとも担当者がアルコールスライムの価値が分かっていないか、どちらも違う。蘇鳥が大学生かつ実績のない相手だから、下に見られたのだ。
これくらいで十分だろ、と担当者がケチったのだ。
大学生が貰うには十分なお金だが、仕事の依頼としては安すぎる金額。さすがにこの対応に蘇鳥もキレた。
直接的に林護町に文句を言っても相手にされないだろう。少ないとはいえ、報酬は支払われている。依頼がそもそも出来高制なので、報酬が低くても仕方ないといえば仕方ない。
「あんまり、舐めるなよ」
蘇鳥は林護町ダンジョンWにアルコールスライムが出現することを、知り合いやSNS、ダンジョンストリーマーに流した。
特にお酒が好きな人に絞っているし、証拠も添付している。
スライム酒の人気は一部で爆発的に高い。全国各地から酒好きが林護町に集まるだろう。
すると、どうなるだろうか?
林護町のダンジョンはどこもかしこも人気がない。林護町のダンジョン担当者の仕事は少ないはずだ。しかし、全国から冒険者がやって来たら、仕事が爆発的に増えることだろう。
魔石の買い取り、魔道具の買い取り、アルコールスライム用の道具の準備、冒険者が宿泊する施設など、仕事は多岐に渡る。
しかも、やって来るのは全国各地の無類の酒好き。仕事が少しでも遅れようものなら、せっつかれるだろう。
当分、林護町のダンジョン担当者は眠れない日々を過ごすことだろう。
「仕事で忙殺されろ。残業、ざまぁ」
蘇鳥はアルコールスライムの情報提供者として、一部から謝礼を貰った。しかし、林護町ダンジョンで発生した赤字を黒くするには至らなかった。
でも、少しだけ溜飲は下がりました。
林護町とは今後関わることはないだろう。仕事の成果を正しく評価しない相手と関係を続ける気はない。たとえ、蘇鳥が弱小だとしても譲れないものは譲れない。
TIPS
スライム
ぷにぷにもちもちしたモンスター。あまり知られていないがゴブリンより若干強い。
大きさは30センチ程度。魔石の買取価格は10円。
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