いずれ魔王で冒険者。——だがただの骨
冰鴉/ヒョウカ
第1話 思考する白骨死体
(……暇だなぁ)
苦節数年。永遠と植物が成長して動植物がそれらを食らい、死体となった動物を虫やバクテリアが解体し、植物の栄養となってまた植物が成長するのを見続けていた。
うん、自然の雄大さを感じる。流石は大自然……食物連鎖を実験とかではなく、この目で見れる事になるとは。
(とか最初は感動したけどさぁ。俺いつ成仏するの?)
身体はすでに死んでる……と言うかもはや白骨化している。視界内にギリギリ収まっている手はすでに骨のみであり、筋肉も駄肉も皮も全て死体となって腐り落ち、虫どもに分解されて土へと帰った。
残った骨は蔓が巻き付き、もはやただの植物の支柱と化している。
(いやぁ、身体が腐り始めた頃は頑張って動こうとしたけど、もう諦めちゃったよね。動かないし)
多分筋肉どころか脳すら無くなってると思う。じゃあなんで今思考できるかって言うと……それは分からん。アレじゃない? 悪霊とかが意思を持ってるのと同じ。そもそも現代に幽霊が居るか知らないけど。
(……せめて人でも通ればなぁ。墓に入ったらどうなるんだろ? 一面石景色とか? うわぁ……精神壊れそ〜)
まぁ、人が通るのは絶望的なんだけどね。
俺の死因は登山中の遭難。友人に誘われて初心者ながらも登山に参加したんだけども、足を踏み外して転落……そして怪我と何処かもす知らない場所に来てしまった事によるパニックにせいでチョロチョロと動き回った結果……見事に捜索隊に遭遇する事なく死亡してしまった訳だった。
まぁ、父親も母親も既に他界してるから……唯一悲しむとしたら妹くらいか。いや、妹も最近は冷たかったしなぁ……案外居なくなって精々しているかもしれない。
悲しんでくれないのは寂しいけど……せめて妹は幸せに暮らして欲しいし、死んだ俺の事なんか忘れてくれても良い。
人は誰かが忘れたら完全に死んだも同じって言うけどさ……そんなの美談だよな。死んだら死んだ。それが全てだと思う。死人が心の中で生き続けれる訳無いでしょ。
(いや待てよ? もしかして今の俺って心の中で生きている状態なのか?)
とか馬鹿な事を考えてみたり。いやぁ〜、暇だからしょうがないよね。まだ移り変わる季節の景色を見ていられるから精神を保てているけど、土砂崩れでも起きよう物なら生き埋め……では無いな。死んでるし。
えーっと、埋葬される事になってしまうな。そうすると景色なんて見れなくなってしまうわけで……
(精神ぶっ壊れRTA始まっちゃうねぇ)
あーやだやだ。狂人になった俺とか想像したく無い。もう仏に成っても良いし天国に行ければ最高だし地獄でもばっち来いだ。久しぶりに痛みってのを感じてみたい。
……骨だけになってから急激に痛覚と味覚が鈍化してるんだよ。植物とか口の中に入ってきてるはずなのに味しないし。時々小動物に引っかかれるけど痛みないし。
その癖視覚と聴覚と嗅覚は生きてるんだよな。目の前で熊が殺戮の限りをしてたり、身体が腐り落ちていくのを見るのは辛かったし、動物の咆哮は死んでなお恐怖心を煽るし、犬っぽい奴が俺の頭上で糞をして行った時は臭すぎて最悪だった。
(おっ、ウサギだ。やっぱこの山にいる奴はデカいよなぁ)
もはや人間の子供くらいのサイズはあるんじゃないか? 熊も蛇も虫もデカかったし、食べ物と酸素が豊富な山の中ってやっぱり巨大化しやすいんだろうな。
(あっ、ウサギがこっちに寄ってきた)
どうやら俺こと白骨死体に気付いたらしく、ピョンピョンと俺に向かって飛んできた。いやぁ〜可愛らしい動きに対してデカいし顔が獰猛。山育ちなだけあって相当荒々しいんだろうな。
『ガジガジガジガジガジガジガジ』
(……コイツ、俺の骨を齧ってやがるな?)
犬っぽいやつにも何度かやられた事ある骨齧り。別に痛く無いから良いんだけどさ……此処の山に住んでる奴らってデカいし力強そうだしで骨を折りそうで怖いんだよ。
せっかくなら死体くらいは人の姿を保っておきたいじゃん?
『ガジガジガ——ペッ……』
ウサギは何度か俺を齧ってから期待外れみたいな顔をして唾を吐いた後に何処かへと行ってしまった。前言撤回、やっぱ全然可愛らしく無いわアイツ。犬どもはもっと興奮した様に齧ってくれて居たぞ。アイツらの方がまだ嬉しかったわ。
……いや待て、なぜ俺はもっと齧られようとした? 馬鹿なのか?
「——〜、でさー……」
「ぅ——ぇなっ! それなら向かう所敵な——ぇか」
「これな……格も待ったなしだ——」
(ん? 人の声? しかも余裕があるっ! マジで⁉︎ ここんなよく分からん場所に人が通るのか!)
俺の骨を持ち帰ってもらうまたとないチャンスっ! だが最大限に俺を見つけてくれるように祈るしかない……だって動けないんだし。
おーい! 此処に死んでる人が居ますよー! 是非持ち帰って家族の元で葬式をしてくれると有り難いですー! 成仏したいのでっ!
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