第58話 次元浄化会議

並行世界との邂逅から、一ヶ月が過ぎた。


掃除士学校の大会議室では、生徒たちが忙しく準備を進めていた。今日は記念すべき日——両世界の代表者による、初の次元浄化会議が開催される。


「シン、そのテーブルをもう少し右に」


翔太が指示を出しながら、会場を見回した。


国際会議にふさわしい、厳粛でありながら温かみのある空間。東西の文化を融合させた装飾が、来訪者を迎える準備を整えていた。


「翔太くん」


エリーゼが、大きなお腹を抱えながらゆっくりと近づいてきた。臨月が近く、歩くのも少し大変そうだ。双子の重みが、彼女の動きを慎重にさせている。


「無理しないで。座っていて」


「大丈夫よ。この歴史的な瞬間を、この子たちにも感じさせたいの」


お腹をそっと撫でながら、エリーゼは微笑んだ。


双子は、まるで期待に応えるように、お腹の中で元気に動いている。


「もうすぐだね」


翔太が優しくエリーゼの肩を支える。


「今日の会議が終わったら、ゆっくり休もう」


「ええ、でも今は皆で頑張らないと」



北方の次元ゲート地点。


かつて空間の裂け目だった場所は、今では安定した門として固定されていた。ルクスが守護精霊として、その周囲を警戒している。


各国の代表者が続々と集結してきた。


ヴェリディアン王国からは、翔太とエリーゼを筆頭に、リクとミーナが参加。新婚の二人は、今日も息の合った様子だ。


「緊張するな」


リクが剣の柄を握りしめる。


「別に戦うわけじゃないでしょ」


ミーナが苦笑しながらたしなめる。


煌国からは、リン・シャオが技術者団を率いて到着した。


「今日は歴史的な一日になりますね」


リン・シャオが優雅に一礼する。彼女の後ろには、煌国の最新技術を記録する書記官たちが控えていた。


「東の大陸の代表として、しっかり記録させていただきます」


ノーザリア王国からは、クリスタル姫がオブザーバーとして参加していた。


「氷の国も、次元の技術に興味があります」


彼女の瞳には、純粋な知的好奇心が輝いている。


ルクスが突然光を放った。


「時間です!ゲートが開きます!」


定刻ぴったり。空間が波打ち始め、ゲートが静かに光り始めた。


《次元ゲート開通》


銀色の光が広がり、向こう側の景色が見え始める。



ゲートから最初に現れたのは、翔太Bだった。


前回よりも正装に身を包み、威厳ある佇まいで一歩を踏み出す。


「お久しぶりです、もう一人の私」


翔太が手を差し出すと、翔太Bがしっかりと握り返した。


「一ヶ月、長かったです」


続いて、向こうの世界の代表者たちが姿を現した。


「紹介させてください」


翔太Bが振り返る。


「大気浄化師のソラです」


美しい女性が優雅に一礼した。長い黒髪と、知的な瞳が印象的だ。


《ソラ Lv.150【大気浄化師】》


「水質管理官のミズキです」


理知的な青年が前に出る。眼鏡をかけた真面目そうな風貌。


《ミズキ Lv.140【水質管理官】》


「土壌再生士のツチヤじゃ」


年配の男性が豪快に笑った。長年の経験が顔に刻まれている。


《ツチヤ Lv.130【土壌再生士】》


全員が揃ったところで、翔太Bが重大な情報を告げた。


「実は、我々も他の次元の存在を感知しました」


一同がざわめく。


「他の次元?」


翔太が身を乗り出す。


「はい。少なくとも、あと3つの並行世界があります」


ソラが詳細を説明し始めた。


「第3世界は、魔法が存在しない純粋科学世界。第4世界は、精霊と人間が共生する世界」


「そして」


翔太Bの表情が険しくなる。


「第5世界は、システムが暴走した荒廃世界です」


重い沈黙が流れた。


「暴走?」


リクが尋ねる。


「はい。制御を失ったシステムが、世界を破壊し続けています。人々は地下に逃れ、かろうじて生き延びている状態」


ミズキが付け加える。


「第5世界は危険です。介入が必要かもしれません」


エリーゼが心配そうに呟いた。


「そんな世界があるなんて...」


「だからこそ」


翔太Bが真剣な眼差しで言った。


「今日の会議が重要なのです」



掃除士学校の大会議室。


円卓を囲んで、両世界の代表者たちが着席した。生徒たちも壁際に並び、歴史的瞬間を見守っている。


翔太が立ち上がり、会議の開会を宣言した。


「第1回次元浄化会議を開催します」


まず議題1:次元間の安定化。


「各世界の浄化技術を統合することで、次元の安定性を高められるはずです」


翔太Bが提案する。


「我々の環境浄化術と、こちらの概念浄化を組み合わせれば...」


「次元浄化という新しい概念が生まれる」


翔太が理解を示す。


「実演してみましょう」


二人の翔太が立ち上がり、会議室の中央へ。


翔太が【創世の掃除士】の金色の光を放つ。


翔太Bが【環境調整王】の銀色の光を放つ。


二つの光が混ざり合い、美しい虹色の輝きを生み出した。


《新技術:次元浄化を習得》


「すごい...」


シンが目を輝かせてメモを取っている。他の生徒たちも、熱心に観察していた。


議題2:技術交流の具体化。


ソラが立ち上がった。


「では、大気浄化の技をお見せします」


彼女が手を挙げると、室内の空気が一瞬で清浄化された。埃一つない、完璧な空気。


「これは...呼吸が楽になる」


リン・シャオが感嘆の声を上げる。


「煌国の技術と組み合わせれば、砂漠地帯の開拓も可能かもしれません」


ミズキも水質浄化の技術をデモンストレーション。コップの濁った水が、瞬時に透明になる。


「医療にも応用できそうね」


ミーナが興味深そうに観察する。



議題3:第5世界への対応。


会議の雰囲気が重くなった。


「システムの暴走を止めるには」


ツチヤが口を開く。


「根本的な再構築が必要じゃろう」


「掃除士の概念が鍵になるかもしれません」


翔太が提案する。


「破壊ではなく浄化。システムを消すのではなく、正常化する」


ソラが頷いた。


「救援隊の編成が必要ですね」


「各世界から精鋭を選んで」


翔太Bが続ける。


その時、リン・シャオが手を挙げた。


「提案があります」


全員の視線が集まる。


「東西南北、各大陸で次元監視所を設置してはどうでしょう」


「監視所?」


「はい。次元の異常を早期に発見し、対処するための拠点です。煌国の技術も提供します」


「素晴らしい提案だ」


翔太が賛同し、皆も頷いた。



会議が佳境に入った時、突然エリーゼが苦しそうな表情を見せた。


「あっ...」


お腹を押さえて、顔をしかめる。


一瞬、場が凍りついた。


「エリーゼ!」


翔太が駆け寄る。


「大丈夫...ちょっと、張っただけ」


エリーゼは気丈に微笑もうとするが、額に汗が浮かんでいる。


グレイスがすぐに駆け寄り、診察を始めた。新婚のヴァルガスも心配そうに見守る。


「前駆陣痛ですね」


グレイスが優しく告げる。


「もうすぐです。今日明日ということはないけれど、安静が必要です」


翔太Bが心配そうに立ち上がった。


「会議は中断しましょうか?」


「いえ、続けてください」


エリーゼが気丈に答える。


「これは歴史的な会議。私のせいで中断なんて」


ソラが優しく微笑みながら近づいてきた。


「私も母親です。お気持ちは分かります」


ソラがエリーゼの手を取る。


「でも、無理は禁物ですよ。赤ちゃんが一番大切」


女性同士の温かい交流に、エリーゼの表情が和らいだ。


「ありがとうございます」


「双子と聞きました。大変でしょうけど、きっと素晴らしい子たちになりますよ」


ソラの優しい言葉に、会議室の雰囲気も和やかになった。



エリーゼが少し休憩している間に、会議は最終段階へ。


次元浄化協定の締結。


「月例交流会を正式化します」


翔太が宣言する。


「緊急時の相互援助、技術・知識の共有も含めて」


「賛成です」


翔太Bも同意する。


カリキュラムも確定した。


「掃除士学校に『次元浄化科』を新設します」


カールが提案する。彼も今では、レオと共に幸せな新婚生活を送りながら教鞭を執っている。


「交換留学生制度も」


レオが付け加える。


「ソラ様には、特別講師として月1回お越しいただければ」


「喜んで」


ソラが快諾する。


第5世界への調査隊については、3ヶ月後に合同で編成することが決まった。


「各世界から精鋭を選抜しましょう」


ミズキが提案する。


「準備期間も必要ですから」


協定書が作成され、両世界の代表者が署名した。


歴史的な瞬間だった。



会議が終了し、使節団が帰還の準備を始めた。


「次回は我々の世界へお越しください」


翔太Bが招待する。


「環境浄化の実際をご覧いただけます」


「楽しみにしています」


翔太が答える。


ソラがエリーゼに近づいた。


「お大事になさってください。次回お会いする時には、可愛い赤ちゃんたちに会えることを楽しみにしています」


「はい、ありがとうございます」


シンが名残惜しそうに言った。


「次回は絶対、環境浄化術を教えてくださいね!」


「約束しますよ」


ツチヤが豪快に笑う。


使節団がゲートへ向かう。


「では、また一ヶ月後に」


翔太Bが手を振る。


ゲートが閉じる瞬間、銀色の光が一瞬輝いた。



夜、翔太とエリーゼは自宅のベランダで静かに寄り添っていた。


エリーゼは楽な姿勢で椅子に座り、大きなお腹を優しく撫でている。


「今日は大変だったね」


「でも、素晴らしい会議だった」


エリーゼが微笑む。


「次元を超えた友情が生まれたわ」


「もうすぐだね、子供たちが生まれるの」


翔太が優しくエリーゼのお腹に手を当てる。


「次元を超えた友人もできた。この子たちが生きる世界は、もっと広くなる」


お腹の中で双子が動いた。まるで父親の言葉に応えるように。


「元気いっぱいね」


エリーゼが幸せそうに笑う。


「きっと、次元を超えて活躍する子になる」


「掃除士として?」


翔太が冗談めかして言うと、エリーゼも笑った。


「何になってもいいわ。健康で、優しい子に育ってくれれば」


二人の穏やかな笑顔が、月明かりに照らされていた。


新しい時代が、確実に始まっていた。


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【ステータス】

翔太 Lv.200【創世の掃除士】

HP: 99999/99999

MP: 50000/50000


並行世界代表

翔太B Lv.200【環境調整王】

ソラ Lv.150【大気浄化師】

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