第24話 紺の衣に宿る願い

私が魔法学院に入学したのは、本来より2年早い13歳だった。

このエルヴァリア大陸最高峰と名高いヴァルディア王国魔法学院。


――早く両親に追いつきたい、一日でも早くギルドに貢献できる力をつけたい。

その一心で門を叩いた。


集うのは各地から選び抜かれた秀才や貴族の子弟ばかり。

年上で場慣れした者が大半を占め、授業の合間の雑談にも入り込めず孤立感は常に背中に貼り付いていた。


それでも成績を出し続け、飛び級を果たす。

でもそれは同時にさらに周囲との距離を広げることでもあった。


授業が終われば一人で食堂へ向かい、休日は図書館で魔法理論をひたすら読み漁る――

確かにこの場所での学びは自分を格段に強くした。

けどその日々は、常に孤独ととなり合わせだった。



そして――卒業の日。

久々に故郷の門をくぐる。


まず視界を埋めたのは、勢いそのまま飛び込んでくるカレンだった。

「おかえり、マリアーっ!」


力いっぱい抱きしめられ、反射的に苦笑する。

「ちょ、カレン……!服、しわになる!」

「いいのいいの!」


その後ろから、大きな影――父オルグが現れた。

無言のまま、がっしりとした腕でマリアの肩を抱き寄せる。

短く「よくやったな」とだけ言う声に胸の奥が熱くなる。


ギルド《暁の翼》の仲間たちは長机いっぱいに料理を並べて待っていてくれた。

焼き立ての肉、香草の香りが漂うスープ、焼き菓子まで揃っている。


「おー、すっかり大人っぽくなったじゃねぇか!」

「よっ、天才魔導師さま!」

冷静な顔を装っていたオルグもその目元はわずかに緩んでいた。


賑やかな笑い声と懐かしい匂いに包まれながら、胸の奥がじんわりと温かくなる。

ここが――自分の居場所だ。



ひとしきり盛り上がりが落ち着いたころセリアが席を立ち、手にした包みを差し出してきた。


「これは卒業祝い。そして――あなたを守るための服よ」

セリアの声は誇らしさと、ほんの少しの心配を含んでいた。


包みを解くと、深い紺に銀糸で雷や風を思わせる模様が縫い込まれたワンピースが現れた。

光を受けて刺繍がきらりと揺れ、小鳥や花の意匠が隠れるように散っている。

生地はしっとりと手に馴染み、触れるたびに温もりが返ってくる。


「この刺繍は、私とお父さんの願い。どこにいてもあなたが帰ってくる道を見失わないように」


「……すごく、きれい……」

言葉が震え、気づけばその場で服を抱きしめていた。


袖を通すと、肩のラインも裾の長さもまるで自分のためにあつらえたようにぴたりと合う。

鏡に映るのは学院に入った頃よりも少し大人びた自分だった。


ーーああ、帰ってきたんだ。

そう思った瞬間、学院での日々が胸に浮かぶ。


魔法学院で得たものは確かに大きかった。

膨大な知識、研ぎ澄まされた魔力制御、そして自分を支える自信。

けれど、その代わりに失ったものもある。

同じ時間を笑い合える仲間、弱みをさらしても受け止めてくれる居場所。


今こうして再びその温もりの中にいる。

――もう、あの孤独には戻らない。

学院で得た力は今度こそ仲間のために使う。


張り詰めていた糸が切れ、マリアはセリアの胸に飛び込む。


「……ただいま、母さん」

声は震え、涙が頬を伝った。


セリアは何も言わず、その背を包み込むように抱きしめ続ける。

傍らでは、オルグが静かに腕を組みわずかに口元を緩めていたーー

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